『男たちの挽歌』(1986年)、『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991年)、『インファナル・アフェア』(2002年)、『セデック・バレ』(2011年)……数々の名作がその賞に輝いてきた中華圏を代表する映画賞「金馬奨」。優れた台湾/香港映画を讃えてきたこの賞に今年、新人監督の一作が実に5部門にわたってノミネートされた。映画のタイトルは『目撃者 闇の中の瞳』(1月13日公開)。監督を務めたのは、まだ本作が長編2作目となるチェン・ウェイハオである。

観客の予測が次々にくつがえされる快感

ひとりの青年が、高級車同士の衝突死亡事故を目撃。それから9年後、彼は敏腕新聞記者となっていたが、あるとき、自分が中古で買った車があの事故で当て逃げされた車だったことを知る。やがて巻き起こる不可解な出来事の数々。主人公はキャリアを奪われ、孤立無援のまま、力ずくで真実に辿り着こうとする。

事件関係者、悪女、猟奇殺人犯、そしてある男……と、次々に現れる容疑者たち。誰が真の黒幕なのか、そして、本当の悪は?

この映画は巧みなストーリーテリングで、観客の目を捉えて離さない。自信家の主人公が人生のどん底に突き落とされ、それでも地面に這いつくばって、奇っ怪な事件の成り行きに迫っていく過程には、真っ当で良質なエンタテインメントの趣がある。だが、この映画の本質は、わたしたちの「こうなるだろう」という予測が次々に裏切られていく痛快さにこそある。

ボクサーのパンチのような鋭く力強い映像タッチ

スピーディで力強い描写が連続する本作は、休むことなくジャブを打ち込み、相手を追い詰めたところでガツンと顔面にストレートパンチを喰らわすような作品だ。チェン・ウェイハオの演出は、ボクサーのように容赦がない。

監督が繰り出す「鉄拳」に脳を振動させられ、朦朧としているうちに物語は次の展開を迎えている。ただの犯罪サスペンスだと思っていたものの中から、どんどん違う「怪物」が現れ、唖然としているうちに、とんでもない結末を知ることになる。

あくまでも娯楽映画のフォーマットを崩さず、けれども最終的には「人間の実存」すら危うく感じることになる、その凄まじい筆致。チェン・ウェイハオはホラー映画でデビューしており、この『目撃者 闇の中の瞳』と同じ年に、デビュー作の続編を大ヒットに導いている。しかし、本作が包容するジャンルは多岐に渡り、スリラーからアクション、ミステリー、社会派、哲学に至るまで、懐がめちゃくちゃに深い。しかも、とっ散らかった印象は皆無で、前述したように、観る者をぐいぐい連れ去っていくのだ。

金馬奨では惜しくも受賞は逃したものの、現代台湾映画界では抜きん出た腕と存在感を有した監督であるのは間違いない。日本初登場となるチェン・ウェイハオ監督の名をどうか記憶しておいてほしい。いずれアジアを代表する監督の一人になるはずだから。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)