文=高村尚/Avanti Press

19世紀に活躍したフランスの文豪モーパッサンの代表作『女の一生』。厳密に言うと“一生”ではないが、ある女性の悲劇的な人生が、観察され、綴られる。これを映画化した本作には、女が生きていく時に胆に銘じておいたほうがいい“いくつかの教え”が、美しい映像で“赤裸々”に描かれている。

主人公はジャンヌ。男爵家の深窓の令嬢で17歳までの5年間を修道院で清らかに過ごす。イケメン子爵と結婚し、相続した仏ノルマンディの屋敷で暮らし始めるが、度重なる夫の浮気、息子の借金で、その人生は波乱万丈に。1883年に書かれたこの名著でジャンヌが体験する苦難は、残念ながら現代女性においても、当てはまることがある。それを回避するための“女の一生”的極意を、この機会にご紹介したい(ネタバレがありますので映画を見てからお読みいただくことをお勧めします。とはいえ、約130年前に書かれた作品なのでご容赦ください)。

1.親の教えはどのくらい有効?

『女の一生』12月9日より岩波ホールほか全国順次ロードショー
(C)TS PRODUCTIONS (PHOTO MICHAEL CROTTO)-AFFICHE NUITDECHINE

映画の冒頭、ジャンヌはレ・プープル(ポプラ)と呼ばれる屋敷で、父親に農作物の種の撒き方を教えられる。ドレスの裾を汚しながら、不器用に畑に水を撒く姿は、貴族の“令嬢”というより“幼い少女”。長い寄宿生活と、両親の惜しみない愛のおかげで、愛情深い女性には育ったものの、いささか世間知らずになってしまった。屈託なく微笑む姿は可愛らしい。でも親の庇護下にいることに慣れ、自分を傷つけるものの存在を疑うことができない。いつまでも親は頼れないのに……。深い親の愛があれば、世間にはその逆もある。そのことを胆に銘じ、生きるために必要なベースは親から学び、生き抜く手段は自分でつかみ取る。そんな当たり前のことをまず再認識したい!

2.夫とはなにか?

『女の一生』12月9日より岩波ホールほか全国順次ロードショー
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近所に越してきたイケメン子爵ジュリアンが気になるジャンヌ。最初はためらいながらも、すぐ手放しにフォーリンラブ。父親も認め、結婚することになり、「ずっと一緒!」と幸せの絶頂を味わうもつかの間。乳姉妹である女中ロザリが子どもを出産。父親はなんと……! という展開となる。夫の不倫に苛まれるジャンヌは、何度も何度も二人の仲が睦まじかった時代を思い出す。熟年夫婦は若かった頃の思い出を共有しているから晩年をともに過ごすことができると聞いたことがあるが、不倫の場合はよかった時代を思い出すだけじゃ解決しない。家族だけれど、他人でもある夫。人生のパートナーとしては何を共有し、個人としてはどこを譲れないのか、常に距離を保ちながら見極めておくことが大切。それが本作からのアドバイスとなる。人生のパートナーであれば、全面的に信頼し合いたい気もするが、なるほど……。

3.最悪な状況の時に神は頼れるか?

『女の一生』12月9日より岩波ホールほか全国順次ロードショー
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ジャンヌが夫の度重なる不倫で苦しんでいる時、告白を聞いたり、調停を買ってでるのは地区の教会の神父だった。神にすがりたい時に、信仰に基づき毅然と接してくれる神父の存在は心強い。だがしかし、神様だってすべてをカバーできるわけではなく、人間ならなおのこと。神父も判断を誤ることはあるのだ。だからどんなに頼れる存在でも、自身の思考を停止してはいけない。助言は聞いた上で、“判断するのは自分”だということを、ここでは教えてくれる。それにしても神父様! 「夫の不倫を許しなさい」と諭す理由が、「母親を悲しませてはいけない」からというのはちょっとひどい。ジャンヌ自身の心の痛みを和らげるのが第一では? もっと凄惨なのは、神父が神様を盾に、ジャンヌに不倫相手の旦那に真実を伝えるよう強要した結果。自分の考えを持つこと、他人からなにを言われようが曲げない、または自分なりの結論を考えることも大切だと思う次第。

4.三つ子の魂100まで

『女の一生』12月9日より岩波ホールほか全国順次ロードショー
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夫との間に可愛い息子ポールを授かったジャンヌ。溺愛しすぎて、寄宿学校が嫌だといえば退校させ、やることすべてを褒め、女性問題で借金すれば返済してあげる親ばかぶりを発揮する。特にお金の無心は尽きることなく、その額も高騰するばかり。農場からあがってくる利益のほかに資産を増やす術を持たないジャンヌらは、返済のために領地を切り売りするしかない。夫との傷心を癒すため、息子を溺愛した彼女もまた、親として子どもに生きる方法を伝えることに失敗してしまう。そしてお金の価値をきちんと伝えられなかったのは何よりの失敗。親に頼ることしか知らない息子に、自立の道はない。可愛い子には旅をさせよ! というが、人生の厳しさを教えることこそ子どもの幸せ!? ということなのだろう。

5.持つべきものは?

『女の一生』12月9日より岩波ホールほか全国順次ロードショー
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親や夫を亡くし、息子はお金の無心でしか連絡を寄こさず、孤独で貧しい晩年を迎えるジャンヌ。そんな彼女を救うのはかつて女中として働き、夫が手を出したことで暇を出されてしまった乳姉妹のロザリだ(彼女こそ被害者なのだが)。女手一つで子どもを育て上げたロザリは今こそジャンヌの役に立ちたいと申し出る。持つべきものは友だち、もとい乳姉妹だ。申し出た時のロザリの気持ちは、つぐないの意味合いも大きいだろうが、限りなく愛情に近い友情からなのだと思う。そうでなければ年を取って頑固になっていくジャンヌの面倒などみていられないだろう。持つべきものは友? 年を取ってから大切なのは、もしかすると夫や子どもより友だちなのかもしれない。様々な家族のあり方が模索される現代なら、なおさら。

    *     *

愛しすぎる苦しみから逃れたいのではない。
この世界を守り、力をあたえたいのだ。
美徳と強さと権力を。
でもそれは子供だまし。
人を神と崇める過ちで人は不能となる——。

映画の最初のほうでつぶやかれるこの言葉。全体のキーワードはたぶんこれ。いま『女の一生』を映画で見たほうがいい理由は、この言葉みたいな原作にない(映画独自の)グッとくる台詞や、映像で“感じさせる”演出と出合えるからなのだ。それに映画は生き方を学べるだけじゃなく、見ている時間、その時代や映像、音楽に身をゆだねることができるのもお得。劇場でぜひ!