荒川弘の世界的人気コミックを実写映画化した『鋼の錬金術師』(ハガレン)。多くの読者がそれぞれに思い入れを持つ作品だけに、漫画のキャラクターを生身の俳優が演じることに対しては、様々な意見があるだろう。だが、主人公のエド役を演じた山田涼介(Hey! Say! JUMP)の勇姿は、一見に値すると断言できる。過去の出演映画での演技も踏まえながら、彼の力量を考察していきたい。

過去の出演映画でも、確かな存在感と演技力が炸裂

まずは、2015年3月に公開された初主演作『映画 暗殺教室』。『鋼の錬金術師』同様、人気コミックの映画化だが、ここでも“アイドルとしての山田涼介らしさ”を抑制。人当たりはいいが、暗殺能力に長けている少年を見事にかたちにした。続編『暗殺教室〜卒業編〜』(2016年)でも、その純度をキープしている。

同年11月に公開された、伊坂幸太郎原作の『グラスホッパー』(2015年)では、凄腕の殺し屋を、アイドル的なオーラを完全に封印して演じた。そのソリッドかつ凄みのあるキャラクター造形は卓越しており、名優、浅野忠信との激闘シーンも、浅野に勝るとも劣らない存在感を放っていた。

今年公開された『ナミヤ雑貨店の奇蹟』では、年少の村上虹郎、そして寛一郎と顔をあわせた。幼馴染みの不良少年3人組のひとりをワイルドかつイノセントなたたずまいで妙演、チームプレイでの勘の良さを存分に感じさせた。

映画俳優・山田涼介の集大成的な演技が味わえる『鋼の錬金術師』

『鋼の錬金術師』では、これまでの出演作4本の集大成とも言える演技を披露しており、彼の持ち味やワザがあますところなく活かされている。

まず、キャラクターになりきること。これは『暗殺教室』はもちろん、小説原作の『グラスホッパー』や『ナミヤ雑貨店の奇蹟』でも変わらない。役をスクリーンに表出させるために、最善を施している。

そして、見た目と内面とのギャップを効果的に使い分けること。人間誰しも、見たとおりではないものだが、その落差こそがキャラクターの味わいになるように山田は演じる。たとえば『暗殺教室』の主人公が小柄なのに暗殺に長けていることや、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の少年が殺伐とした中に温かみを隠し持っているといったことにつながる表現を『鋼の錬金術師』でも展開している。だが、見どころはそこだけではない。

山田はこれまでの4作品では封印してきたアイドル性を、『鋼の錬金術師』では遺憾なく発揮している。おそらく主人公エドというキャラクターを伝える上で、自身のアイドル性が有効な手段だと山田は考えたのだろう。映画なのだから俳優然としてふるまおうなんてチンケな固定観念に自閉することなく、使えるものはなんだって使う。そんな潔さが、山田涼介の芝居からは感じ取れる。

フェミニンと少年性、奇跡の同居

『鋼の錬金術師』の主軸となるのは、亡き母に逢いたい一心で、禁断の「人体錬成」に挑んだ幼き兄弟・エドとアル。実験は失敗し、弟のアルは肉体すべてを失ってしまう。山田が演じる兄のエドも右腕と左脚を失い、鋼製の義肢となる。物語は、アルの身体を取り戻す可能性を秘めた「賢者の石」を追いかけて奮闘するエドの闘いを描く。

映画の冒頭から、アクション・シーンが繰り広げられるのだが、山田は冒頭で繰り広げられるアクションを、スタントなしですべてをこなしたという。しかし、重要なのはそこではない。注目すべきなのは、あくまでもエドというキャラクターに徹し、エドが不自然なく画面におさまるように、アイドルとしてのきらびやかなイメージをある程度援用している点だ。どことなくフェミニンな顔立ちをしている山田は、エドの特徴の一つである金髪がよく似合う。映画の冒頭から、山田が見事にエドとして画面に収まっている。そのことにより、観客は「漫画作品の実写化」である本作を、最後まで違和感なく観続けることができる。

前半では、山田が持つ愛らしさが前面に出ているが、後半では一転して、男らしさをじわじわと感じさせていく。その配分の推移が絶妙で、山田涼介流の演技のグラデーションを追いかけていくだけでも、時間はあっという間に過ぎる。

考えてみれば、『グラスホッパー』にしろ『ナミヤ雑貨店の奇蹟』にしろ、役者としての資質はかなり骨太だ。だから、フェミニンにも思えたキャラクターが、中盤あたりから俄然、男の子っぽく(男、になりきらないあたりも的確である)なっていく過程もまったく違和感がないのだ。これは、周到な計算がなければできないことであり、山田という俳優が、己の能力をとにかく冷静に見極めていることを痛感する。

映画『鋼の錬金術師』の終盤で息を呑むのは、何度か映し出される無言の表情。決意と哀しみ、前進する勇気とすべてを受け入れる諦念。異なる感情を同時に、力むことなく観客に体感させるサイレントな顔つきは、漫画の秀逸な一コマのように、私たちの脳裏に刻まれるだろう。映画俳優としての山田涼介の力量を、映画『鋼の錬金術師』を通してぜひ目の当たりにしてほしい。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)