文=久美雪/Avanti Press

ブレイク寸前で解散した伝説のアイドル・グループが、アラフォーになってまさかの再結成!? 20年のわだかまりを乗り越えようともがく“人生崖っぷちのこじらせ女子”を描いた、坂下雄一郎監督の新作『ピンカートンに会いにいく』が1月20日より公開される。脚本も手掛けた坂下監督ならではのちょっとブラックで、イタくて、それでいて切ない人間描写が際立つコメディだ。

“作家主義”✕“俳優発掘”を掲げるプロジェクト

製作母体となったのは松竹ブロードキャスティングが推し進める「松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクト」。低予算ながら“作家主義”✕“俳優発掘”を掲げ、オリジナル脚本にこだわって2013年に始動したプロジェクトだ。もし知っているならば、なかなかの映画通と言っていい。そして、もし知らないのであればこれを機に知っておいたほうがお得。なにせ次に挙げる作品はどれもこのプロジェクトから生まれているのだから。

第1弾として製作されたのは沖田修一監督『滝を見にいく』(2014年)。同作は東京国際映画祭でスペシャルメンションを受賞した。続く、第2弾の橋口亮輔監督『恋人たち』(2015年)はキネマ旬報ベスト・テン第1位ほか数々の映画賞を受賞。プロジェクト立ち上げ直後ながら、映画業界に新風を吹き込むことに成功した。そして、第3弾の『東京ウィンドオーケストラ』(2016年)は同作が商業デビューとなる坂下監督を起用、第4弾の『心に吹く風』(2017年)でも世界各国で大ヒットした韓国のテレビドラマ「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督を起用するなど、意欲的な試みを続けている。ちなみに安齋肇監督、みうらじゅん企画・原作・脚本の青春ロックポルノムービー『変態だ』(2016年)も同社製作だ。ただし、オリジナル脚本ではないため、プロジェクトのナンバリングからは外れている。前述した『ピンカートンに会いにいく』は同プロジェクトの第5弾となる。

商業映画とも違うし、自主映画でもない

手がけるジャンルはバラバラ。監督もさまざま。しかし、それでいて全体を覆う独特のカラーを持つ「松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクト」。一体何がほかと異なるのだろうか? 映画製作の最も近くにいつつ、客観視が求められるのが宣伝だ。そこで、『東京ウィンドオーケストラ』『ピンカートンに会いにいく』を手掛けている宣伝担当に話を聞いた。

「いわゆる商業映画とも違うし、自主映画でもない、その中間にいるのが独特ですね。基本的に監督のやりたいことをやるスタイルだと思うんですが、より商品にしていかなければいけない商業映画では現実的に難しい部分もあります。一方で、自主映画よりもお客さんに見せることを前提にしており、クオリティの高いものを作っていると思います」。

中間に位置していることの利点がプロジェクトの特徴であることを挙げつつ、映画業界全体の活性化にも言及してくれた。「商業映画が良いとか、自主映画が良いというわけでもないんです。ただ今はあまりないこの立ち位置の作品の面白さを伝えていきたいですし、こういった映画製作の振り幅が日本映画をもっと面白くしていくのではないでしょうか」。

映画の多様性みたいなもの

『ピンカートンに会いにいく』
(c)松竹ブロードキャスティング

作家主義の映画を商業ラインに載せるべく、商業映画と自主映画との間にあった壁を切り崩していく「松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクト」。では作品製作そのものとしては、どういったものを目指しているのだろうか。プロジェクトの中心人物である深田誠剛プロデューサーにどのような映画を作ってきたのか、そして作っていきたいのかを伺った。

「商業的にデコレーションした映画も楽しいと思うんですけど、かつてはもっといろいろな映画がありましたし、そういった映画の多様性みたいなものはあったほうが良いと思うんです。プロジェクト立ち上げの頃によく言っていたのは、ATG(アート・シアター・ギルド)みたいな映画。いわゆる作家が純粋に作りたい映画をスポンサーの束縛なく作った、生のままの映画を作りたいと思っていました」。

その代表作が『恋人たち』だろう。そしてそれは大成功を収めた。しかし、そういった作品ばかりを作り続けるしんどさも、深田プロデューサーは口にする。

「松竹は昔、ライトコメディやメロドラマ、サスペンスなどのプログラムピクチャーを割とお家芸みたいにしていたんですけど、今はなくなっているんです。そこで、そういう今はなくなってしまった娯楽作品みたいなものを、低予算で復活させてみたいという気持ちも芽生えてきました」。

失いかけていた第3の選択肢

かつての日本映画業界には存在したが、近年失われてしまった映画製作の振り幅、ジャンルとしての多様性。商業映画でもない、自主映画でもない、失いかけていた第3の選択肢を提供してくれるのが「松竹ブロードキャスティングオリジナル製作プロジェクト」ではないだろうか。それが新風として映画ファンの胸を打ち続けているのだと感じる。新作『ピンカートンに会いにいく』も坂下監督の作家性を強く感じられる作品だ。見にいく映画に悩んだらそこには第3の選択肢がある。元アイドルのアラフォーこじらせ女子の大勝負! 坂下監督、一体どう料理してくれるのだろうか!