文=平辻哲也/Avanti Press

『レッドクリフ』、『グランド・マスター』など超大作でも活躍する中華圏スター、チャン・チェンが、日本のSABU監督の新作『MR.LONG/ミスター・ロン』(12月16日公開)に主演した。かねてから知り合いだった2人だが、一昨年10月に台北での食事会で再会し、SABU監督が出演をオファーして実現。ナイフ使いの殺し屋ロンが北関東のある街で、ひょんなことから牛肉麺の屋台を開くことになり、思わぬ繁盛となる……というコメディ要素もあるハートウォーミングなハードボイルド。劇中では、無口な殺し屋ということで、日本語のセリフがないが、実は……。

チャン・チェンが演じたのは、台湾からやってきた無口な殺し屋
『MR.LONG/ミスター・ロン』
2017年12月16日 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(c) 2017 LiVEMAX FILM/HIGH BLOW CINEMA

訪台中のSABU監督のもとに駆け付け、その場で出演オファーに即答

今年、エドワード・ヤン監督の代表作で、自身のデビュー作『牯嶺街少年殺人事件』(1991年)のデジタルリマスター版も公開され、世界をまたにかける大作の出演も相次ぐチェン。もともと、SABU監督のデビュー以来の大ファンだったという。「確か最初に見たのが、(監督デビュー作の)『弾丸ランナー』(1996年)だったと思います。そのあとすぐに見た『ポストマン・ブルース』(1997年)のインパクトの大きさは並々ならないものがありました。監督の映画からは前に進めといわれたようなメッセージや衝動を感じたんです」と話す。

出会いは2005年に審査員を務めた第1回ニュー・モントリオール国際映画祭のパーティーの席だった。SABU監督を見つけて、自ら声をかけたという。本作もきっかけは台北での再会だった。一昨年10月、配給会社の知人から、『天の茶助』(2015年)のプロモーションでSABU監督が台北にいると聞き、食事の席に駆けつけ、そこで出演のオファーをもらい、即答した。「監督のことは好きだったので、迷いはなかった。縁を大切にしたいし、新しいチャレンジをするのは大事なことなんです」。

凄腕の殺し屋が、期せずして牛肉麺の屋台を出すことに…
『MR.LONG/ミスター・ロン』
2017年12月16日 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(c) 2017 LiVEMAX FILM/HIGH BLOW CINEMA

監督がチェンをイメージして書き上げたのは、東京での仕事に失敗した無口な殺し屋ロンが北関東のある街に逃げ込んで、街の人々のおせっかいから牛肉麺の屋台を出すことになるというストーリー。ロンは殺しの道具であるナイフを包丁に持ち替えて、料理で腕をふるうと、たちまち繁盛してしまう……。「とても気に入りました。ナイフを包丁に変えるというアイディアもロマンを感じました」。アクションもさることながら、料理の腕前も、現場スタッフが舌を巻くほど。台北の自宅では、普段から料理もするそうで、得意料理を聞くと、「豚汁!」といきなり日本語で返ってきた。

日本語を学んだきっかけは任天堂のゲームをやりたかったから

『MR.LONG/ミスター・ロン』
2017年12月16日 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(c) 2017 LiVEMAX FILM/HIGH BLOW CINEMA

劇中で日本語を話すシーンはないが、日本語も上手だ。ティエン・チュアンチュアン監督の『呉清源~極みの棋譜〜』(2006年)や行定勲監督の『遠くの空に消えた』(2007年)など日本での仕事も多く、4年前に結婚した妻は元日本語通訳だった。日常会話レベルは問題ないのでは? と聞くと、「『呉清源』のときは問題なかったと思うんですけど、最近は練習をしてないので、その時ほど話せないと思います。言葉はやっぱり環境が大事。もし、日本で半年ぐらい暮らせばもっと上手になるかな」。

撮影中は、出番のなかった田舎歌舞伎のシーンも熱心に見ていたそうで、日本文化への関心も深い。「きっかけは任天堂ですね(笑)。僕の子ども時代は日本の漫画とゲームが人気でした。日本語を勉強し始めたのはゲームをやりたかったからです。ストーリーを進めるためには必要だったんですよ」と笑った。

激しいアクションが見もの、青柳翔(劇団EXILE)との共演シーンも

見どころは中華圏の本場仕込みのアクション。「実は『グランド・マスター』(2013年)の時に中国の伝統的な八極拳を習ったんです。今でも続けているんですけど、その経験がとても助かっています。そういう理由もあって、最近アクションシーンの多い映画を受けるようにしています。アクションシーンをやるということは年齢的な制限も出てくると思うんですね。肉体的にもいつか限界が訪れる。この10年くらいのうちにできるだけたくさんやりたい。で、『MR.LONG/ミスター・ロン』ではアクションシーンがあるということで、このチャンスをしっかりと受け止め、挑みました。あと、こういう映画を通して、僕はアクションが出来ますよとアピールもできますから」。

重要な鍵を握るキャラクターを劇団EXILEの青柳翔が熱演
『MR.LONG/ミスター・ロン』
2017年12月16日 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(c) 2017 LiVEMAX FILM/HIGH BLOW CINEMA

最も大変だったのは物語の序盤、夜中の河原で撮影したアクション。暗殺に失敗したロンが台湾マフィアとヤクザに袋詰にされるが、ヒロイン(イレブン・ヤオ)の元恋人(青柳翔)の登場で、間一髪で逃げるというシーンだ。「このシーンは映画の中でとても重要なんです。二人の男がそこで出会い、運命が交錯するシーンだったので。雨が続いた後で、足場も悪くて、すごく冷え込んでいました。僕は袋をかぶっていましたし、方向感覚を全く失ってしまって、どこをどう走れば良いか分からなかった。僕以外にも銃を持っている役者がいて、他の人とアクショシーンを合わせるのも大変でした。理想的とは言えないシチュエーションでしたが、スタッフの方がとても丁寧に準備をしてくれました」と明かす。

早くもSABU監督との再タッグを心待ちに

映画は16年9月、東京、栃木・足利、台湾・高雄などで約3週間ロケし、今年2月、ベルリン国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミアされ、10月には高雄国際映画祭、東京国際映画祭でお披露目された。SABU監督との初仕事については「とても楽しい経験でした。もし、また作ることができるなら、もっと違う顔を見せたい。映画は未来に向かっていくもの。だから、いろいろと違う役をやっていくのが大事。僕自身、とてもよく演じられたんじゃないかなと思っています。また、作る機会があったら、いいな」と、早くも再タッグを心待ちにしていた。

演出中のSABU監督
『MR.LONG/ミスター・ロン』
2017年12月16日 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(c) 2017 LiVEMAX FILM/HIGH BLOW CINEMA