12月23日公開の『マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年』は、イギリスの世界的シューズブランド「マノロブラニク」のデザイナー、マノロ・ブラニクの魅力と仕事を追うドキュメンタリー映画です。

ファッションブランドにスポットを当てた映画では、華やかな世界を垣間見ることができる一方、想像以上に厳しい仕事の世界も描かれています。ファッションの巨匠たちは、その厳しい局面を乗り越えてきた強者ばかりです。今回は、ブランドの危機を彼らはどう乗り越えてきたのかを、映画より紐解いていきます。

ファッションショー直前なのにドレスがない!…『ディオールと私』(2015年)

急な前任者の解雇で、フランスの老舗ブランド「ディオール」のデザイナーに就任したラフ・シモンズ。通常なら半年はかかるコレクションの発表会の準備を、わずか2カ月ほどでやらなければならない……。そんな緊迫した状況を掘り下げたドキュメンタリー映画です。

ラフが迫る発表会に焦りを見せる中、直前の大事な試着だというのに服が1着もないという事態が起こります。実は、職人たちのリーダーが客の依頼でニューヨークへ行ってしまい、作業が思うように進んでいなかったのです。

ラフは余裕のなさからか、その現実を受け止めきれず、いらだちを爆発させてしまいます。これによって職人たちとの関係は、ピリピリしたものに。しかし、自分のイメージする最高に美しいものを、どこまでも追求していくラフの姿に、職人たちはプライドを刺激され、次第に協力的になっていくのです。何度、服がゼロから作り直しになっても、徹夜してでもあきらめずにやり抜く。すべての服が完成したのは、発表会の開始ギリギリのことでした。

ショーは最高潮のまま幕を下ろします。そして、最後にラフは職人たちと共に、感極まって涙を流すのです。理想のためならあきらめない、同じ目標に向かっていく熱意のあるトップ。それを支える周りの人とのチームワークが、いざという時には必要になることを、同作品は教えてくれます。

精神病、酒、薬に溺れてボロボロ…『イヴ・サンローラン』(2014年)

『イヴ・サンローラン』は20世紀のファッション業界をリードし、“モードの帝王”とよばれたイヴ・サンローランの生涯を描いた作品です。イヴ・サンローランを演じたピエール・ニネは、若き日のイヴそのもの。その役作りに大いに貢献したのが、イヴの生涯のパートナーであった男性、ピエール・ベルジェだといいます。

イヴは若い頃からデザイナーとしての才能を認められ、弱冠21歳にして、クリスチャン・ディオールの後継者となります。最初に手掛けたファッションショーも見事に大成功させます。ピエールと出会って暮らし始めたのは、その華々しいデビューのすぐ後でした。

しかし、順風満帆に見えたイヴでしたが、戦争により戦地に赴くこととなります。そして、過酷な戦地で精神を病んでしまい、帰国後に精神病を理由にディオールを解雇されてしまうのです。その後、イヴは実業家であったピエールの後ろ盾で、自身のブランド「イヴ・サンローラン」を設立。ピエールと共に、順調に大きくしていきます。

しかし、世界中から脚光を浴びるようになったイヴは、ピエールとの仲もぎくしゃくし、次第に孤独を感じるようになっていきます。酒、タバコ、薬に溺れ、デザイン画も描けないほどになってしまうのです。デザイナー生命すら危ぶまれたその時、彼を救ったのは、やはりピエールでした。

悪い恋人や仲間たちと無理矢理に縁を切らせ、イヴをファッションの世界へと引き戻したピエール。つねに側でイヴを守り、イヴの「生涯の男は君だ」という言葉どおりに、イヴが亡くなるまで側に寄り添ったそうです。どんなにボロボロになっても、大きな愛をくれる人が側にいたことが、イヴ・サンローランの才能を支えたのですね。

恵まれない生い立ち、そして恋人の死…『ココ・アヴァン・シャネル』(2009年)

現在では知らない人はいないであろう、世界的なブランド「シャネル」の創始者ココ・シャネル。恵まれない生い立ちでありながら、彼女が徐々にその才能を開花させていく様を描いた作品が『ココ・アヴァン・シャネル』です。20世紀を代表する、唯一無二の女性デザイナーを、オドレイ・トトゥが演じています。

ココは姉との2人暮らしで、夜は酒場で歌をうたい、昼間は仕立て屋で洋服を直す仕事をしていました。ある日、ココは酒場で出会ったエティエンヌ・バルザンと身分違いの恋に落ちますが、バルザンは身分の低いココとの恋に積極的ではありません。しかし、どんな場面でも自分の着たいものを着るココ。目新しい彼女のファッションは、行く先々で注目を浴びます。そしてココのまわりには、その才能を認める人が徐々に集まっていくのです。

そんな中で、ココが次に恋に落ちたのはバルザンの仲間、ボーイ・カペル。彼はココの才能を見抜き、2人は愛し合うようになります。しかし、ボーイは富豪の娘との結婚が決まっていました。ココはボーイを愛するが故に「一生結婚しない」と宣言し、愛人となります。そして、ボーイもその思いに応え、ココの店へボーイが出資をします。このままの関係が続くはずでしたが、ボーイは突然の交通事故でこの世を去ってしまうのです。

デザイナーとしての成功が見えてきた矢先、自分を見出し、支えてくれた最愛の人を失ったココ。その後はただひたすら仕事に打ち込み、生涯結婚をしませんでした。彼女の功績は今でもたたえられ、まさに伝説のデザイナーとなっています。悲しみが大きかったからこそ、必死に仕事に打ち込むことで、それを乗り越えられたのかもしれません。

『マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年』/ 12月23日(土・祝)新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー/(C)HEELS ON FIRE LTD 2017

「セックス・アンド・ザ・シティ」のキャリーや故・ダイアナ妃が履いたことでも有名な、世界的な靴ブランド「マノロブラニク」。『マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年』は、その天才的デザイナーのマノロ・ブラニクの人物像や仕事ぶりに迫るドキュメンタリー映画です。

不思議なタイトルは、彼の幼少時代のエピソードから。生まれ故郷のスペイン・カナリヤ諸島でマノロ少年は、チョコレートの包み紙でトカゲの靴を作ることに熱中していました。しかし、靴の作り方を学ぶ機会が得られず、30歳近くになってからようやく機会を得て、そこから必死に学んだのだそう。天才だと言われる人物も、実は人知れず努力しているのです。

履けば誰でも虜になってしまうという、まさに魔法の靴は、イタリアの工房でひとつひとつ手作りされているといいます。本作はそんな靴ができていく過程を、一風変わったマノロの思考プロセスや、デザイン画の段階から見られる、貴重な機会となるでしょう。

(文/サワユカ@H14)