文=金田裕美子/Avanti Press

何度見ても面白い映画、定期的に見たくなる映画、というものがあります。私の場合、そんな映画のひとつが『ゴッドファーザー』シリーズ。いまさら説明するまでもありませんが、強大な勢力を誇るマフィア、コルレオーネ・ファミリーをめぐる壮大なドラマです。

シチリアから移民としてアメリカに渡った少年がやがて巨大犯罪組織のドンになり、息子が後を継ぎ、さらに……と時代設定がほぼ1世紀にもわたるこのシリーズは、上映時間が3作あわせて9時間近く。なにせ登場人物が多いし時代も前後するので、1度ですべてを把握するのは難しいのですが、そのぶん何度見ても飽きません。回数を重ねるうちに初めて気づくディテールも多いし、「次は馬の首のシーン……」などとよく知っている展開を待つのも、それはそれで楽しいのです。

『ゴッドファーザー』アメリゴ(サルヴァトーレ・コルシット)とドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)
(C) Paramount Pictures/Photofest

とりわけ食を大切にするイタリア系ファミリーを描いているだけに、作中には食事のシーンがふんだんに登場します。特に有名なメニューは本連載の第1回にも登場したスパゲティ・ミートボールですが、今回は『ゴッドファーザー』シリーズに登場するお菓子といえばこれ! というカンノーリを作りたいと思います。筒形の皮にクリームを詰めたシチリアの伝統菓子、カンノーリは、2つの重要なシーンに登場しているのであります。

Cannoliはcannoloの複数形。1個なら「カンノーロ」。ちなみにスパゲティ(spaghetti)も複数形で、単数ならスパゲット(spaghetto)なんだとか。まあ、誰がわざわざ1本数えるんだって感じですが。このカンノーリ、英語では「カノーリ」と発音されることが多いようです。実際、映画の中でもマフィアのみなさんがそう発音していました。

クレメンザの名ゼリフはアドリブだった

最初にカンノーリが登場するのは第1作。クリスマスに近いある日、初代ドン、ヴィトー・コルレオーネ(マーロン・ブランド)が町で銃撃され、瀕死の重傷を負います。運転手ポーリー(ジョン・マルティーノ)の裏切りによるものだとにらんだコルレオーネ家の長男ソニー(ジェームズ・カーン)は、ファミリーの幹部クレメンザ(リチャード・カステラーノ)にポーリー殺害を指示します。

クレメンザは自宅を出るとき奥さんに「カノーリを忘れないでね」と声をかけられます。「はいはい」と気のない返事をしながら殺し屋のロッコ(トム・ロスキー)と共に何も知らないポーリーの運転する車に乗り込むクレメンザ。用事を済ませた後、ニューヨーク郊外の人気のない道で車を停めさせ、クレメンザが車外に出ている間にロッコが後部座席から拳銃でポーリーの頭を撃ち抜きます。何食わぬ顔で車に戻ってきたクレメンザがロッコに言うのが、シリーズの名セリフのひとつに数えられている「銃は置いていけ。カノーリは持ってきてくれ」。

「カノーリは持ってきてくれ」の部分はなんと撮影時のアドリブだったそうで、『タクシードライバー』(1976年)でロバート・デ・ニーロが鏡に向かって言う「俺に言ってるのか?」などと並んで「即興で生まれた映画の名ゼリフベスト」に常にランクインしています。ただこのシーン、カンノーリの箱をロッコがクレメンザに手渡すだけで、肝心のカンノーリそのものは映らないのでした……。

クレメンザはこの直後のシーンで、スパゲティ・ミートボールの作り方を2代目ドンとなる三男のマイケル(アル・パチーノ)に教えます。そもそも堅気だった若きヴィトーを裏社会に引っ張り込んだのもこの人で、「PART II」には若き日のヴィトー(ロバート・デ・ニーロ)とクレメンザ(ブルーノ・カービー)、テシオ(ジョン・アプレア)が商売の相談をしながらスパゲティを食べるシーンがありました。コルレオーネ家の長女コニー(タリア・シャイア)の結婚式ではピッチャーでワインをがぶ飲みしていたし、クレメンザはファミリーの食担当なのかもしれません。

『ゴッドファーザー PARTII』
左から若きクレメンザ(ブルーノ・カービー)、ヴィトー・コルレオーネ(ロバート・デ・ニーロ)
ママ・コルレオーネ(フランチェスカ・デ・サピロ)、テシオ(ジョン・アプレア)
(C) Paramount Pictures/Photofest

「PART III」では殺人に使われるカンノーリ

次にカンノーリが登場するのは「PART III」。ヴィトーの死後、ファミリーを継いだマイケルは、ヴァチカンと深い関係を築いて違法なビジネスから手を引き、組織を合法化しようとします。しかしそれをこころよく思わないのがニューヨークを牛耳るドン・アルトベッロ(イーライ・ウォラック)。かつてはヴィトーの盟友で、コニーの名付け親=ゴッドファーザーでもあり、表向きは家族ぐるみの親しい間柄なのですが、裏ではマイケルの命を狙うようになります。

