ポップでかわいらしい世界観が多くの女性たちから支持され、ガーリーカルチャーの旗手として人気を集める映画監督ソフィア・コッポラ。彼女が手がけた新作映画『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』は、2017年のカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞した話題作です。

この作品はトーマス・カリナンの小説『The Beguiled』を題材にしたスリラー。1971年にクリント・イーストウッド主演で『白い肌の異常な夜』として映画化されていますが、ソフィア・コッポラ版では、彼女ならではの女性目線で描いた作品となっています。本作には、過去にソフィア・コッポラ作品に出演した、キルスティン・ダンスト、エル・ファニングが、ストーリーの鍵を握る重要なキャラクターを演じています。

ソフィア・コッポラの作品には、人生に葛藤するという人間味を持ちながら、どこか無機質で儚い少女性が印象的なキャラクターが数多く登場します。そこで今回は、キルスティン・ダンスト、エル・ファニングが演じたキャラクターを含め、ガーリーな世界観の中で輝きながらも、最後は見たものにある種の儚さを感じさせるキャラクターの魅力に迫りたいと思います。

美しく無垢な少女たちが壊れていく儚さ…『ヴァージン・スーサイズ』(1999年)

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』で純粋な教師のエドウィナを演じるキルスティン・ダンストは、ソフィア・コッポラの監督デビュー作品『ヴァージン・スーサイズ』で、近所でも話題の美人姉妹の1人で金髪・碧眼の美少女ラックスを演じました。

ラックスは真面目で厳格な両親のもとで育った女の子ですが、当時流行していた音楽を普段から聴いているなど、普通の年頃の女の子として描かれています。そして、トリップという同じ学校に通うプレイボーイとの距離を縮めていくのです。

最初はトリップに興味がなかったラックスが、徐々に彼に惹かれていく姿はとてもガーリーに描かれています。教室で話しかけられた時にトリップを意識しながらも、そのそぶりを見せないようにしている時の表情や、感情を爆発させて、玄関で見送ったトリップを追いかけてキスをするシーンなどに、10代の少女の瑞々しさが映し出されています。

しかし、そんなトリップとの甘い時間は長く続きません。初めての夜を過ごして目覚めた後、彼の姿はそこになく、さらにラックスが門限を守らなかったことで、彼女を含む姉妹は、両親によって自宅に軟禁されてしまうのです。ラックスは失恋による心の痛みから、複数の男子と自宅の屋根で情事を行い、その姿を近所の男子達に目撃されるようになります。その後、姉妹たちが選ぶ悲しい選択までの束の間の儚さ、そして美しく無垢だったものが崩壊していく様子。長編監督デビュー作にして、強烈な印象を与えた作品です。

少女が少女のまま終わるという儚さ…『マリー・アントワネット』(2006年)

ソフィア・コッポラの3作目となる『マリー・アントワネット』では、キルスティン・ダンストがオーストリアからフランスへと政略結婚のために送られた14歳の王女、マリー・アントワネットを演じました。

作中でマリー・アントワネットは下着さえ自分で選ぶことができないなど、自国とは違うフランス王室のしきたりに戸惑いながらも、それに染まることを強要される少女として描かれます。彼女は夫であるルイ16世との夫婦生活がないため、子供を身ごもることはありません。そのことが原因で周囲から陰口を叩かれ、ストレスから豪華なパーティーや煌びやかなファッション、ギャンブルなどへの浪費癖が目立つようになります。

このような場面におけるマリー・アントワネットは、ポップでカラフルな白昼夢のような世界に住む存在であり、自由奔放な年頃の女の子の1人として描かれています。ゴージャスなドレスやお菓子に包まれ、仮面舞踏会で恋に落ちる姿は、ある種の同年代の女性にとっての夢の姿に思えます。しかし、それはマリー・アントワネットが抱える不満や不安を物で満たすしかなかったことの裏返しで、承認欲求のようにも感じます。

ソフィア・コッポラが描くガーリーさでコーティングされた、少女特有の儚さをもつキャラクターが、同作でキルスティン・ダンストが演じたマリー・アントワネットです。フランス革命によって城を追われるという、最後の破滅的な結末からは、彼女が少女のまま消えて無くなくなってしまったような印象を受けます。

非現実的な時間もいつかは終わるという儚さ…『SOMEWHERE』(2010年)

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』では、周囲を出し抜いてまでコリン・ファレル演じる負傷兵マクバニーを誘惑する、早熟な少女アリシアをエル・ファニングが演じています。彼女はソフィア・コッポラの過去作『SOMEWHERE』にも出演しており、主人公のジョニーの娘クレオを演じました。クレオはソフィア・コッポラ作品の主要キャラクターの中でも11歳と若く、ローティーンのかわいらしい女の子。作中では自堕落で空虚な生活を送る有名俳優のジョニーとの交流が描かれます。

ジョニーはどこか人生に対して冷めているキャラクターで、女遊びや浪費で日常の退屈をごまかしているような男です。そんなジョニーとは対照的に輝いているのが、クレオの年相応のかわいらしさです。父親とテレビゲームを楽しみ、貸切られたプールに驚き、ジョニーが彼女のためにジェラートのすべての味を注文したことに大はしゃぎする……。

クレオとジョニーの関係は基本的には親子関係ですが、ジョニーのために料理をするシーンでは少し大人びた姿を見せるなど、時折2人が恋人のように見えるシーンもあります。そのため、この作品では等身大でありながらも、その場に留めておけない、いずれは消えて無くなる“少女”という存在の儚さが感じられるのです。やがて、クレオは元の生活へと戻っていきますが、数日だけの非日常から日常に戻るという部分も観るものに儚さを伝えてきます。

その他のソフィア・コッポラ作品では、『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)ではスカーレット・ヨハンソン演じるシャーロット。彼女は、言葉の通じないどこか現実味のない東京を訪れますが、その中でも京都や生け花の姿に現実感を覚えるなど、現実と虚構の狭間を行き来する姿が印象的です。また『ブリングリング』(2013年)では、当時のポップカルチャーの担い手だったセレブを相手に、高級品の窃盗を繰り返す少女たちの姿が描かれました。

『ロスト・イン・トランスレーション』の異世界で感じる孤独と、そこから生まれる誰かと繋がりたいという気持ち。『ブリングリング』のセレブ所有の高級品を盗むことでファッショナブルになり、承認欲求を満たそうとする少女。これらは、ソフィア・コッポラ作品らしい孤独と儚さに通じるものがあると言っていいかもしれません。

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」』/2018年2月23日(金)TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開/(c)2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』でソフィア・コッポラは、新境地となるスリラーに挑戦しています。"少女がもつ儚さ"とは少し離れたように思えますが、ニコール・キッドマンらが演じる美女たちのリボンや、フリルが施されたドレス、淑女然とした言葉遣いなど、その世界観は健在です。それを踏まえた上で描かれる緻密かつ鋭い人物描写が、嫉妬と欲望が渦巻く女性たちのダークな一面を赤裸々に表現しています。過去作で描いてきた、どこかプラスチック的で無機質さを感じる要素を発展させたような耽美な雰囲気に注目です。

女性の園に迷い込んだ男性をめぐり、愛憎劇を繰り広げる登場人物たち。ソフィア・コッポラがこの舞台をどのようなスリラーに仕上げたのか、ぜひ注目してください。

(文/Jun Fukunaga@H14)