文=高村尚/Avanti Press

紗倉まなは、めちゃくちゃ可愛いかった。その上で、向き合うとちゃんと地に足がついていることも感じさせる。でも、ゼリー状のヴェールに包まれているかのように、うかつに触れられない、いや、触れちゃいけないと思わせるオーラも持つ。少し特別な24歳。そんな第一印象のもと、インタビューは始まった。

小説『最低。』で作家デビューしたセクシー女優・紗倉まな。この処女小説は映画化され、11月25日に公開となった。年に1000人以上がセクシー女優デビューしているが、その女の子たちは特殊な存在ではなく、それぞれに普通の日常がある。紗倉まなは、「そこを描きたかった」と、映画『最低。』が上映された東京国際映画祭の記者会見で語った。作家デビューするからには、書くことが得意だったかと問うとそんなことはないとさらりと答える。

「私、承認欲求が人一倍強いんだと思うんです」

紗倉まな(以後、紗倉):「専属契約している会社の元社長だった高橋がなりさんに、最初、“文がめちゃくちゃ。笑っちゃうくらい下手だ”と叱咤激励していただきまして(笑)。まず文を書くことに慣れることが大事で、勢いで書くのではなく、どう読ませるかを考えなきゃダメなんだなとアドバイスいただいたことが原動力になっています」

『最低。』11月25日より角川シネマ新宿ほか全国順次ロードショー
(C)2017 KADOKAWA

作るからには見てもらう、書くからには読んでもらう。プロの仕事にはそれが必要なのだと小説『最低。』には書かれている。

紗倉:「私、承認欲求が人一倍強いんだと思うんです。だから、届けたいものを描くという気持ちはもちろんですが、伝わったときに返ってくる反応や幸福感も実感したいんですね。全てがその気持ちに繋がっているのかもしれません」

書くきっかけとなったのは彼女自身の入院だった。時間ができたことで、頭の中にあったものを文章にしてみたのだという。

紗倉:「私、人とコミュニケーションを取るのが苦手で、どういうふうに話したら伝わるのか分からなくて放棄しちゃうことがあったんですね。でも学生時代はレポートの多い学校で、考察やら何やら書かなければならなかったんですが、それは意外と好きで、書くこと自体は苦じゃなかったんです。でも読んでもらう人がいるわけじゃないし、発信しても何になるわけでもないので、特に意欲的だったわけではなく……。ある時、体調を崩して入院して時間ができまして、“もしかしたら届くかもしれない”という気持ちになって、ストレスを吐き出すようにがぜん書き始めたというか」

なりたかったセクシー女優になった!その後は?

お父さんの部屋にあったAVを発見し、それを見た時から紗倉はセクシー女優になりたかったのだという。小説を書くというのは、どの段階から人生設計に浮上したことなのだろうか?

紗倉:「書けたらいいなというのは、理想の人生設計にありました。例えば、デビューした後は、これくらいの時期に違う活動もしたいなとか。でも学生時代はまだ、AVの世界に入れるかどうかもわからないところからのスタートでしたので、そこまで考えていたわけではありませんが」

紗倉まな 撮影=伊藤さゆ

“工場萌え”趣味を公言する紗倉は、高等専門学校の環境都市工学科出身。そのまま進めば橋やオリンピックの施設など、公共建築物の建設に関わっていたかもしれない。

紗倉:「確かに。卒業生の就職一覧には、私みたいにアダルトメーカーに進んだ人は多分いなかったと思うので(笑)。当時の私は、本当に橋を作ったり、インフラ整備していた可能性の方が高かったし、リアルでした」

だからなのか。紗倉の文章には、建物やその配置、景色の奥行など、設計パースを見るような描写を見ることができる。

紗倉:「嬉しいですね。私、“醒めてるね”ってよく言われるんですが、小説も、登場人物に近づいてその感情を情熱的に書くより、俯瞰的なほうが好きなんです」

女性の名前で4章に分けられた小説『最低。』。そこには、何か自分で生み出していく、変えていこうとするヒロインが描かれている。

紗倉:「主人公たちは皆、“何か行動を起こさないと”という焦燥感を持っています。それは私も感じていたことで、“いつかは”と思いつつ、“でもどう出したら”と思っていました。摸索する時間は長かったかなと思います」

 小説の舞台の多くが北海道である理由とは?

最初の章に登場する“彩乃”。彼女の出身地が釧路だったり、彩乃の所属するストイックなアダルトメーカー社長・石村が旅するのが網走だったりと、北海道の描写が印象的だ。読んでいると、奥行きのある、ターナーの絵のような風景が目に浮かぶ。それを背景に、結果として登場人物の人となりが浮き上がる仕掛けとなっているが、なぜ北海道なのだろう。

紗倉:「人より自然の風景が書きたくなってしまうというか(笑)。もともと暑がりなので、寒いところが好きで、東北や北海道に一人旅に行くことが多かったんですが、以前、桜木紫乃(北海道出身の作家。著書に『起終点駅 ターミナル』など)さんの小説を読んで、いつか一人で北海道に住んで雪かきして過ごそうってくらい(笑)、どっぷり北海道の魅力にはまってしまって!  北海道には、全てを寒さや雪で閉じ込めてくれるような美しさがあるような気がして。その時、網走、小樽、札幌などいろいろなところで見た景色を、いつか物語に取り込みたいと思っていました」

『最低。』11月25日より角川シネマ新宿ほか全国順次ロードショー
(C)2017 KADOKAWA

映画では、北海道の風景は。千葉に置き換えられている。

紗倉:「出身は千葉なんですが、……千葉に悪いんですけど、思い入れがなくて。生まれ育った土地なのに自分が居座っていい場所じゃないように思えるんです。地域慣れはしてるけど、北海道のほうが安心しますね」

小説のヒロインたちもそうだ。それぞれが“ここに居てはいけない”という思いを持っている。紗倉さんを含め、なぜここではいけないのか?

