2018年1月13日に封切られる『悪と仮面のルール』は、芥川賞作家・中村文則の同名小説が原作の映画だ。中村文則作品の魅力は、死や暴力といったテーマに潜む人間の業を、容赦なく描き出しているところにある。その凄まじい吸引力たるや、「アメトーーク!」の「読書芸人」の回でピース・又吉直樹やオードリー・若林正恭がこぞって絶賛するほど。

『悪と仮面のルール』も、「絶対的な悪」となるべく父親に育てられた主人公が初恋の人・香織に危害を加えようとした父を殺し失踪、十数年の時を経て顔と名前を変えて舞い戻り、香織を守ろうと手を汚し続けるというショッキングなストーリーだ。今回は、人間の狂気をあぶり出す中村文則原作の映画から、今後公開予定のものを含めて3本ご紹介したい。

幼い頃の事件が二人の男の運命を変える『最後の命』(2014年)

子どもの頃、友人の冴木裕一とともに集団婦女暴行事件に遭遇した主人公・明瀬桂人。その記憶によりトラウマを植え付けられた桂人は他人と肌を触れ合わせることができず、大人になった現在も最低限の人間関係の中で暮らしている。しかし久しぶりに冴木と再会した晩、桂人の部屋に顔見知りのデリヘル嬢の死体が……。警察から取り調べを受けた桂人は、冴木が連続婦女暴行事件の容疑者だという驚愕の事実を告げられる。

幼少期のトラウマによって、一人は「性行為に対する嫌悪」、もう一人は「性欲」という対照的な悩みを抱え続けるというストーリー。幾度も回想を交えて描写されるため、難解で複雑な印象を持たれるかもしれない。しかし、先の読めない展開や、どこか腑に落ちないもどかしさこそ中村文則原作映画の真骨頂。主演を務める柳楽優弥の演技も圧巻だ。

その女、「怪物」につき。『火 Hee』(2016年)

桃井かおりが監督・主演・脚本を務めたことで話題となった作品。幼い頃に火事を両親で亡くし、学校でイジメを受け、現在はアメリカで借金を抱えながら売春によって生計を立てている娼婦が精神科医を相手に波乱に満ちた人生について話すという物語だ。終始一人称で描かれていた原作小説を桃井かおりが巧みに舞台の中へ落とし込み、異様なほど生に執着する女を表現している。

彼女の鬼気迫る演技を観ているうちに、夢か現か、正気か狂気か、自分が今どちらに足を踏み入れているのか分からなくなってくるのではないだろうか。まさに桃井かおり×中村文則の化学反応から生まれたクールでエキセントリックな世界観。これがわずか10日間で撮影されたというのだから驚きだ。

実際、本作は第66回ベルリン国際映画祭フォーラム部門をはじめとして、数々の映画祭で称賛の声を浴びている。

謎の焼死事件を追う若きルポライターが、人間の闇に引きずり込まれる…『去年の冬、きみと別れ』(2018年春公開予定)

中村文則ファンから絶大な支持を集める傑作サスペンスが原作。盲目の美女が巻き込まれた焼死事件と、その事件の容疑者で写真家・木原坂雄大にまつわる取材を行っていた気鋭のルポライター・耶雲恭介が、次第に闇に引きずり込まれていく。散りばめられた伏線やめまぐるしく変わる視点、ラストに向かって一気に真相が暴かれていくスピード感、そして「まともな人間」の皮を被ったどこかいびつな登場人物達が、実写化によってどのように魂を吹き込まれるのか見ものだ。

主演はEXILE/三代目 J Soul Brothersのメンバーで、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016年)などにより俳優としても評価の高い岩田剛典。耶雲を追い詰める狂気の天才・木原坂を演じる斎藤工にも注目が集まる。

『最後の命』『火 Hee』『去年の冬、きみと別れ』、そして『悪と仮面のルール』に共通するのは、やはり普通の物差しでは測ることのできない「悪」が強烈な存在感を放っているということ。

(C)中村文則/講談社 (C)2017「悪と仮面のルール」製作委員会 

『悪と仮面のルール』でも、玉木宏演じる久喜文宏が、愛する人を想うがゆえに殺人を重ねていく。その過程で、自らと同じように「悪」となるべく育てられたテロリスト・伊藤亮祐と出会い、久喜一族を率いる「悪」の象徴・久喜幹彦に魅入られるのだ。「他人の命をいくつも奪ってきた自分が、果たして生を求めていいのだろうか?」。そんな葛藤に悩まされる主人公を、玉木宏がどう表現していくか、そして新木優子演じる香織との美しく真っ直ぐすぎる愛の行方が最大の見どころだ。

本作で玉木宏は、これまでの精悍なイメージとは異なる稀代の“殺人者”を演じ、新たな一面を見せる。文宏がすべてを懸けて守ろうとする香織を新木優子、テロ組織の実行犯の一人・伊藤を吉沢亮が演じるほか、中村達也、光石研、村井國夫、柄本明ら実力派キャストが集結する。そしてメガホンをとるのは、数々のPVやCMを手掛けてきた新鋭・中村哲平監督。壮大で深遠なテーマを携えたサスペンスドラマを圧倒的な演出で描く。

(C)中村文則/講談社 (C)2017「悪と仮面のルール」製作委員会 

中村文則原作の映画は観る側へ、鑑賞しているうちに「善悪とは何か」と問いかけてくる。自分の価値観を根底から覆される、中村文則文学ならではの衝撃と快感を、是非劇場で味わっていただきたい。

(小泉ちはる@YOSCA)