裕福だけど問題山積みで崩壊寸前だったドイツ人家族が、天涯孤独な難民青年との交流を通じて再生していく様をコメディタッチに描いた『はじめてのおもてなし』(1月13日より公開)。2016年度ドイツ映画興収No.1を記録し、ドイツ・アカデミー賞でも観客賞に輝いた本作は、決して他人事とは思えない、悩みを解決するためのヒントがたくさん詰まった作品なんです。

難民青年の視点を通じて浮き彫りになる「ここがヘンだよ、ドイツ人」

舞台は、“意識高い系”の母親・アンゲリカの発案で、ナイジェリアから亡命申請中の難民・ディアロを迎え入れることになったハートマン家。閑静な高級住宅街で何不自由なく暮らしているかのように見えるハートマン家ですが、実はそれぞれ悩みを抱えていて、自分たちのことで精一杯。とてもじゃないけど、異国からの来客に満足な「おもてなし」が出来るような状態ではないんです。

例えば、大病院に勤める外科医の父・リヒャルトは、忍び寄る老いが受け入れられずプチ整形を繰り返し、教師を定年退職したアンゲリカは、生きがいを失くしてアルコールに依存気味。31歳にして“自分探し”真っ只中の長女・ゾフィは、ストーカー被害に悩まされており、仕事中毒で妻に逃げられた弁護士の長男・フィリップは、勉強そっちのけでラップとゲームに夢中な息子・バスティに手を焼く日々……。

ほかにも、リヒャルトにヒアルロン酸注射を勧め、クラブ通いをサポートする美容整形外科医の友人・サーシャや、アンゲリカの元同僚で難民支援に熱心なトラブルメーカーのハイケ、リヒャルトの部下で難民センターでもボランティアとして働くインターンの医師・タレクなど、個性豊かな面々が続々登場。物語が進むにつれ、先進国で暮らす人々なら身につまされるであろう「ここがヘンだよ」な部分が浮き彫りになっていくのです。

ちょっと的外れな「おもてなし」がデモやテロ疑惑にまで発展!?

天涯孤独の“不幸な”難民を救っていると信じて疑わない人々の、ちょっと的外れな「おもてなし」に振り回されながら、先進国にも先進国ならではの“不幸な”問題が溢れていることに段々と気づいていくディアロ。文化や境遇があまりに違い過ぎて、理解し合えることはないと思っていた彼も、ハートマン家の人々に寄り添ううちに、「救世主」のような役割を果たすことになるのです。

物語の後半、近隣住民の抗議が極右の反対デモに発展したり、国際的なテロ疑惑がかけられたりと、事態はとんでもない方向に転がり始めます。しかし、あくまでコメディ映画に徹しているのも本作の特徴。デリケートな問題を扱いながらも、決してシリアスになり過ぎないので、最後まで笑って観ることができます。

ちなみに、母アンゲリカを演じるのは、『戦争のはらわた』(1977年)などで知られるドイツのベテラン女優センタ・バーガー。なんと本作の監督サイモン・バーホーベンの実の母親というから驚きです。

ディアロの視点を介すことで、ハートマン家の人々の方がよっぽど救助が必要な“難民”に見えてくる『はじめてのおもてなし』。“身近な人を思いやる”ことこそが、意外とあらゆる問題解決につながるのだということを気付かせてくれる1本です。

(文/渡部喜巴@アドバンスワークス)