もし、路上で喧嘩をしている人たちを見た時、あなたならどうしますか? 見て見ぬふりをする人もいることでしょう。自分が平穏に過ごせるよう、余計なことには首を突っ込まないようにと考えるのは、決して珍しいことではありません。しかし、そんな考えにとらわれずに、危険な領域に土足でずかずかと踏み込んでいく監督がいます。

ラリー・チャールズ監督は、これまで、さまざまなグレーゾーンを荒らしまくってきたハリウッドきっての問題児。そんなラリーチャールズ監督が今回新しい映画を撮ります。あえて非常識な行動をし、その場に居合わせた人々の反応をカメラに収めるというドッキリカメラスタイルで撮影を敢行したり、独裁者をバカにしたような映画を作ったりと、数々のタブーに触れてきました。しかし、その過激なスタイルゆえに危険にさらされることも多々……。とんでもないエピソードをたくさん持っているんです!

あわや逮捕!? 主演俳優が殺されかけた『ボラット』のウソみたいなホントの話

ラリー監督が脚光を集めたのが『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)です。この作品はイギリス人のコメディアン、サシャ・バロン・コーエンが架空のカザフスタン人テレビリポーター、ボラットに扮して、アメリカを訪れ文化を学んでいくという設定のコメディ映画。ボラットの無礼な行動に対し、本当に怒り狂ってしまうアメリカ人の姿をドキュメンタリー風に映します。

ニューヨークの地下鉄で、祖国流の挨拶という体で、男性にキスを迫ったり、路上で排便しようとしたり、セントラルパークで下着の洗濯をしたりとやりたい放題。これにブチ切れたニューヨーク州は、撮影クルーにニューヨークから出ていくよう勧告を出します。それでもなお撮影を続けたクルーは、逮捕状を発行され、危うく逮捕されるという事態にまで発展しました。

さらにヴァージニア州で行われたロデオ大会にゲストとして参加したボラットは、観客の前でカザフスタンを賛美したアメリカ国歌の替え歌を熱唱すると、大ブーイングを受けます。映画では描かれていませんが、激昂した一部の人からは、車で追われて殺されかけたのだとか……! そんな命がけで制作されたこの映画ですが、出演した一般人から訴訟騒ぎを起こされるなど、公開された後まで物議を醸した作品となりました。

国、人種に関係なく無差別に人をからかいまくった『ブルーノ』

ラリー監督&サシャが再びタッグを組んだ『ブルーノ』(2009年)では、過激なギャグはさらにヒートアップ。サシャはオーストリアの人気番組の司会者という架空のキャラクター、ブルーノに扮し、ハリウッドで有名になるために、とんでもない振る舞いを連発していきます。

「パレスチナ問題を解決すれば有名になれる!」と思いついたブルーノは、イスラエルとパレスチナの政治家や学者(全員本物!)の間に入って会合を開くと、無知な発言で、彼らのイライラを煽っていきます。

また「テロリストに誘拐されれば有名になれる!」と思いつくと、パレスチナ難民キャンプのテロリストのアジトに潜入。リーダーと対峙して「ビンラディンはホームレスのサンタみたい」と挑発し、怒りを買いました。アメリカ国民を敵に回した『ボラット』に対し、『ブルーノ』では、宗教や人種を限定せず、全世界の人々をからかっていくのです。

またこのブルーノ、同性愛者という設定なのですが、彼は同性愛に対して閉鎖的なアーカンソー州で、総合格闘技のイベントを開催します。リング上で殴り合いを繰り広げていたブルーノですが、突如、相手選手と濃厚なキス! 試合に大盛り上がりだった保守派の観客は、一気にドン引き。暴言や罵声が飛び交い、椅子や飲み物がリングに投げ入れられる騒ぎに発展していきます。

人々の神経を逆なでするような映画をあえて作る、ラリー監督ですが、その裏側には、“普通でいる”ということにとらわれた人々に対する、皮肉がたっぷりに込められているのかもしれません。

衝撃の実話を、面白おかしく茶化して映画化!

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そんなサシャとのタッグで悪名を轟かせた、ラリー監督が最新作『オレの獲物はビンラディン』(12月16日公開)で、主演に招き入れたのは、まさかのニコラス・ケイジ! しかしそこはラリー監督、オスカー俳優だろうと、皮肉たっぷりの攻めた姿勢は健在です。アメリカ人の愛国主義者が、ビンラディンを殺せという神の啓示を受け、アフガニスタンに1人で乗り込んだというセンシティブな実話を面白可笑しく、茶化しまくっているんです。

サシャとの最後のタッグから5年。人々のリアルな反応で際どい笑いをかっさらってきたこれまでとは異なり、しっかりとしたストーリーの中に皮肉を込めるという新たなステージへと昇りつめたラリー監督。彼ならではの笑いをぜひスクリーンで堪能して欲しいです!

(文/ケヴィン太郎・サンクレイオ翼)