“笑う門には福来る”という言葉があるように、新年はやはり笑って迎えたいもの。テレビでは新年を迎えた瞬間から、毎年お笑い番組が目白押しです。一方、映画に目を転じると……“お正月映画”という言葉は、以前ほど耳にしなくなったような気がします。そんな風潮の中、1月5日から公開となる『嘘八百』は、古き良きお正月映画の雰囲気がある1本といっていいかもしれません。

日本らしさを実感できるお正月映画が、かつてはあった

お正月には、肩ひじ張らずに見ることができて、ちょっと笑える喜劇映画がよく似合う。以前は、そういったタイプの映画が必ずお正月期間に1本はありました。

代表格は、夏休み映画でもありましたが、『男はつらいよ』シリーズや『釣りバカ日誌』シリーズ。いずれも人情味あふれる喜劇映画で、親子でも楽しめ、誰をも笑顔にさせてくれました。まさに初詣の帰りにはうってつけ。また、お正月は着物姿の人や門松など、時代が変わってもいまだに日本ならではの文化が感じられるとき。その情緒にも合致していました。

『嘘八百』は家族で楽しめる“お宝コメディ”

中井貴一と佐々木蔵之介がW主演を務める『嘘八百』には、そんなお正月映画の良さが感じられます。

まず、何よりストーリーが明快で、世代を超えて楽しめるものになっています。目利きの腕は確かだが不運続きの古物商の則夫と、いい腕をしていながら落ちぶれた陶芸家の佐輔がタッグを結成。一世一代の大勝負と二人で、幻の利休の茶碗を作り上げ、共通でだまされた大物骨董屋と大御所鑑定人にひと泡吹かせようとします。小市民が正義の仮面をかぶった悪人に反旗を翻すという、いわば日本映画の王道、時代劇を踏襲したような内容は痛快そのもの。結末は明かせませんが、その事の顛末は爽快です。

加えて、いわば共通の敵を前に手を組む則夫を演じた中井貴一と佐輔を演じた佐々木蔵之介のコンビもいい味を出しています。中井ならば『グッドモーニングショー』、佐々木ならば『超高速!参勤交代』シリーズと、近年にコメディの代表作を持つ両者ですが、ここではコンビとしてのコメディ演技を披露しています。二人が演じる則夫と佐輔は職業は違えど、その業界で確かな腕を持ちながら不遇の立場にいる。しかもプライドが高い性格で、自分の主張を曲げない。どこか似た者同士ゆえに意気投合もすればしょっちゅう衝突もする。こんな二人の言い争いを、中井と佐々木は実にいい間の言葉の応酬で見せ、笑いにつなげていきます。水と油というほどの凸凹まではいきませんが、いいコンビぶりを見せてくれています。

さらに、その舞台は大阪の堺。コテコテの大阪弁を話す、ひと癖ある登場人物たちが繰り広げる騙し騙されのやりとりは、随所に笑いがちりばめられていて、世代を問わず楽しめることでしょう。映画のキャッチコピーで“開運!お宝コメディ”と謳っているのですが、まさに“笑う門には福来る”を感じさせ、お正月にぴったりはまります。

お正月といえば芸人!著名芸人が多数出演

もうひとつ加えたいのが、脇を固めるメンバーのキャスティングの絶妙さです。友近やドランクドラゴンの塚地武雅、桂雀々、芦屋小雁、坂田利明ら俳優としてのキャリアも豊富である一方、芸人としても名の知れた面々が出演しています。ちなみに、現在朝の連続テレビ小説「わろてんか」で芸人役を演じている前野朋哉も登場します。彼らから自然とあふれでてくる賑やかさも、日本のお正月映画らしい雰囲気を感じさせる一因になっていると言えます。

現在の日本映画界の一線で活躍する監督と脚本家の存在

ただし、こうしたキャストを生かすも殺すもやはり演出と脚本の力次第。

例えば塚地が演じるのは博物館の学芸員なのですが、本作は実に見事な色づけがされています。利休の茶器を調べるため、則夫と佐輔が博物館を訪れるシーンでこの人物は登場するのですが、二人が茶器を見ているところに割って入ると、勝手に自らの利休への愛をとめどなくしゃべりつづける。そのしゃべり方、利休について語る際のうれしそうな笑顔などが一体となって、“こういう人いるいる”と思わず納得させられる説得力があります。

また、堀内敬子が登場するのですが、これは完全なワンポイント。ただし、ウェディングドレスで狂気の花嫁(?)を怪演する姿は、ワンポイントとは思えない鮮烈な印象を残します。このように本作は、どの登場人物もぞんざいに扱うことなく、どんな人物かきっちりと色づけされ、さらにキャラクター性を引き立てる工夫がなされている。これは確かな演出があってのこと。その仕事をしたのは、『百円の恋』などの武正晴監督と、同じく『百円の恋』などで知られる足立紳と、数々のヒット作を手掛ける今井雅子という二人の脚本家にほかならない。現在の日本映画界の第一線で活躍する監督と脚本家の存在があったことを忘れてはならないでしょう。

新春の喜びに包まれ、なんとなくのんべんだらりとした時間が流れるお正月。そんなお正月シーズンにぴったりで、最近はあまり見られなかった“お正月映画らしさ”をたずさえた娯楽喜劇『嘘八百』。年始のお楽しみの一つに加えてみてはいかがでしょうか?

(文/水上賢治@アドバンスワークス)