文=ロサンゼルス在住ライター 町田雪/Avanti Press

新大統領就任によるムーブメント、メディア業界におけるハラスメント問題、ディズニーによるフォックスの買収など、作品関連以外のトピックスが報じられることの多かった2017年の米映画界。それでも、この季節はやってくる。来年、第90回を迎えるアカデミー賞に向けた賞レースは、折り返し地点を迎えた。これまでに発表されている映画祭での評価や批評家アワード、業界内のバズなどから、アカデミー賞有力作品をまとめてみたい。

母娘の関係が印象的な3本

『スリー・ビルボード』
2018年2月1日全国ロードショー
(c) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

近年、この時期になると、3作品ほどが前線を走るケースが多いが、今年は規模もカラーも異なる作品が横並び状態。といいつつ、ここではあえて、米国の特徴的な土地を舞台に、母娘の関係が印象的に描かれた3本を最初に紹介したい。

ミズーリ州の閉鎖的な田舎街を舞台としたフランシス・マクドーマンド主演作『スリー・ビルボード』は、娘のレイプ殺害事件が解決されない苛立ちを巨大なビルボード広告3枚に掲載する母と、住人や警察たちの確執とドラマを描いたもの。カリフォルニア州都のサクラメントが舞台の『レディ・バード(原題)』は、ニューヨークへの大学進出を夢見る女子高生の日常と葛藤、母親や社会への抵抗、自己探求を描いた青春映画。演技とは思えないほどに生々しく、痛々しく、水々しいシアーシャ・ローナンの存在感が光る。

そして、フロリダ州キシミーを舞台としたドキュメンタリー風ドラマ『ザ・フロリダ・プロジェクト(原題)』は、夢の国ディズニーランドのすぐ横にあるモーテルに住む貧困層の人々の姿を、6歳の女の子の視点から描いた作品。物乞い、売春、麻薬、暴力などの常習でありながら、精いっぱいの力で娘を愛する母(主演のブリア・ヴィナイテは監督がインスタグラムで発掘)と、天真爛漫な子ども達の姿に、胸をわしづかみにされる映画だ。

今の米社会を反映する3本

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
2018年3月30日(金)全国ロードショー
(c)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

このほか、今の米社会を反映するテーマと、最高級の布陣で有力視されているのは、次の3作品。スティーブン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス&メリル・ストリープ主演の政治ドラマ『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、米政府のベトナム戦争への関与内容告発におけるワシントン・ポスト紙の役割を描いたもの。トランプ政権とジャーナリストの確執、公然の秘密であったハラスメント問題を暴き始めたメディアの存在など、今年の米社会における象徴的な流れを反映している。

ハリウッドの外国人記者たちが選ぶゴールデン・グローブ賞では、研究施設の清掃員女性と、極秘実験の産物であるクリーチャーとのロマンスを描くギレルモ・デル・トロ監督作『シェイプ・オブ・ウォーター』が、最多ノミネートを獲得。異人種間ならぬ、異種族間のつながりと平等、思いやりへのメッセージが染みわたる。クリストファー・ノーラン監督が圧倒的な意欲と情熱で、第2次世界大戦の実話を描いた『ダンケルク』も有力だ。

実在の人物が個性的に描かれた作品群

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
2018年3月、TOHOシネマズ シャンテほかで全国ロードショー
(c)2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

実在の人物をテーマに盛り込んだカラフルな作品群にも注目。フィギュアスケート史上最大の事件とされるナンシー・ケリガン襲撃事件の渦中にあったトーニャ・ハーディングスの伝記映画『アイ、トーニャ(原題)』。そして、無名フィルムメイカーたちによる史上最悪の映画製作にいたるまでの経緯を描いた『ザ・ディザスター・アーティスト(原題)』。両作ともに作品自体もさることながら、主演のマーゴット・ロビー、ジェームズ・フランコが素晴らしい。

リドリー・スコット監督が実在の誘拐事件を下敷きとしたサスペンス映画『オール・ザ・マネー・イン・ザ・ワールド(原題)』では、大富豪ジョン・ポール・ゲティを演じ、俳優賞ノミネートも有力視されていたケビン・スペイシーがハラスメント問題によって解雇に。監督が急きょ、実力派俳優のクリストファー・プラマーを代役に立て、該当シーンだけを撮影し直し、公開日に間に合わせるという神業を見せた作品だ。

このほか、ゲイリー・オールドマン主演の政治ドラマ『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』、俳優業引退を発表したダニエル・デイ・ルイスが上流階級向けのファッション・デザイナーに扮する伝記映画『ファントム・スレッド(原題)』、ヒュー・ジャックマン主演のミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』、ジュディ・ディンチが英女王を演じ、女王とインド人使用人の絆を描いた『ヴィクトリア・アンド・アブドゥル(原題)』も、実力派俳優の姿が見どころ。

今年の印象的な1本『ゲット・アウト』

『ゲット・アウト』
公開中
(c)2017 UNIVERSAL STUDIOS ALL RIGHTS RESERVED.

候補作のリストは止まらない。なかでも、今年の印象的な1本といえるのが、白人の彼女の実家に挨拶に赴く黒人青年が、摩訶不思議な出来事に遭遇していく様子を描く『ゲット・アウト』。「ミステリー? サスペンス? コメディ? ……のなかに社会派メッセージ?」と、見る人を唸らせる新鮮な展開と、人種問題への独特なアプローチで、低予算&興行ヒットの大成功をおさめた。

北イタリアの避暑地を舞台に、17歳の青年と、大学教授である父の助手との恋模様を、情感豊かに描いた『君の名前で僕を呼んで』、ネットフリックス配信のドラマ映画『マッドバウンド 哀しき友情』、サンダンス映画祭で配給会社による争奪戦が繰り広げられたロマンティック・ドラマ『ビッグ・シック』も評価が高い。

このほか、アワードの行方にかかわらず、絶大なときめきと楽しみをくれた超大作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』や『ワンダーウーマン』も、何らかの形でオスカーに登場するだろう。長編アニメーション部門においては、最有力のディズニー/ピクサー作品『リメンバー・ミー』などと並び、『この世界の片隅に』『メアリと魔女の花』『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』といった日本関連作品の健闘が期待される。

第90回アカデミー賞は、現地時間1月23日(火)にノミネート発表、3月4日(日)に授賞式開催。