“中国映画”と聞いて何をイメージするでしょうか? 映画好きならば、チェン・カイコー作品のような人間ドラマや、チャン・イーモウ監督の『HERO』(2002年)のようなスペクタクルな歴史劇をイメージする人も少なくないでしょう。

では“中国アニメ”と聞くとどうでしょう? 正直、想像できないという人がほとんどではないでしょうか。アメリカのピクサー、日本のジブリといった世界的ブランドもなく、なかなか触れる機会もないため「トンでもなさそう……」と、いぶかしんでしまう人もいるかもしれません。しかし2004年から中国ではアニメ産業振興策を打ち出し、国産アニメの製作に力を入れており、その尽力の結果、スゴい作品が誕生したんです!

製作期間8年! なのに上映館はたったの1館!?

(C)2015 October Aniation Studio,HG Entertainment

その映画は、『最遊記 ヒーロー・イズ・バック』(1月13日公開)。日本でもおなじみの「西遊記」をモチーフにした中国産の3DCGアニメです。本作を手がけたのは、インターネットゲームのグラフィックなど20年以上3Dアニメ制作に従事してきたティエン・シャオポン監督。物語の構想から完成までなんと8年(!)もの月日を費やし、製作されたというから驚きです。

資金難などのアクシデントを乗り越えて完成させた本作ですが、完成後も苦難は続きます。劇中に登場する力を封印された孫悟空が“ヒーローらしくなくて観客はなじめない”という理由から、どこの映画館もなかなか劇場公開をしてくれませんでした。結局、映画は2015年に町外れのたった1館の映画館から公開がスタートしたのです。

しかし、上映が始まると映画のクオリティと比例するかのように、客足が伸びていき、最終的には中国国内で興行収入192億円という驚異的な数字を叩き出します。これは中国産アニメとしては歴代1位となる大ヒット。たった1館の劇場で始まった無名の映画が中国アニメの歴史を塗り替えたのです。

大迫力のアクションと独特の色彩感覚はまさに中国オリジナル

(C)2015 October Aniation Studio,HG Entertainment

本作の見どころといえば、ハリウッド製のものとは一線を画す3DCGで描かれた大胆でハイクオリティな映像です。空、海、緑といった自然、キャラクターたちの衣装など、突き刺すように鮮やかで美しい中国独特の色彩は、観るものをあっという間にファンタジックな世界観に引き込んでいきます。

また、特に筆者が注目したのがカンフーを思わせるような、華麗かつ大迫力のアクションシーン。日本語吹替制作の監修を務めた『コクリコ坂から』(2011年)の宮崎吾朗監督も「驚くほど面白かった。僕は目からウロコが何枚も落ちた」と大絶賛していますが、実は本作ではハリウッドの3DCGアニメの多くが採用している、俳優の動きをコンピューターに取り込んでアニメ化する「モーションキャプチャ」を封印しています。

そもそも現実の人間では再現できないような、大スペクタクルなアクションが展開する本作、描きたいものをモーションキャプチャで作ることは不可能でした。その代わりに『マトリックス』シリーズやブルース・リー作品など、俳優の生身の動きからインスピレーションを得て、アニメーターがキャラクターを動かしていくという手法を導入。さらに、欧米の映画作りでは、使われないような大胆な遠近描写を盛り込み、よりキャラクターの特性が生きた東洋独自のカッコいいアクションシーンへと昇華しています。

(C)2015 October Aniation Studio,HG Entertainment

モーションキャプチャに比べ、この手法は相当な手間ひまがかかります。しかしキャラクターの動きを細かく表現し、よりスクリーン映えするものを作るというこの姿勢こそが、中国アニメの歴史を変えた一因なのかもしれません。

中国が国を挙げてアニメーションの製作を進め、ぐんぐんと作品のクオリティを挙げている中、ついに日本上陸を果たす『最遊記 ヒーロー・イズ・バック』。この作品をきっかけに、今後、本国や日本だけでなく、世界中に中国アニメブームが訪れるかもしれません。

(文/スズキヒロシ・サンクレイオ翼)