映画、ドラマ、そして舞台と幅広い活躍を続ける俳優・岡田将生。彼のイメージを聞いて“ナイーヴで傷つきやすい青年”と答える人は少なくないだろう。しかし、彼のキャリアには、それとは真逆のフィルモグラフィが存在する。実は、イヤなヤツを演じるのが上手いのだ。その集大成と言っていい最新主演作『伊藤くん A to E』(2018年1月12日(金)公開)へとつながる、岡田将生の“ウラの魅力”を振り返ってみたい。

『告白』『悪人』『何者』は“黒・将生”三部作!

日本を代表するヒットメイカーのひとり、川村元気プロデューサーは岡田のウラの魅力を知り尽くしている。川村がプロデュースした『告白』(2010年)、『悪人』(2010年)、『何者』(2016年)の3作で、岡田将生は“ウラの魅力”を存分に発揮。独特の吸引力を放っている。

まず、中島哲也監督の『告白』。中学校を舞台にした教師と生徒の陰惨な闘いを描く本作で、岡田は熱血漢の体育教師を演じた。この教師は引きこもりになった生徒を救うため、家まで出向くが、思慮の浅さから事態を最悪の方向に導いてしまう。悪気はない。だが、考えがなく、あまりに単細胞なため、生徒からはバカにされている“笑うに笑えない存在”を、岡田は絶妙なリアリティで演じた。

“残念”というよりは、はっきり“迷惑”な先生。誰もが生徒だった頃、出会ったことがあるタイプだろう。本人は、真っ直ぐ一途に一直線に問題に向かっていると信じているからこそ、始末に負えない。岡田は、不幸な人として体現するのではなく、“勘違い=無責任”というテーゼを私たちに強く体感させる芝居を見せている。

どうにもならないヤツを、振り切った表現で“現実にいる人物”として存在させるワザは、李相日監督の『悪人』でも見事に発揮されている。ここでは、上から目線の大学生を、観客の心をも弄ぶような振る舞いで表現している。

金もあるし、ルックスもいい。女にはモテるし、不自由は感じていない。気ままに生きることが当たり前だからこその不遜な人物を、その若さ、至らなさも含めて、まるごと堂々と演じている。イヤなヤツを、ここまでビッグスケールに見せることは案外難しい。『悪人』はある種の群像劇で、この大学生の出番はそれほど多くはないが、岡田の存在感は強く印象に残る。

岡田はプライドが肥大したキャラクターの人物表現が上手い。三浦大輔監督の『何者』は、その究極のかたちと言っていいだろう。就活学生の混迷を描いた作品で、岡田は自身も学生でありながら、就活や学生たちをバカにしているアート志向(思考)の若者の闇の部分を、脆弱な精神もろとも映し出す。

プライドの高い人間は、とかく必要以上に自分を大きく見せようとするが、この学生はまさにそう。だが、そんな一面は多かれ少なかれ、誰もが身に覚えのある感覚でもある。わたしたちは、自己本位で無神経なこの学生と出逢うことで、鏡を覗き込むように我が身の過去の言動を振り返ることになる。

(C)「伊藤くん A to E」製作委員会

図々しくて無垢、集大成としての最新作『伊藤くん A to E』

そして、最新作となる『伊藤くん A to E』では、岡田は周囲の女性5人を徹底的に振り回す28歳を演じている。

物語の舞台はシナリオスクールで、彼はその生徒だが、講師のプロ脚本家を「女史」と呼び、他人の領域にズカズカと土足で踏み込んでいく。自分は特別だと信じ、己の才能は見出されるはずだと疑わない。だが、それをかたちにして“認められなかったらイヤ”なので、いつも口先だけで、作品を仕上げることはない。すなわち、「怖れと虚勢」で成り立っている男なのだが、奔放でマイペースな「図々しさ」が、ある種の女性たちにとっては魅力にも映る。その好意にあぐらをかき続けるキャラクターを、岡田は自由闊達に表現している。

『告白』での無神経さ。『悪人』での絶対性。『何者』でのカッコつけ。そのすべてを包容した本作の主人公・伊藤くんは、どこか自信のなさも垣間見せながら、自分で自分のことがよくわかっていない人物としてそこにいる。

悪意があって女性たちを傷つけているわけではない。ただ、自分が大事なだけなのだ。イヤなヤツを演じたときの岡田が、どこか無垢にも映る理由はここにある。自信満々ではあるが、決してナルシスティックではない。自意識過剰というよりは、ほとんど自分自身について考えないで生きてきた人物の無意識が幾重にも放置されている。そんな印象がある。そんな伊藤くんを、ある人は心底嫌悪するだろう。だが、ある人は“どこか憎めない”と思うかもしれない。

映画の終盤で、伊藤くんは彼なりの生き方を語ってみせる。だが、それが彼のすべてではない。自分をカモフラージュしているわけではなく、まだ自分のことがよくわからない青年の未熟さを、岡田は包み隠さず見事に演じている。そんな表現ができるのものまた“岡田将生の魅力”だろう。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)