2018年1月13日公開の『わたしたちの家』は、監督・清原惟にとって、東京藝術大学大学院 映像研究科 映画専攻修了作品で、かつ劇場デビューとなる作品です。本作は若手の登竜門としても知られる「ぴあフィルムフェスティバル」 のコンペティション部門「PFFアワード2017」で、グランプリを受賞しています。

この映画では2つの物語が同時進行するのですが、その舞台となっているのが同じ1軒の家。物理的にはあり得ない展開なので、時代が違うのか、はたまた時空が違うのか……。不思議な世界観が観客を魅了します。一つはホームドラマ、もう一つがミステリーと内容の全然違う物語を同時に楽しめるので、ちょっと得した気分になれるかもしれません。

今回はそんな2つの物語が同時進行していく、“一粒で二度おいしい映画”の世界を紐解いてみたいと思います。

あの電車に“乗った私”と“乗らない私”はどうなった?…『スライディング・ドア』(1998年)

地下鉄のドアが閉まるとき、その電車に“乗れた”か“乗れなかった”かで運命が大きく変わる……。そんな主人公ヘレンの2つの人生を、同時進行で描いたのが『スライディング・ドア』です。

地下鉄に“乗れた”ヘレンは、自宅に帰ると恋人ジェリーが浮気の真っ最中。でも、地下鉄で隣に座っていた男性ジェームズとの、新たな恋が始まります。一方、“乗れなかった”ヘレンはジェリーの浮気に気づかずに、いつもと変わらない日々を過ごしていく……。

この映画の面白いところは、2つの物語が全く同じ場所で展開しているところ。あるバーでの場面では、浮気を知ってやけ酒を飲んでいるヘレンが、ジェームズとの再会を果たします。しかし、もう一方では地下鉄でジェームズと会っていないので、彼とは他人のまますれ違ってしまうといった具合です。ジェームズを選んだ場合にはジェリーが、ジェリーを選んだ場合には彼の元カノが現れて、どちらも三角関係が展開していくというのも、面白くもまた生々しい展開ですね。

誰もが毎日ヘレンと同じように、何かしらの分岐点を潜り抜けている。この映画を観終わったときには、それを身近に感じられるようになっているでしょう。

コインの裏表で変わった人生の行く末は?…『ハーフ・デイズ』(2008年)

『ハーフ・デイズ』は付き合って10ヶ月になるボビーとケイトのカップルが、独立記念日をどう過ごすかをコインで決めるという物語。ブルックリン橋からどちらの方向に向かうかで、その日の2人の運命が変わります。

ブルックリンに向かった2人は迷子犬タイガーを拾って、飼い主を探すことに。一方、マンハッタンに向かった2人は、タクシーで拾った携帯電話の持ち主を探すことになります。前者が人間ドラマなのに対して、後者はアクション映画と、こちらも『わたしたちの家』と同じように全く違う物語が展開していくのです。

同じ主人公の2人が、まったく違う物語を同時に演じているのが、『ハーフ・デイズ』の面白さといえるでしょう。ラストは2つの物語とも、再びブルックリン橋に戻って終わるというのも洒落が効いています。ボビーとケイトが抱えている問題とは何で、違う1日を過ごした2人がそれぞれどのような結論をだすのか……。1つの選択肢が人生を大きく左右する様子を、『スライディング・ドア』と同じように、物語として分かりやすく描いています。

夫婦それぞれの視点から見える世界とは?…『ラブストーリーズ/コナーの涙|エリナーの愛情』(2013年)

夫の視点で描いた『コナーの涙』と、妻の視点で描いた『エリナーの愛情』。その2つの作品が同居しているのが『ラブストーリーズ/コナーの涙|エリナーの愛情』です。

物語は夫婦が幼い子供を無くして6カ月経ったところから始まります。悲しみに耐えきれずに自殺未遂をしたエリナーは、この6カ月の間「孤独だった」とコナーに打ち明けます。しかし、ずっとそばにいたコナーには、彼女の言葉の意味が分かりません。実は、エリナーが求めていたのは、精神的な意味で自分に寄り添ってくれるコナーだったのですが、彼はそのことに気づかずに「傍にいた」と伝えるのでした。

こうした、男と女が求めるもの、大切にしているものの違いを、この映画では2つの視点を使って描き出しています。例えば、ふとした時に、二人がそれぞれ見ているものが違っていたり。コナーとエリナーでは、覚えている会話の内容が微妙に違っていて、それぞれがどの言葉を一番大切に思っているかが分かるわけです。それが、きっかけとなって夫婦喧嘩になるというのは、身に覚えのある人もいるのではないでしょうか?

悲しみに直面したときに、人はそれぞれどう生きていくのか? 2人はやがて距離をおくことになりますが、それぞれの家族や友達との会話を通して語られるセリフの数々は、思わず人生について考えてしまいそうなものが多く、ある種の哲学的な問答のようにも思えてきます。コナーとエリナーは、2人の将来にどのような結論をだすのか、ラストは非常に考えさせられる作品です。

『わたしたちの家』/2018年1月13日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開!/(c)東京藝術大学大学院映像研究科

『わたしたちの家』では母親の再婚騒動を巡る少女の心模様を繊細に紡いでいく人間ドラマと、記憶喪失の女性との同居生活を描いたミステリーが同時展開していきます。

清原監督はバッハの「フーガ」を表現できないかと考えて、この映画を作ったそうです。フーガでは複数のメロディラインがどれも独立しつつも、すべてが主役であり、それが1つにまとまって1個の音楽が完成しています。それと同じように、2つの物語はどちらもメインで、時には重なり、時には離れることで、新たな展開が生み出されていくのです。

「基本的には、観てくれた方が観たように映画はなるというか、観たいように観てくれて良いというか、そういう色々な余地をもった映画にしたいというのがあったので。私が答えをもっていて、その答えを観ている人が必死になって探すっていうよりは、それぞれの中に正解がある、みたいなイメージです。そういう風に観てくれたら、私としては嬉しい」(清原監督)

2つの物語が同時に観られるという意味だけでなく、何度見ても違う発見がありそうという意味でも“一粒で二度おいしい映画”になりそうな『わたしたちの家』。その体験をぜひ映画館のスクリーンで味わってみてください。

(文/デッキー@H14)