文=平辻哲也/Avanti Press

高倉健主演のアクション映画『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年)に熱いオマージュを捧げた、ジョン・ウー監督の『マンハント』(2月9日公開)。日本映画ではなかなかお目にかかれないような銃撃アクション・ロケを、大阪のド真ん中で繰り広げた! 2017年6月のクランクイン当初、約44億円(4000万ドル)と発表された製作費は最終的には1.5倍とも。アクションの巨匠は膨れ上がった製作費にどう対処したのか?

自ら金策。巨匠の対処法はいかに?

関係者がこんなことを話してくれた。「撮影中、ジョン・ウー監督がケータイでどこかに電話しているんですよ。いくらか融通してくれないか、という内容だったらしいです。どうもお金が足りなくなったみたいで、自ら金策に奔走していたようです」。

福山雅治(左)と桜庭ななみ 『マンハント』2月9日全国ロードショー
(C) 2017 Media Asia Film Production Limited All Rights Reserved.

メイキング・ビデオには「プロップガン200丁、弾6000発、4000人以上のスタッフ・エキストラ、撮影日数116日間、269時間の撮影素材」という日本映画では考えられないデータが並ぶ。製作費は、当初約44億円だったが、最終的には約66億円(6000万ドル)まで膨らんだとも言われる。

観客動員8億人! 中国で『君よ憤怒の河を渉れ』大ヒットの理由

『男たちの挽歌』シリーズ、『M:I-2』(2000年)、『レッドクリフ』(2008年)の巨匠、ジョン・ウー監督が日本を舞台にアクションを撮るとなれば、映画ファンは期待してしまう。しかも、“原作”は西村寿行の「君よ憤怒(ふんぬ)の河を渉れ」と、それを映画化した高倉健主演の映画『君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ』(1976年、佐藤純彌監督)である。

濡れ衣を着せられた検事(高倉)が逃亡をしながら、追いかける刑事(原田芳雄)の協力もやがて得て、我が身の潔白を晴らすというアクション作。当時、日本では大ヒットとならなかったが、中国では1979年、文化革命後に初めて公開された外国映画として注目を集め、弾圧されていた国民感情と、無実の罪を着せられた主人公の心情が見事に重なり、観客動員8億人、興行収入100億人民元の大ヒット(数字は『マンハント』プレスシートより)。健さんは中国でも一躍、大スターになった。

チャン・ハンユー(左)とチー・ウェイ、福山雅治 『マンハント』2月9日全国ロードショー
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その中国での人気のすごさを目の当たりにしたのは、高倉が主演した『単騎、千里を走る。』(2006年)の中国プレミアを取材した時だった。監督のチャン・イーモウ監督も『君よ憤怒の河を渉れ』の高倉に感銘を受けた1人で、満を持して主演に迎えた。映画の舞台となった雲南省麗江でのプレミア試写会(2005年12月)では、映画に登場するナシ族をはじめ6つの少数民族約500人がダンスを披露する中、健さんはチャン監督らと会場入りし、なんと1万人が出迎えた。

監督もお気に入り! ロケ地は中国人にも人気のスポット

チャン監督よりも、少し年上のウー監督がリメイクを決めたのは、大ファンだったという健さんが2014年11月に亡くなってから、しばらく経ってからのこと。2015年6月にはロケハンを行い、「しかも日本で撮影する機会を頂いたのは、私の長年の夢がかなった瞬間でした。本作は私にとって非常に特別な作品となりました」との熱いメッセージを送っている。

ただ、『マンハント』は『君よ憤怒の河を渉れ』の最低限のラインの設定を踏襲し、ほかは大胆にアレンジしている。検事の設定は「弁護士」(チャン・ハンユー)になり、後に主人公を助ける刑事役(福山雅治)は、オリジナルの原田芳雄の役よりフィーチャーされ、W主演となった。中野良子の演じたヒロイン、真由美(『マンハント』ではチー・ウェイが演じる)の役回りも違っている。

 ハ・ジウォン 『マンハント』2月9日全国ロードショー
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ロケ地も、東京、北海道だったものを、大阪を中心にする関西に変更。北九州や福岡もめぐったが、最終的にはウー監督が大阪を気に入った。大阪は、健さんが主演したリドリー・スコット監督の映画『ブラック・レイン』(1989年)のロケ地で、年間400万人以上の中国人が訪れる超人気観光スポット(大阪観光局2018年1月発表)でもある。中之島近くの川で、水上バイクを使ったアクションシーンが撮影されたほか、大阪城公園やあべのハルカスなど10カ所以上でロケされた。

この大阪の影にすっかり隠れてしまっているが、スタッフルームの拠点が置かれたのは、実は岡山市近郊。ここでは、巨大な倉庫を大改造し、製薬会社の研究施設のセットが組まれた。真由美が暮らしているという設定の牧場は真庭市蒜山地区で、ほかにも、旧片上鉄道の吉ケ原駅(美咲町)でも重要なシーンが撮影され、セットの組み立て、解体などを含めて300人以上のキャスト、スタッフが参加。大阪、岡山ではかなりの経済効果、観光効果をもたらしたようだ。

『マンハント』2月9日全国ロードショー
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やっぱり白鳩、二丁拳銃…こだわり炸裂のジョン・ウー節

日本映画界では、スタッフ、キャストのスケジュールを抑えて、限られた予算、日数の中でこなしていくが、香港映画界は現場主義。よく言えば、臨機応変ということになるが、直前の変更は日常茶飯事。例えば、水上バイクのシーンも当初は道路でのカーチェイスだった。道路許可まで取ったが、車止め、人止めなどに莫大な費用がかかることから、変更。「当日撮影する脚本や絵コンテが変更されて、たびたび撮影が延期されました。福山さんの抑えていたスケジュールがはみ出す事態も……。よく撮りきったと思います」と前述の関係者も振り返る。

池内博之(左)、國村隼 『マンハント』2月9日全国ロードショー
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こだわった分、これでもかというくらい、アクションにはジョン・ウー節がぶち込まれている。

二丁拳銃アクションにスローモーションの多用、得意のワイヤーアクション……。監督作品ではおなじみの“白い鳩”が飛ぶ名演技もある。ストーリーは『君よ憤怒の河を渉れ』と同じく荒唐無稽で、中には大げさすぎる場面もある。しかし、それを遊び心と受け取って、アクションの様式美を笑って楽しみたい。日頃は、“映画は一人で見る派”の筆者だが、この映画に限っては気心の知れた友人と見るのがオススメ。映画を見た後、酒の席で盛り上がれること必至だ。