文=赤尾美香/Avanti press

アメリカでは年間約1000人が警官に殺される。殺された人のうち黒人の数は白人の4倍で、その多くは丸腰(銃やナイフの所持はなし)だったという。昨年はネット上に「もしもあなたが黒人だったら殺されるかもしれない23の動作」というタイトルの投稿までされて話題になった。法的には平等をうたいながら、その実、平等とはかけ離れた現実があることを、こういう作品を見るたびに思い知らされる。50年前の史実に基づく映画『デトロイト』が、“過去を描いた”映画になる日は、来るのだろうか? と。

『デトロイト』
2018年1月26日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
(c)2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ささいな小競り合いから、路上に戦車が行き交う事態に…

まずは本作のストーリーを簡単に押さえておこう。ときは1967年7月23日。米ミシガン州デトロイトの街中にある無許可営業の酒場で、黒人のベトナム帰還兵を祝うパーティが行なわれていた。そこへ警官が踏み込み、小競り合いから暴動が勃発、拡大。市警だけでは対応不能となり、ミシガン州は州警察と軍隊を投入、路上には戦車までもが行き交った。

『デトロイト』
2018年1月26日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
(c)2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

暴動発生から3日、地元デトロイト出身の黒人ヴォーカル・グループ=ザ・ドラマティックスは公演がキャンセルになり、比較的治安が保たれていた地域にあるアルジェ・モーテルにチェックイン。モーテルでは黒人の若者たちが、白人の女の子も交えて楽しんでいた。そんな最中、一人の黒人青年がおもちゃの銃を鳴らしてしまう。銃声を“狙撃者による発砲”とみなした警察と軍は、ただちにモーテルを包囲。モーテル内に居合わせた若者は拘束され、「銃はどこだ? 撃ったのは誰だ?」と、取り調べというにはあまりに威圧的かつ暴力的な扱いを受け始めた。

恐怖に怯える若者たち。警官がむき出しにする敵意や憎悪。モーテルに鳴り響く新たな銃声。黒人であるという理由だけで、なぜ彼らがここまでの目に遭わなければいけないのか、果たしてこんなことがまかり通っていいのかと、観ている者も緊迫の時間を共有させられていく。

映画で社会的な話題性のあるテーマについて取り組む

アクションやサスペンス作品でそのキャリアをスタートさせたキャスリン・ビグロー監督は、イラク戦争を舞台に米軍爆弾処理班を描いた『ハート・ロッカー』(2008年)で一躍注目を集めた。低予算で撮影されながら同作は、アカデミー賞9部門にノミネートされ、作品賞、監督賞の主要部門含む6部門を受賞。ビグローは、女性監督として初めてアカデミー賞監督賞を手にした。続く『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)ではCIAによるオサマ・ビンラディン捜索の舞台裏に迫り、アカデミー賞5部門にノミネートされた。

こうした社会派の作品を撮ることについて監督は、「今の私は、映画で社会的な話題性のあるテーマについて取り組むことに切実さを感じる」と語っている。「映画が成功するしないにかかわらず、そのテーマの話題性を広げるという点で有意義なことだし、責任のあることだと思うから」とも。

『デトロイト』
2018年1月26日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
(c)2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

今夏、日本で公開された『ドリーム』(2016年)は、まだ黒人と白人の分離政策がなされていた60年代に、差別や偏見と闘いながらマーキュリー計画(宇宙開発)に貢献した3人の優秀な黒人女性を描いていた。本国アメリカのみならず日本でもヒットした『ゲット・アウト』(2017年)は、ホラーでサスペンスでコメディという風変わりな作品だが、これもまた人種差別問題抜きにはありえないお話だ。

少し遡れば、人種や性別を超えた普遍の愛を描き、今年2月のアカデミー賞で作品賞をはじめ3部門を受賞した『ムーンライト』(2016年)も、差別問題と無関係であるはずがない。日本公開は2018年2月と、少々先の話になるが、現在アメリカではオスカー候補の最前線にいる『スリー・ビルボード』には差別主義者の白人警官が重要な役割で登場する。

偏見、差別、不寛容へのアンチを掲げた作品が続々と…

『デトロイト』
2018年1月26日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
(c)2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

トランプ政権が差別的で排他的な姿勢を続ける限り、この世に差別が存在する限り、ハリウッドは作品を通じてものを申し続けるだろう。目先を変えてみれば、ディズニーがポリネシアを舞台にした『モアナと伝説の海』(2016年)や、メキシコを舞台にした『リメンバー・ミー』(2018年3月日本公開)を制作したのも、人種や文化に対する先入観、偏見、差別、不寛容や不理解に対するアンチテーゼであると思うのだ。

最後に。『デトロイト』において、個人的に最も印象的だったのは、モーテルの中で何が起きているのかを知りながら、面倒な人権問題に巻き込まれたくないからと、見て見ぬ振りをしてその場を去っていく州警察官の姿だったことも、付け加えておきたい。自戒を込めて。