紗倉:「私は、生まれ育った場所より、自分で見つけた場所の方がより安心して過ごせる気がするんです。地元に疎外感を持つなんてあまりないことかもしれませんが、私の中では……。嫌なことがあったとか、そういうわけではないんです。“本当に自分の住みたいところ、居て落ち着く場所は自分で見つけないと”と思うんですよね」

『最低。』11月25日より角川シネマ新宿ほか全国順次ロードショー
(C)2017 KADOKAWA

小説では、どの章でも“親”と“AV”が対比で描かれる。それぞれが何を表現しているのか考えてみると、“親”は最初から手にしていたもの、“AV”は自分が選んだもの、もしくは選んだところに辿りつくための経由地ということなのだろうか。

紗倉:「そうですね。とはいえ、家族は切り離せないものですよね。でも、それがすべてではないと考えています」

ヒロインたちは、もともと持っていたものをかなぐり捨て、厳しくも自分の道を選ぶ。わが身を思うと雲泥の差だ。なぜそんなに自分を追い込むのか、と思わなくもない。

紗倉:「本当に。でも、私自身は創造と破壊を繰り返すことで、ようやく自分を見つけられた気がするんです。あ、大した人生じゃないんですけどね(笑)。踏み出して、得て、それをまた手放して、それを繰り返した末に、そこに居たい理由を見つける。その時、初めて破壊せずに居続けられるというか。ずっと同じ心持ちでいることの難しさ、儚さが分かるからこそ、破壊欲求に抗わないほうが人間らしいような気がするんです。それに、あえて破壊を選ぶのは、もっとうまくいくんじゃないかという“希望”があるからなので。希望って、とてつもなく大きいものじゃないですか。頼りないのに、すがりつきたくなる。その希望が、常に更新されるような感覚で、いろいろ彷徨いたいなと」

 映画『最低。』の感想は!?

映画は、小説の4章目“あやこ”を核に描かれる。あやこは、かつてセクシー女優として活躍していたが、いまはパッとしない母親を持つ少女だ。

紗倉: 「“あやこ” には特別な思いがあります。その他のエピソードは、自分の意思で選んで生きる女の子の話ですが、あやこだけは抗えない宿命の元で生きています。彼女の苦しみを考えて書いたので、実は最初に書いたのもあやこだったんです。“あやこ”があったからこそ他の女の子の話も書けた。本当にお気に入りです」

『最低。』11月25日より角川シネマ新宿ほか全国順次ロードショー
(C)2017 KADOKAWA

映画化に際して、原作者として特に注文はしなかったという。

紗倉:「瀬々敬久監督に映画化していただけるだけで嬉しかったので。短編でそれぞれが独立しているので、どんなふうにつながるか楽しみにしていました。よく映画化されたものと小説は違うとおっしゃる作家さんもいらっしゃいますが、瀬々監督はすごく細やかに汲み取ってくださりながらも、ご自身の映画にされていて、その安心感は気持ちよかったです」

セクシャルハラスメントをどう思う?

10月からはニュース番組『AbemaPrime(アベマプライム)』にコメンテーターとして出演している紗倉。

紗倉:「学生の頃、入っていた寮では、テレビを見てはいけなかったし、先輩たちが独占していてネット閲覧にも規制があったので、時の総理大臣が誰かも知らなかったんです(笑)。知識のない私の欠落部分で取り組まなきゃいけない仕事なので怖かったんですが、知ることの喜びがあって、とても充実しています。いつも“どういうことですか? 知らなかった”ばっかり言っていますけど(笑)」

紗倉まな 撮影=伊藤さゆ

最後にひとつだけ、ニュース風にコメントをいただいた。

——映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによるセクシャルハラスメントが、ハリウッドで問題になっています。今や確固たるポジションを築いた女優さんらが、かつての被害者として声を上げ始めました。その人との関係性や状況、性を語ることをタブー視する雰囲気がそうさせた事件かとも思います。今後、このような事件に遭遇した人々がどうなっていくことを望みますか?

紗倉:「相手の人との関係性は、他人には分からないことですが、暴力は愛情ではありません。暴力を愛情とはき違えて喜びを感じる方もなかにはいるけれど、暴力が愛に昇華されることは、私が今まで見てきたなかにはありませんでした。暴力は、振るわれた時点で相手を尊敬できなくなりますよね。暴力を受けた時点でまず自分の身を守ることが最優先。それ以上自分を傷つけないでほしい。逃げることも守ることだし、人に話して解決策を導いてもらうのもそう。自分を大切にして、自分を壊さないでほしいなってすごく思います」