1月27日公開の『ジュピターズ・ムーン』は、重力を操る少年アリアンをめぐる物語です。コーネル・ムンドルッツォ監督に聞いた話によると、彼の浮遊する姿をはじめ、実に95%の映像が実写によるものだとのこと。一体これらのシーンはどのように撮影されたのでしょうか?

今回は『ジュピターズ・ムーン』をはじめ、「えっ、これが実写!?」と思わず驚いてしまうような、映画の名シーンを紹介したいと思います。

“世界が回りだす”シーンを実写で撮影…『ジュピターズ・ムーン』

『ジュピターズ・ムーン』を手掛けたのは、ハンガリー出身のコーネル・ムンドルッツォ監督。彼はCGに頼らずに撮影することを好むことで有名です。

今作では主人公のアリアン少年がたびたび宙を舞います。このシーンではアリアンを演じる俳優ゾンボル・ヤェーゲルを、四角い枠組みの中央にワイヤーで固定。枠組みやワイヤーをCGで消去することで、空中に浮かんでいる映像を完成させています。

『ジュピターズ・ムーン』/1月27日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー/2017(c)PROTON CINEMA - MATCH FACTORY PRODUCTIONS - KNM/配給:クロックワークス

中でも、印象的なのが公開中のトレイラームービーで最後に登場する、部屋がまるで水車のように回転するシーン。この撮影では実際に部屋のセットを360度回転させました。ゾンボルを天井から吊るし、周りのセットを回転させることで、一緒にいる男は部屋の中で逆さまに落ちていきます。ほかにも、アリアンがホテルから空中に飛び出すシーンでは、実際にホテルのセットを作ったのだとか。とはいえ、どこからがセットで、どこまでが本物か、映画を観てもさっぱりわかりません。

浮遊シーンではアリアンが踊るような動きを見せますが、これはゾンボル自らが考えた動きなのだとか。その動きを見た監督は、「鳥のようであり、もろさもあって、俳優ゾンボルが自分自身の体を使って浮遊を表現する言語を生み出したものの、とても自然体で、とても不思議な感覚だった」と話しています。

ちなみに、コーネル・ムンドルッツォ監督の前回作となる『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』(2014年)でも、実写とは思えないシーンの連続でした。保護施設から飛び出した犬たちが一斉に押し寄せてくる場面も、ブダペストの市街地で250匹の犬を本当に走らせています。迫力ある姿は、実際に撮影しているからこそといえるでしょう。

遠くまできれいに見える宇宙空間は、1秒あたりの撮影に4時間…『2001年宇宙の旅』(1968年)

完璧主義者として知られるスタンリー・キューブリック監督の作品らしい、思わず「どうやって撮影したの!?」と驚くシーンが満載なのが『2001年宇宙の旅』です。

書籍『メイキング・オブ・2001年宇宙の旅』によると、巨大な宇宙船の全景では、“大気の無い宇宙空間では光と影のコントラストがはっきりしている”という事実にこだわるために、カメラの明るさ調整機能を極限まで絞り、不足した光量を補うために長時間露光という手法をとったとか。そのため、1コマの撮影になんと10分もの時間をかけたそうです。映画は24コマ1秒なので、1秒の映像をつくるために実に4時間かかった計算となります。

さらに、こだわりは宇宙船の映像にも及んでいます。無重力の様子を撮影する際には、背景のセットを固定したまま、前面のセットを回転させています。宇宙船で俳優が歩いている場面でも、やはりセットを回転させることで、俳優が重力を無視して歩いている姿を再現しました。

また、当時はCGがまだ研究所にしかなかったため、船内にあるコンピューターの画面は、なんと手描きによるアニメーション! 一方、無重力で浮いているペンは、透明な板のようなものにペンを貼り付けて撮影していたそうです。(※DVD特典映像のオーディオコメンタリーより)

長さ30メートルの廊下全体で重力が反転!…『インセプション』(2010年)

スタンリー・キューブリックに続く、現代の完璧主義者といえば、クリストファー・ノーラン監督を挙げないわけにいかないのではないでしょうか? 彼のリアルへのこだわりを知らしめたのが、『インセプション』でした。

この映画には重力が反転するシーンがあり、俳優ジョセフ・ゴードン=レヴィットが演じるアーサーが、ホテルの壁や天井を足場に敵と戦います。このシーンでもやはり実際にセットを動かしながら撮影が行われました。およそ30メートルの長さの廊下をセットで作り、それを回転する骨組みの中に入れたのです。外部から照明を当てることができないため、セット内の明かりを撮影の照明代わりに使えるように工夫しています。

回転するセットの中で演技をすることになったジョセフ・ゴードン=レヴィットは、常に床や壁、天井のうちどこが地面と水平となっているかを意識しながら演じたそうです。結果、乗り物酔いになりながらも完成したシーンは、まさに映画史に残る大迫力の映像となりました。当時のプレスリリースによると、このシーンを気に入ったことで、ワーナーが映画の制作を決めたとのこと。

そのほか、ノーラン監督作では『ダークナイト・ライジング』でも、映画冒頭で飛行機が真っ逆さまに堕ちるシーンを、実際にセットを落下させながら撮影。戦車が焼け、ビルから炎が立ち上がる中での戦闘シーンでも、CGは使われていません。バットモービルなどの乗り物を実際に作って撮影しているのも、ノーラン監督ならではといえるでしょう。

“勝手に動き出す乳母車”の緊迫感を生み出したのは?…『こどもつかい』(2017年)

日本を代表するホラー映画監督の清水崇は、インタビューで「CGで作り出したものよりも、糸などを使ってアナログな手法で物を動かしたものの方が、恐怖をより強く感じる」と話しています。

最新作の『こどもつかい』では、できる限りCGを含むVFXに頼らない撮影を目指しました。実際に映画を観てみると、人が動かしているからこその多少のゆらぎ、一定じゃない速度などが、心理的な怖さに直結しているように思えます。勝手に動く乳母車のシーンなどは、特に緊張感あふれていました。感覚的にはお化け屋敷に近いかもしれませんが、確かにアトラクションでは人が演じた方が怖いものが少なくありません。

『ジュピターズ・ムーン』/1月27日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー/2017(c)PROTON CINEMA - MATCH FACTORY PRODUCTIONS - KNM/配給:クロックワークス

『ジュピターズ・ムーン』ではシリア難民の少年アリアンが、国境警備隊に撃たれて瀕死の重体に。これをきっかけに重力の影響を受けない、不思議な体質を備えることになります。

“ジュピターズ・ムーン”とは木星にある衛星のこと。その中にはエウロパという、ヨーロッパの語源となったラテン語と同じ名前の惑星があります。生命体が存在する可能性が示唆されており、人類や生命の“新たな命のゆりかご”になりうるともいわれているとか。アリアンはヨーロッパが生んだ、新たな生命体なのでしょうか?

前作『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』では犬を“常に社会的に見捨てられている存在の象徴”として描き、一握りの階級がそのほかの大勢を支配する一方で、いつか大衆が蜂起する可能性を物語に込めました。今作も哲学的な視点から見ても楽しめる隠喩が各所に見られるので、繰り返し見るたびに面白さを再発見できそうです。

(文/デッキー@H14)