大きなパッケージの作品ですが、シンプルなお芝居がとても楽しかった

「DESTINY 鎌倉ものがたり」の撮影初日、主人公のミステリ作家・一色正和を演じる堺雅人は、「(台本を読んで)作品世界のあまりの豊かさに、なかなか全貌がつかめませんでした」とコメントしていた。その発言を端緒にインタビューを始めると、堺は「そんなこと言ってましたか」と少しバツが悪そうに微笑んだ。

「じゃあ、僕は記憶を捏造していたんですね。このところ取材を受けながら、ずっと『脚本を読んだ時に、どこかおとぎ話のように感じて、大きいようでいて実はシンプルな小さな物語だという印象を持った』と答えていたんです。おそらく、最初は物語の大きさに目がいったのかもしれません。愛する妻の命を取り戻すために黄泉の国へ向かうとか、この世のものではない何かの描写の印象が強かったのかもしれない。だけど、撮影が終わった今は、シンプルな物語の小ささがすごく印象に残っています。シンプルな物語というのは、もっと身も蓋もない言い方をしてしまえば、みんなが知っている、よくあるストーリーだということですけど、それをそのまま言葉にするのが怖かったのかなあ(笑)」

本作の舞台となる鎌倉の街は、魔物たちが闊歩し人間界と共存している不思議な場所として描かれる。生者と死者すら当たり前のように交わり合う、ファンタジー空間としての“鎌倉”だ。

「生きている人が死者を想い、死んだ人も生きている人を想っている。それはすごく普遍的な気持ちだし、物語としても何度も語られてきたパターンのような気がするんですね。演じる立場としては、その普遍性とシンプルさを味わいながら演じたほうがいいのではないかと、どこかの段階で思ったんでしょう。大きなパッケージになっているけれども、そこにあるのはおとぎ話の昔話のような、何の変哲もないストーリー。そんな何の変哲もない夫婦の物語と大きなパッケージとのギャップが面白いなと思いました。」

この映画は、同じ山崎貴監督=西岸良平原作の「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズさながら、一見すると昭和中期の時代背景をまとっているように見える。街を走る車は今の視点からするとクラシックカーばかりだし、人々の恰好も昭和30〜40年代とおぼしき衣裳。しかし物語が進むにつれ、「コスプレ」「100円ショップ」など台詞の端々に明らかに現代の風俗も混ざってくる。結局、作品内で時代設定がいつなのか明確には語られないのだが、堺は演じるうえでも「それについてはまったく考えなかった」という。(C)2017「DESTINY鎌倉ものがたり」製作委員会

「僕はずっと“現在”だと思って演じていました。撮影していた時点の“2017年2月”。小道具で飾ってあるカレンダーを見たら“2018年”だったんですよ(笑)。この映画の基本が、高畑充希さん演じる妻の亜紀子と正和の関係にあることは間違いないので、僕は彼女との距離感だけを大切に意識して、それがいつなのか、どこなのかは考えないようにしていました。夫婦ふたりだけの小さな繋がりは、それがいつのものであれ、どこのものであれ、そんなには変わらないじゃないですか。周りで描かれるものがどれくらいのスケールになるかは監督の頭の中にあることで、切り取るサイズがどんなに大きくなっても、あるいは小さくなっても、それがいつの時代であっても、僕と高畑さんが夫婦として演じることは多分、何も変わらない。誰でも普段から『ああ、今は2017年だなあ』と思いながら生きていないですよね(笑)。おそらくそれは、もっとはっきり時代劇であったとしても実は一緒で、確かに台詞や所作の決まり事は多くなるかもしれないけど、結局は僕と僕を取り巻く他者との関係に着地する。今回はそれが『奥さんとラブラブでした』ということだけでいいんだと思っていたんですけど、高畑さんはもっと潔いくらい、そればかり考えて演じてらしたそうなので、僕はまだまだその域ではないですね(笑)」

 

2017年・日本・カラー・シネスコ・129分

監督・脚本・VFX:山崎貴 原作:西岸良平「鎌倉ものがたり」
エグゼクティブ・プロデューサー:阿部秀司 撮影:柴崎幸三 証明:上田なりゆき 録音:藤本賢一 美術:上條安里 編集:宮島竜治 音声:佐藤直紀 出演:堺雅人、高畑充希、堤真一、安藤サクラ、田中泯、中村玉緒、市川実日子、ムロツヨシ、要潤、大倉孝二、神戸浩、國村隼、古田新太、鶴田真由、薬師丸ひろ子、吉行和子、橋爪功、三浦友和
配給:東宝
◎12月9日より全国東宝系ほかにて

(C)2017「DESTINY鎌倉ものがたり」製作委員会

取材・文=進藤良彦 撮影=近藤誠司 ヘアメイク=保田かずみ(SHIMA) スタイリング=高橋毅(Decoration)

制作=キネマ旬報社