2017年はクリストファー・ノーラン監督作『ダンケルク』を筆頭に『ヒトラーの忘れもの』、『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』など、数多くのヒトラー&ナチスドイツが登場する作品が日本で公開されました。さらに、この12月だけでも3本が公開&待機中です。1933年~1945年のおよそ12年間に渡り、ヒトラーが独裁政権を敷いた時代にまつわるエピソードは実にさまざま。その中には、一般にはまだあまり知られていない、とある勇敢な女性の物語も……。

300人ものユダヤ人をナチスから守った女性がいた!?

(C) 2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.

『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』(12月15日公開)は、第二次世界大戦下に、一般人でありながら300名ものユダヤ人の命を救った勇気ある女性の姿を活写した感動の実話です。

主人公アントニーナは、女性らしい衣装に身を包み、経営する動物園内を自転車で颯爽と走り回る、はつらつとした魅力を備えた女性です。出産までも立ち会うほど手塩にかけた動物たちや、愛する夫ヤンと可愛い息子と暮らす彼女のいわばパーフェクトとも言える日常が、ドイツのポーランド侵攻により脆くも崩れ去ります。

多くのユダヤ人がゲットー(ユダヤ人強制居住区)に連行されていく中、ヤンはアントニーナに、閉鎖された動物園でユダヤ人を匿うことを提案。ナチスドイツの占領下にありながらも、アントニーナは命をかけて彼らを守ることを決意するのですが……。

人が人として扱われない現実。史実ゆえのやるせなさ…

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少女への性的暴行や、有無を言わせない道端での銃殺など、映画は、ゲットー内でのドイツ人兵士による無慈悲な行いを情け容赦なくに映し出していきます。

孤児院で暮らす子どもたちと老先生は、劣悪な環境での生活を余儀なくされ、終いには絶滅収容所へ。死への片道キップであることを覚悟している老先生と共に、何の疑いもなく列車に乗り込んでいく子どもたちのあどけない顔に、思わず切ない気持ちにさせられてしまいます。そんな鋭い痛みを伴う悲しみが押し寄せるのは、これらの映像が単なるフィクションではなく、歴史的事実の再現だから。人が人として扱われない理不尽な状況、それが戦争なのだと思い知らされます。

動物と人を愛する心優しき女主人の信念と負けない心

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園内にナチスドイツ兵が常駐するという油断できない状況でも、兵士たちに乱暴されたユダヤ人の少女に、服と食べ物を与えて励まし続けたり、ピアノを演奏して動物園の地下に匿ったユダヤ人たちに警戒の合図を送ったりと、逞しくユダヤ人を支えていくアントニーナ。さらには、ヒトラー直属の動物学者ヘックの、次第に大胆になっていく好意を上手く受け流すなど、知性をフル活用し、危機的状況を乗り越えていきます。

夫を支える良き妻だった彼女が、一瞬たりとも気が抜けないさまざまな危険をくぐり抜けていくうち、信念と負けない心を獲得していく姿には、胸が熱くなるものがあります。ナチスドイツによる占領という悲惨な現実でも不屈の精神と圧倒的な母性を体現した実力派女優のジェシカ・チャスティンの熱演はさすがの一言です。

これまでにも、軍需工場の生産力としてユダヤ人を雇い、1000人以上もの命を救ったドイツ人実業家を描いた『シンドラーのリスト』(1993年)、ユダヤ難民に“命のビザ”を発給する諜報外交官を題材とした『杉原千畝 スギハラチウネ』(2015年)など、ユダヤ人を救った偉人たちの秘話は映画化されてきました。至誠を尽くし、ユダヤ人を救ったアントニーナも彼らと通ずるところがあります。

しかし、現代史研究家の白石仁章氏は、「杉原がドイツの友好国の外交官、シンドラーがドイツ人であったのに対し、夫妻はドイツとソ連により分割されたポーランド人であった。彼ら自身が虐げられる立場にあったことを見落としてはならない」と、夫妻がより困難な立場で救済にあたっていたことを、本作に寄せたレビューの中で語っています。

自らの危険を顧みず、ナチスドイツと戦った可憐な一人の女性の生き様が描かれた『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』。悲惨な現実にもめげずに生きる知られざる一般人の物語は、多くの人の心に突き刺さるはずです。

(文/足立美由紀・サンクレイオ翼)