2017年夏、東京・国立新美術館で11年ぶりに開催された大回顧展で、約2か月半の会期中に約14万人もの観客を動員するなど、没後50年を経てもなお根強い人気を誇る芸術家、アルベルト・ジャコメッティ。1月5日より公開となる映画『ジャコメッティ 最後の肖像』では、典型的な芸術家タイプだったジャコメッティの創作の舞台裏を覗き見ることができるんです。

細長~い人物彫刻でお馴染みの芸術家の素顔とは?

ジャコメッティと聞いて誰もが真っ先に想い浮かべるのは、美術の教科書でもお馴染みの、あの極限まで縦に細長~く引き延ばされたブロンズの人物彫刻ではないでしょうか。

本作で描かれるのは、すでに地位も名誉も手に入れた晩年のジャコメッティの姿。

とはいえ、映画に登場する彼の自宅兼アトリエは、あの細長い彫像がゴロゴロ転がる薄暗い倉庫のような場所で、彼自身も咥えたばこでウロウロ歩き回ったり、ボサボサ頭を抱えてフリーズしたり。名優ジェフリー・ラッシュが、特殊メイクとダボダボの衣装で挑んだジャコメッティは、まさしく絵に描いたような芸術家のイメージそのもの。

さらには、画商から受け取った札束を無造作にアトリエの片隅に放り投げたり、お気に入りの娼婦を愛人として囲おうとするなど、お金にはほとんど執着しない、根っからの芸術家だったことが伺い知れます。

天才相手のモデルはつらいよ!2~3日の約束が、耐久レース状態に

映画には、「2~3日あれば終わるから」という口車に乗せられ、思い出作り的な気楽さで肖像画のモデルを引き受けたアメリカ人作家のジェイムズ・ロードも登場します。ちなみに、演じているのは石油王を曽祖父とし、アーマンド・ハマー財団の御曹司でもあるアーミー・ハマーです。

イラストレーターと違って、芸術家には締め切りなんてものは存在しないので、本人が心から納得いくまで作品が完成することはありません。キャンバスに一筆ずつ線を描き加え、ようやくゴールの兆しが見えたかと思いきや、上からグレーの絵の具で塗りつぶし、またゼロからやり直し……なんてことも。

何日も同じ服装で、同じ体勢をキープしなければならないモデルにとっては、もはやいつ終わるかわからない耐久レース状態。帰国を待ちわびる恋人に電話で急き立てられながら、飛行機のチケットを何度も取り直し、遂には「完成させる気ないでしょ?」と巨匠相手にぶっちゃけてしまうほど、心身ともに追い詰められていくロード。スクリーンには、ジャコメッティの妻すら「モデルはもう、こりごり!」と逃げ出すほど、過酷な創作過程が赤裸々に映し出されます。

“芸術家の生き様に迫った映画”と聞くと、どこか文学的で堅苦しいイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、この『ジャコメッティ 最後の肖像』に関してはそんな心配は一切無用です。アトリエを舞台に繰り広げられる心理バトルと、ドラマが絶妙な間合いで展開されるので、退屈している暇が有りません。むしろ、「ジャコメッティにあまり興味がない」という人こそ、先入観なく楽しめる作品とも言えるでしょう。

天才を支える右腕!弟ディエゴの彫刻作品もぜひチェックして

そんなジャコメッティの創作活動に欠かすことが出来ないのが、1歳下の弟ディエゴの存在でした。本作の中でも、兄の彫刻作品を飾る台を作ったり、ギャラリーのオーナーと交渉したりと、まさに右腕となって兄の創作活動を献身的に支えた様子が描かれます。

実際、ジャコメッティ兄弟はとても仲が良かったそうで、全く正反対のようでありながら、お互いにリスペクトし合う理想的な関係があったからこそ、素晴らしい作品の数々が生まれたのだということが、映画からも手に取るように伝わってきます。

劇中には、弟のディエゴがロードに鳥の彫刻をプレゼントするシーンがチラっと登場しますが、実は弟のディエゴ自身も優れた家具職人であり、彫刻家でもあったのです。おとぎ話に登場するかのようなキュートな動物彫刻を手掛けています。

兄であるアルベルトとはまた一味違った、おおらかでユーモラスな魅力に溢れたディエゴ・ジャコメッティの彫刻作品「猫の給仕頭」は、東京・港区の松岡美術館に常設展示されているので、映画を見て興味がわいた方は、ぜひチェックしてみては?

(文/渡部喜巴@アドバンスワークス)