文=平辻哲也/Avanti Press

結婚まで考えていたフィアンセの医師が経歴詐称!? キャリアウーマンは探偵とともに、彼の素性を突き止める……。長澤まさみ主演、高橋一生共演の『嘘を愛する女』のストーリーだ。小栗旬が焼肉屋へと走る大正漢方胃腸薬「走る男シリーズ」などを手掛けたCMディレクター・中江和仁監督がメガホンをとった。本作を含め、主人公が経歴詐称している映画には面白いものが多い。そこで今回は、奇想天外な経歴詐称事件を扱った映画たちを紹介する。

なぜ経歴詐称男を主人公に!?
中江監督が知りたかったこととは?

『嘘を愛する女』 1月20日より全国東宝系にてロードショー
(C)2018「嘘を愛する女」製作委員

『嘘を愛する女』は、食品メーカーのキャリアウーマン(長澤)が主人公。その仕事ぶりは雑誌に紹介されるほどで、私生活では研修医の恋人(高橋)と同棲5年目で結婚間近。公私共に順風満帆だった。しかし、フィアンセがくも膜下出血で緊急搬送。さらに、彼が持っていた免許証、医師免許証が偽造だったことが分かる。「一体、あなたは何者なの?」。ヒロインはコインロッカーから見つかった「小説」の描写を元に、フィアンセの素性を辿る……。

プレスシートによれば、中江監督が高校時代に、実際に起きた事件をモチーフにした辻仁成さんのエッセイを読んだことが着想のきっかけという。「ある男性が病気になりながらも、全く病院に行こうとしない。その男の素性を調べたところ、名前はおろか、すべてが嘘だった。結果的に病状は悪化し、男性は亡くなります。その後、遺品の中から小説(原稿)が見つかるんです」(中江監督インタビューより)

『嘘を愛する女』 1月20日より全国東宝系にてロードショー
(C)2018「嘘を愛する女」製作委員

その後、大学生になった中江監督は国会図書館で、基になった新聞記事を発見し、さらにインターネット上で続報を見つけたが、そちらのほうは誰かが書いたイタズラだった。その時、中江監督は、自分が知りたいのは男性の素性ではなく、その男性が女性と暮らしていた営みや時間が“本物”だったのか? ということだと気づく。映画化に向けては約10年間で、100稿の脚本を書いたという。そして、企画は、2015年に開催された「TSUTAYA CREATORS’PROGRAM FILM2015」で初代グランプリを獲得し、本格的に映画化へと動き出した。

実際の“事件”は1991年に起こった。推理作家の折原一氏もヒントに、『誘拐者』(1995年/東京創元社)として小説化している。折原氏が創作の裏側を書いた文によれば、この奇っ怪な“事件”は久米宏がキャスターを務めた「ニュースステーション」でも取り上げられたという。その後、20年以上前に、その5年間暮らした女性から連絡があり、彼の身元は明らかになったと折原氏は書いている。筆者も、続報を調べてみたが、確たるものには辿り着けなかった。

医者に弁護士、パイロットにカメハメハ大王の親類!?
詐欺師たちの巧みな騙しテク

吉田大八監督の『クヒオ大佐』(2009年)は、結婚詐欺を働くために大胆な経歴詐称した男の物語。堺雅人扮する日本人風の顔を持った米軍パイロットが、3人の女性から金を騙し取ろうとする。

1970年~90年代にかけて、「カメハメハ大王やエリザベス女王の親類で、米軍パイロット」の「ジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐」を自称し、女性から約1億円を騙し取った実際の日本人詐欺師の事件が基になっている。制服グッズの店から米軍の制服などを購入し、ラジオのノイズ音をBGMに、「中東上空から電話している」と言ったりと、その手口は幼稚だが、弁当店社長(松雪泰子)はコロリと騙されてしまう。やはり、恋は事実を見えにくくさせてしまうのか?

『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』より
(c)Paul HARRIS/MAXPPP

「マイナビウーマン」2017年の調べによると、女性が結婚したい男性の職業ランキングのベスト5は、1位が公務員、2位はサラリーマン・医師で、3位は弁護士、4位が営業職という。手堅い職業は世相の反映だろうが、パイロットもかつては人気職であった。そのパイロット、医師、弁護士をかたり、最後は公務員になった実在の詐欺師をモデルにした映画もある。レオナルド・ディカプリオが主演し、スティーブン・スピルバーグが監督した『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002年)だ。

原作は1980年に出版されたフランク・W・アバグネイル・Jr.氏著の自伝小説『世界をだました男』。1960年代、アバグネイルは16歳の時に両親が離婚したことをきっかけに家出。パイロット、医師、弁護士が社会的な信用を持つことを知り、パンアメリカン航空の制服を手に入れ、身分証明書を偽造して、パイロットになりすます。

パイロットが勤務外、移動のため旅客機を利用する「デッド・ヘッド」という慣習を悪用して、世界中を移動。ホテルも無料で利用した。小切手の偽造で現金を手に入れながら、21歳の時に逮捕されるまで、医師、弁護士(資格は実力で取った)にもなりすました。刑に服することになるが、小切手偽造の実力を買われて、連邦政府からスカウトされ、その後は詐欺事件の解決に尽力。69歳の現在もセキュリティ・コンサルタントとして活躍しているようだ。映画は日本でも興収29億円を稼ぎ、ブロードウェイ・ミュージカルにもなった。

高く評価された『顔』『ユージュアル・サスペクト』

阪本順治監督、藤山直美主演の『顔』(2000年)は35年間、引きこもりだった女性が衝動的に妹を殺害してしまったことから、逃亡生活をすることになる……というストーリー。こちらは1982年に同僚ホステスを殺害し、偽名を使い、美容整形をしながら、1997年の時効寸前まで約15年間、逃亡を続けた福田和子の事件がモチーフ。この映画も国内の主要映画賞を数多く受賞し、阪本監督、藤山の代表作となった。

『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)は実話ではないが、経歴詐称のクライム・サスペンスといえるかもしれない。船の爆発・炎上事件で、唯一生き残った体に障がいを持った男キント(ケヴィン・スペイシー)は警察の尋問を受けて、事件の顛末を語る。そこに登場するのは「カイザー・ソゼ」というナゾの男。復讐のためには、自分の家族をも手にかけ、誰もその顔を見たことがない、という伝説のギャングだ。「カイザー・ソゼ」は経歴を詐称し、捜査の網を逃れたようだ。「カイザー・ソゼ」の正体とは? ケヴィン・スペイシーはこの年の米アカデミー賞助演男優賞を受賞。ブライアン・シンガー監督は後に「X-MEN」シリーズを手がけることになる。

『ユージュアル・サスペクツ』より
(c)picture alliance / United Archives/IFTN

これらの経歴詐称映画は映画賞受賞作、監督や出演者の出世作になったものばかりで、一見の価値ありだ。未見の方は騙されたと思って、見てください(笑)。