12月29日(金)に公開を控える『オール・アイズ・オン・ミー』。25歳の若さでこの世を去り、今もなお多くのアーティストや音楽ファンを魅了し続けるレジェンド・2PACの真実を追った作品です。

たぎる熱意や不寛容な社会への抗いを詰め込んだヒップホップは、時代や国境を超えて私たちの心を揺さぶりますが、その裏にはラッパーたちの激動の人生があります。そこで今回は、実在するラッパー、ヒップホップMCをモチーフにした映画をご紹介します。

エミネム本人が主演を務めた半自伝的映画-『8 Mile』(2002年)

史上最も売れた人気ヒップホップ・ミュージシャンのエミネム。彼の半生を元にした『8 Mile』では、エミネム自身が主人公・ジミーを演じ話題となりました。

ラップを武器に、貧困層と富裕層、黒人と白人を隔てる「8マイル」を越える日を夢見るジミー。呑んだくれで働かない母親と暮らす彼は、黒人が牛耳るヒップホップの世界で思うように結果を出せずくすぶっていました。そんな時、同じく8マイルの向こう側に行くことを目標とする女性に出会い恋に落ちますが、自分の意思だけでは拭いきれない貧困や裏切り、暴力がつきまとい、やがて絶望の底へと突き落とされるのです。

ラッパー映画の大半は、大きな成功を収め、世間を沸かせるところまでが描かれますが、本作ではラストを迎えてもジミーの生活が劇的に変わることはありません。一朝一夕では変わらないからこそ、最後のMCバトルでマイクを握ったジミーの口から溢れ出る思いが胸を打ち、エミネムが這い上がってきた道の険しさを感じさせます。

9発もの銃弾を浴びた50セントの壮絶な半生-『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』(2005年)

母親はドラッグのディーラーで、自身も12歳からドラッグ・ディーラーとして名を馳せ、9発もの銃弾を浴びた過去を持つ50セント。彼の壮絶な人生は、『父の祈りを』(1993年)や『イン・アメリカ/三つの小さな願いごと』(2003年)で知られる名匠ジム・シェリダンの手によって映画化され、50セント本人が主演を務めました。

貧困、殺人、ドラッグにまみれた生活を送っていた主人公のマーカスが、刑務所の中でラップに目覚め、再起を図るまでを追う本作。「ヤクは金、金は力、力は戦争を生んだ」という象徴的なセリフや、社会派タッチによって醸し出されるヒリヒリとした空気感によって、貧困地域に漂う泥沼のような負の連鎖が描かれます。

また、本作は50セントのサクセスストーリーであると同時に「父親探し」の物語でもあります。父を知らずに育ったマーカスが、やがて子を持ち、本当の父親を知った先に見つけたものとは……。激動の人生を歩んだ50セントの、一人の青年としての素顔を垣間見ることができます。

差別に対する嫌悪をリアルに綴ったN.W.A.-『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)

かつて「世界で最も危険なグループ」と称された伝説的ヒップホップグループN.W.A.。2PAC、エミネム、50セントらにも大きな影響を与え、後に2PAC銃撃事件につながる「ヒップホップ東西抗争」の発端ともなる重要な存在です。そんな彼らの伝記的映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)では、グループの結成から脱退、再結成までをじっくりと描いています。

N.W.A.のラップは「ギャングスタ・ラップ」と呼ばれ、暴力的な歌詞が多いためFBIから警告状をつきつけられたほどでした。しかしその根源には、言論統制や、黒人というだけで警官から殴られる日常など、彼らを取り巻く不条理があったのです。過激ながらもリアリティに満ちたラップは、瞬く間にシーンを席巻し社会現象を起こしました。

しかし、様々な策略に踊らされグループは崩壊。やっとの思いで再結成を誓いますが、そこには悲しい結末が待ち受けていたのです。

人種差別が激化していた時代において、N.W.A.のラップは世間や権力に立ち向かいました。彼らのムーブメントは、音楽の域を超えた大きなものであったと言えるでしょう。

才気溢れるノトーリアス・B.I.G.の成功と悲劇-『ノトーリアス・B.I.G.』(2009年)

24歳にして凶弾に倒れたラッパー、ノトーリアス・B.I.G.。彼の短くも太い人生を描いた『ノトーリアス・B.I.G.』(2009年)は、実の息子が少年時代を演じることで実現しました。幼い頃から麻薬の売人として稼ぎ、ガールフレンドを妊娠させてしまうビギー(ノトーリアス・B.I.G.)の荒れた生活は、過激な発言や性的描写、薬物乱用シーンなくしては語れず、完成後にはR指定を受けています。

本作は、ビギーと2PACの両名を死に至らしめた、当時の「ヒップホップ東西抗争」が丁寧に描かれているのがポイントです。ビギーはスターダムを駆け上がるうちに2PACと出会い、2人は尊敬と友情によって良好な関係を築いていきますが、ある日2PACが銃撃されてしまいます。ちょうどこの時期にビギーが「Who Shot Ya(誰がお前を撃ったのかな?)」という楽曲を発表したことから、2PACは彼を暗幕だと思い込み、関係は一気に歪んでしまうのです。

抗争が激化しジリジリと緊張が高まっていく様子と、最悪の終焉を迎えるまでの過程を観ていると、良くも悪くも音楽が持つ力の強さを感じずにはいられません。

死から20年が経った今こそ観たい2PACの真実-『オール・アイズ・オン・ミー』(2017年)

(c) 2017 Morgan Creek Productions, Inc.

90年代にヒップホップ界に現れ、ミリオンセラーを連発した2PAC。1996年に東西抗争の矢面に立たされ被害者となるものの、今もその人気は衰えることを知りません。『オール・アイズ・オン・ミー』では、そんな2PACの実際の人物像に迫るべく、彼の作品やインタビューをすべて熟読し、幼少期の暮らしぶりや素養、喋り方の癖に至るまで、徹底的に調べた上で作られました。結果、貧困の中で家族を養わなくてはならない2PACの物語は、場所や人種を問わない普遍性のある作品に仕上がっています。

主役の2PACは、4,000人の中から選ばれたディミー・トリアス・シップ・ジュニアが担当。まるで生き写しのような容姿に加え、2PACの映像を繰り返し見ることで生前の姿を体現してみせました。また、50セントやスヌープ・ドッグなど、数々のMVを手がけてきたベニー・ブームが監督を務めます。

2PACに影響されたと語るアーティストたちは、本作について「俺が一番悩んでいた時、2PACのテープをかけるだけで元気が出た」(エミネム)、「2PACはヒップホップの歴史であり、アメリカの歴史だ。彼の真実を語っているこの映画をリスペクトする」(スヌープ・ドッグ)と支持しています。

(c) 2017 Morgan Creek Productions, Inc.

それぞれが苦難に満ちた人生を歩んできたラッパーたちが響かせる魂の声。それらはどうにもならない毎日に葛藤する人々を鼓舞する強い力を持っています。本作もまた、新しい1年を前にした私たちの心を奮い立たせてくれるはず。

『オール・アイズ・オン・ミー』は、12月29日(金)より公開です。

(鈴木春菜@YOSCA)