ちょうどそのころ、家業を嫌いオペラ歌手になったマイケルの息子アンソニー(フランク・ダンブロシオ)がシチリアで舞台デビューすることになり、コルレオーネ一族と、親しい人々がパレルモのマッシモ劇場に集合します。もちろんアルトベッロも来ています。ここでコニーが彼に手渡すのが、箱入りのカンノーリ。好物だというアルトベッロはご機嫌になりますが、さすが老いても百戦錬磨のドン。箱からひとつ取り出すと、まずコニーにひと口食べさせます。親しげに「君は痩せてるから」なんて言ってますが、要は毒見。でもこれ、本当に毒が仕込んであって、観劇中にカンノーリをバリバリ食べていたアルトベッロは、オペラを最後まで見ることなく息絶えます。ひと口食べたコニーが無事だったのは、端をちょっとしか食べていないからなのか、それとも真ん中に毒が入っていたのか。ここはちょっと謎です。

『ゴッドファーザー PART III』
ドン・アルトベッロ(イーライ・ウォラック)にカンノーリを手渡すコニー(タリア・シャイア)
(C) Paramount Pictures/Photofest

カンノーリ、作ってみます!

殺人現場から持って帰ってきたカンノーリと毒入りカンノーリ。登場の仕方は怖いですが、カンノーリ自体に罪はありません。ではさっそく作ってみます。まずは生地。小麦粉とココアパウダーをふるってボウルに入れます。ここに細かく切ったバター、砂糖、卵黄、マルサラ酒を入れ、よーくこねます。バターでなくラードやオリーブオイルを使うレシピもありますが、よりお菓子っぽくなるバターを使いました。このお菓子は生地にシチリア特産の酒精強化ワイン、マルサラ酒を練りこむのが特徴です。生地がなめらかになったらラップで包んで1時間ほど休ませます。

休ませている間に、中に詰めるクリームを作ります。リコッタチーズはそのままだとボソボソした食感なので裏ごしします。これをボウルに入れ、粉砂糖、ブランデーを入れてよく混ぜ合わせます。今回はこの段階でふたつに分け、片方には細かく刻んだチョコレート、もう片方にはブランデー漬けのチェリーを刻んで入れ、2種類のクリームを作りました。

クリームにはカスタードやマスカルポーネを使うレシピもありますが、シチリアのスタンダードなレシピでは羊乳のリコッタを使用。クリームに混ぜるものはチョコレートやチェリーのほかにも、オレンジピールやドライフルーツなど、何でもお好みで。

リコッタチーズは裏ごしして、自家製のブランデー漬けチェリー、刻んだチョコレートを加えました

休ませた生地は打ち粉をして綿棒で1ミリくらいの厚さにのばします。それを直径10センチの丸い型で抜いて円筒のコルネ型に巻き付け、端を卵白で貼り合わせます。生地は円形でなくても、四角またはひし形に切って巻いてもOK。これを180度の油できつね色になるまで揚げます。

ぱっと見はわかりませんが、カンノーリは揚げ菓子だったんですね。油に入れたとたんに表面がぷくぷく膨らんできて、ちょっと揚げ餃子みたい。金属のコルネ型を芯に使うせいか、油から引き揚げたあとも色がつくので、ちょっと色が薄いかな? というあたりで引き揚げるとちょうどいいようです。

油を切って皮が冷めたら型を抜き、絞り出し袋で両側からクリームを詰めます。チョコレート・クリームにはピスタチオを、チェリー・クリームにはドレンチェリーを飾ってみました。

意外!? アメリカではポピュラーなデザート

最後に上から粉砂糖を振りかければ、カンノーリの完成です。特に意図したわけではないけれど、赤と緑でかわいいイタリアン・カラーになりました。

さて実食。思ったより皮がパイっぽくてサクサクです。ひと口食べるとココアとマルサラ酒のなんとも言えないふわっとした香りが。クリームを詰めて置いておくと皮がしっとりしてしまうので、このサクサク感を味わうなら食べる直前に詰めるのがおすすめです。

試しに、皮を油で揚げずにオーブンで焼いたものも作ってみました。こちらはどちらかというとクッキーのようにカリカリ。クリームを詰めてしばらく置いておくなら、こちらのほうがいいかもしれません。

こちらは焼いたほうの皮。食感はパリパリです

ティラミスやパンナコッタなどのイタリアン・スイーツと比べると、なぜか日本では知名度の低いカンノーリですが、アメリカではたいていのイタリアン・レストランのメニューに載っている一般的なスイーツ。

19世紀末から20世紀初頭にかけてイタリアからアメリカに渡った500万人とも言われる移民の8割が南部の出身だったために、アメリカで広まったイタリア料理は、南部をルーツとするものが多いそうです。さらにヴィトーのようなシチリアからの移民がそのうちの大多数を占めていたことを考えると、カンノーリがアメリカでポピュラーなのもうなずけます。

日本でも今後ブレイクする可能性はありますが、今現在なかなかお店でカンノーリに出会えないなら、自分で作ってみるのはいかがでしょう。箱に詰めて、『ゴッドファーザー』シリーズを観賞しながら食べると、臨場感が味わえて楽しいかもしれません。

 

《材料》
〈生地〉小麦粉(薄力粉)、バター、砂糖、卵、マルサラ酒、ココア、揚げ油
〈クリーム〉リコッタチーズ、粉砂糖、ブランデー、チョコレート、ブランデー漬けチェリー
〈飾り〉ドレンチェリー、ピスタチオ、粉砂糖
《映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具》
拳銃、ソフト帽、オペラグラス、紙のお菓子箱