お粗末な性転換手術により、股間にアングリーインチ(怒りの1インチ)が残ってしまったロックミュージシャン・ヘドウィグの魂の叫びをスクリーンに活写した映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001年)。カルト的人気を誇るこの作品の、原案および監督・脚本・主演を務めたジョン・キャメロン・ミッチェルの最新作が『パーティで女の子に話しかけるには』(12月1日公開)です。

ミッチェル監督といえば、これまで『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』や『ラビット・ホール』(2010年)など境遇の違う人々が出会い、苦難を乗り越えていく姿を優しく描いてきました。最新作でもそんなミッチェル監督らしさが十分に発揮されています。

パンク好き少年と宇宙人の少女。異色の2人が織りなす“ボーイ・ミーツ・ガール”

(C) COLONY FILMS LIMITED 2016

1977年のロンドン郊外。パンクロックに傾倒している内気な少年エンは、ある日古い一軒家で開かれているパーティにもぐり込むと、遠い惑星からやってきたという不思議な美少女ザンに出会います。彼女の言葉に半信半疑ながらも、2人は奇妙なパーティ会場から抜け出し、急速に惹かれ合っていきます。

ザンが宇宙人だろうとウソつき地球人だろうと、もはやエンには問題ありません。なぜなら出身地がどこであろうと、女の子はいつだって男の子にとって理解不能な“異星人”なのです。くすんでいたエンの世界が色づきはじめる初々しさや疾走感、そして思わず胸がキュンとしてしまう愛おしさ。宇宙人という突飛な設定でありながらも、この“ボーイ・ミーツ・ガール”ムービーは、現状への鬱屈や初恋など、誰しもが経験したことがあるような青春の甘酸っぱい残像を映しています。

ファンタジックな世界観を体現した若手実力派女優エル・ファニング

(C) COLONY FILMS LIMITED 2016

ミッチェル監督の作品には、心に傷を負った主人公が向き合う現実の辛さがしっかりと描かれる一方で、どこかおとぎ話のような、救いのある優しい世界が広がっています。ニール・ゲイマンの自伝的短編集「壊れやすいもの」の一編を原作としている本作も同様です。ミッチェル監督は、舞台となった1970年代イギリスのリアリティと、ゲイマン・ワールドが醸し出すファンタジー要素が反響するような世界観を心掛けたのだそうです。

そしてそのファンタジックな世界観を体現したのが、ヒロインであるザンを演じたエル・ファニングの見事な演技でしょう。「あなたの肌、バターの匂いがする」と突然エンの顔をなめたり、好奇心旺盛でいろんな物に興味を示してはしゃいだり、彼女の姿は、浮世離れしており宇宙人という言葉がしっくりきます。エキセントリックな行動と無垢な笑顔も最高にキュートで、エンが心惹かれてしまうのも分かる気がします。

映画内に散りばめられたパンク・スピリッツ

(C) COLONY FILMS LIMITED 2016

本作では、70年代のパンク・シーンを彩った「ダムド」、「ザ・ホモセクシャルズ」などのヒット作や隠れた名曲を使用し、パンクブームの1970年代後半のロンドンという時代の背景を描写しています。しかし、時代を描く以上に、作品に色濃く反映されているのが、そのスピリットの部分です。

「パンク」とは、メインカルチャーなど普遍的とされるものに対する、独自の生き方を意味するカウンターカルチャー。世間一般ではマイノリティとされるものです。性的少数者であるミッチェル監督は、自身をモデルとする『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で、主人公の心情を説明するかのように、パンクな要素を盛り込んだりと、これまでも作品にそのスピリットを散りばめてきました。

そもそも本作は、1977年のイギリスが舞台。国中がエリザベス女王の即位25周年に沸く中、そんなものに全く興味がないエンという設定が作品内でのパンクの重要性を物語っています。また、本作にはオリジナル楽曲が多数登場しますが、既存の曲でなく、楽曲を一から作るところからも、この作品でパンクの持つ意味をあらわしているのではないでしょうか。

そんな楽曲の中で、とりわけ心に残るのは、エンとザンがライブで歌った「Eat Me Alive」です。実験的な音楽を奏でるアメリカのバンド「Xiu Xiu」のジェイミー・スチュワートとミッチェル監督が共同で製作したこの楽曲は、大人の都合に振り回される2人の反抗心を象徴しています。

世界に衝撃を与えた監督デビュー作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で、ままならない現実への反抗心と“失われた片割れ=愛”を探し求めるヘドウィグの崇高な魂が、熱い想いと感動を呼んだミッチェル監督。そのヘドウィグのスピリットを継いだ本作『パーティで女の子に話しかけるには』は、刺激的で切なくて、でもどこか懐かしくて甘酸っぱい青春サブカルムービーに仕上がっています。

(文/足立美由紀・サンクレイオ翼)