文=仲野マリ/Avanti Press

「お正月くらいは和服を着て初詣に行きたいな」と和のテイストにあこがれている人、多いのでは? そして「初詣ついでに歌舞伎なんかもちょっとのぞいてみたい。でも格式が高いし値段も高そうで不安」と二の足を踏んでいる人も。そんな人に、ぜひおすすめしたいのが歌舞伎を映画館で楽しむ「シネマ歌舞伎」だ。

2018年の1月13日(土)から始まる2本立て『京鹿子娘五人道成寺(きょうかのこ・むすめごにんどうじょうじ)/二人椀久(ににんわんきゅう)』は、新年にふさわしい華やかな踊りが次々と繰り広げられる。「日本舞踊なんて全然わからない!」というビギナーでも大丈夫。出演者に対するインタビューもあるのでわかりやすい構成になっており、料金も2100円と実際に歌舞伎を鑑賞するよりリーズナブルだ。

1人の花子を5人で踊る『京鹿子娘五人道成寺』 玉三郎と4人の若手俳優による空前絶後の華やかさ

『京鹿子娘五人道成寺』

「京鹿子娘道成寺」は日本舞踊でも名だたる「大曲(格式の高いもの)」とされ、通常は主人公の花子を1人で踊る。踊る場面はいくつかのパートに分かれ、烏帽子を着け能がかりで(=能楽の動きを取り入れて)舞う部分、手鞠をつくように舞う部分、手拭いを使って恋しい相手に思いを伝えるしどけない踊り、花笠を被っての踊りなど、一つひとつが独立した曲となっている。

踊りが変わる度に着替えるのも、「京鹿子娘道成寺」の醍醐味だ。時には「引き抜き」と言って、衣裳の早替わりもある。衣裳は黒地に金、赤、藤色、紫などなど色とりどり。「花子」の名にふさわしく、いずれも豪華な花の刺繍が見事! それらを見るだけでも眼福だ。

今回は、これを5人が様々な組み合わせで見せてくれる。「鞨鼓(かっこ)」や「鈴太鼓」といった音の出る小道具を持っての踊りでは、3人、5人が同じ衣裳で舞うので、華やかさも倍増! ことにシネマ歌舞伎だと、大きなスクリーンで細部まで見られるのがうれしい。桜満開の背景画に浮かび上がる最高級の着物を鑑賞するだけでも、華やいだ気分になる。

あなたのお気に入りは誰? 次世代を担う若手俳優たちをCheck!

通常は1人で踊る「京鹿子娘道成寺」を、なぜ5人で踊ることになったのか。そこには“奇跡の女方”とも呼ばれる人間国宝の坂東玉三郎が、人気の若手俳優に大曲「道成寺」の極意を伝えていこうという狙いがある。中村勘九郎・七之助兄弟、中村児太郎、中村梅枝の4人は、現在も人気の歌舞伎俳優。将来の歌舞伎界を背負って立つ彼らがそれぞれに持つ美しさ、可愛らしさ、素直さあるいは気概が、スクリーンから立ち上ってくる。

ただ教わるのではなく、同じ板(舞台)の上に立って見る先輩・玉三郎の一挙手一投足から感じた「山の高さ」を、インタビューの中で率直に語る4人。私たちはその言葉から、「道成寺」という踊りの手強さもまた、同時に知ることができる。

圧倒的な玉三郎の至芸に脱帽

とはいえ、やはり玉三郎である。圧倒的に玉三郎。烏帽子を被って登場してきたその瞬間、空気が変わる。役者ではなく、精霊がそこにいる。「京鹿子娘道成寺」は、安珍・清姫伝説(あんちん・きよひめでんせつ)の後日談として作られた。僧・安珍に捨てられた清姫の怨念が蛇体となり、道成寺の鐘の中に逃げ込んだ安珍を、清姫の化身が鐘に巻きつき鐘ごと安珍を焼き殺してしまったという伝説だ。楽しかった恋の思い出に身をたゆたえる乙女「花子」の中に、ふと「清姫」の執念や悲しみを宿らせる至芸。玉三郎は今後、全曲を一人では踊らないと宣言している。日本の芸能の頂点の一つを2100円で味わえる、絶好の機会である。

同時上映『二人椀久』
恋しいあの人にやっと会えた!…と思ったら…

『二人椀久』

こちらも幻想的な舞踊。傾城松山太夫(玉三郎)への恋しさのあまり気が狂ってしまった椀屋久兵衛(勘九郎)は、まどろむうちに再び松山の姿を見つける。しばしの逢瀬を楽しんだのも束の間、松山は消えてしまい、久兵衛はすべて幻だったと気づく。「ああ、夢だったのか……」という切ない思いは、誰でも経験があるのではないだろうか。つかの間の幸せと、祭りの後の虚しさが、胸に迫る作品だ。

両作品とも三味線の演奏や朗々たる長唄の響きが素晴らしく、音楽好きの人にもオススメ。華やかな『京鹿子娘五人道成寺』としっとり大人の雰囲気漂う『二人椀久』、新春を寿ぐのにぴったりな、上質なひとときを楽しんでもらいたい。