文=高村尚/Avanti Press

その美貌と飾らない言動で、スクリーンの内外で話題を提供してきた沢尻エリカ。なんだかんだいって彼女が、現在の日本映画界でもっとも存在感を放つ1人であることに異論はないだろう。

朝鮮高校の清楚なヒロインから、全身整形のモデルまで

真っ先に思い浮かぶのは出世作『パッチギ!』(2004年、井筒和幸監督)。1968年の京都を舞台にしたこの映画では、日本人高校生と恋に落ちる朝鮮高校の女子生徒を演じ、「勝ち気なのに清楚」なヒロイン像で鮮烈な印象を残した。北川景子と姉妹役だった『間宮兄弟』(2006年、森田芳光監督)ではイノセントな可愛さを炸裂させる一方、同年に公開された『手紙』(2006年、生野慈朗監督)では犯罪加害者の弟の妻となる女性を好演。作品や共演相手によって雰囲気まで一変する“芝居力”と、直感的な役理解の深さは、誰もが認めるところだ。

2012年公開の主演作『ヘルタースケルター』(蜷川実花監督)では、全身整形を施したファッションモデルの精神が崩壊するプロセスを緻密かつリアルに表現し、圧倒的評価を得た。また『新宿スワン』(2015年、園子温監督)で演じた、シャブ(覚醒剤)中毒の風俗嬢アゲハのどこまでも天真爛漫で哀しい表情も忘れがたい。

アラサーの元アイドルと、自分は人間だと信じる猫との不思議な関係

そんな“エブリタイム注目女優”の6年ぶりとなる主演作が『猫は抱くもの』。来年6月23日に公開される。大山淳子の同名小説を映像化した本作は、思いどおりに生きられず孤独を抱えたアラサーの元アイドルと、自分は人間だと信じて疑わない猫の関係を描く「ちょっと不思議でハートウォーミングな物語」になるという。「あのエリカ様の共演相手は猫」と聞くと、ガゼン興味を掻き立てられる。はたしてどんなお芝居を見せてくれるか?

『猫は抱くもの』
2018年6月23日より東京・新宿ピカデリーほか全国でロードショー
(c)2018『猫は抱くもの』製作委員会

監督は、大島弓子の傑作『グーグーだって猫である』の映画版(2008年)とドラマ版(2014、16年)を両方手掛けた犬童一心。繊細なドラマ演出に定評がある上、「猫を撮らせたら日本映画イチ」と自他ともに認める“ネコ映画の名手”でもある。また脚本を、キネマ旬報ベスト・テン脚本賞を受賞した『そこのみにて光輝く』(2014年)や『きみはいい子』(2015年)、『オーバー・フェンス』(2016年)など骨太な注目作を連発する高田亮が担当しているのも、映画ファン的には見逃せない。

人と猫の世界が交錯する世界観で新境地を!?

さらに楽しみなのは、“人の世界”と“猫の世界”と“主人公の内面世界”とを縦横に交錯させたという大胆な演出手法だろう。犬童監督のオファーと聞いて「出演を即決した」という沢尻自身、今回の撮影現場を振り返ってこんなふうにコメントしている。

「今回は、全編が今まで経験したこともない撮り方ばかりで……。すごく、やりがいがありました。舞台上で撮るシーンと通常のロケ撮影シーンが混在していて、演じ分けが大変でしたけれど、全力投球でやりきるしかなかった。自分の限界を決めず、監督の演出のもとでどこまでいけるか挑戦できたと思います」(クランクアップインタビューより)

現時点で明かされている情報によると、沢尻演じる主人公・沙織は、とある地方都市のスーパーマーケットで働く33歳。かつてはアイドルグループ「サニーズ」のメンバーとして活動していたけれど、歌手としては芽が出ず、すべてに嫌気が差して都会から逃げてきた女性という設定だ。そんな彼女にとって心を許せる唯一の存在が、ペットショップで売れ残っていたロシアンブルーのオス猫の「良男」。再び、沢尻本人のコメントを引用してみよう。

「たぶん沙織は、いろんなことに対して不器用な女性だと思うんです。周囲に対して自分をうまく出せないし、そういう自分にもどかしさを感じている。彼女にとって良男は、そういう“好きになれない自分”もすべて引っくるめて受け入れてくれる、最大の理解者なんじゃないかな、と」(クランクアップインタビューより)

近年は空前の“猫ブーム”。2017年の映画界でも『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』『猫が教えてくれたこと』などがスマッシュヒットを飛ばしている。ただこの作品、主人公と猫との繋がりを描くにあたって、どうやら大きな手法的ツイスト(ひねり)が用意されているらしい。傑出して表現者・沢尻エリカは、猫という「人生の相棒」を相手にどんな化学反応を見せてくれるのか? そして“ネコ映画の名匠”こと犬童一心監督は、彼女の心の動きをどんな映像手段で表現するのか? ちなみに劇中には、沢尻本人(!)によるダンス&歌唱シーンも登場するとのこと。注目して待ちたい。