悪の心を持つことが伝統という「邪」の家系に生まれるも愛する女性のために運命に抗う男の苦悩を描く傑作ミステリーの映画化作品で、クールな中にも悲哀をにじませる演技を見せた玉木宏。確実にステップアップを続ける彼が芝居への思いを語った。

特殊な「邪」の話でも誰もが純真

Q:この作品のどこに魅力を感じて、オファーを受けられたのでしょうか。

僕が演じた文宏は、たまたま邪を生む家系に生まれて、そう育てられましたが、香織に会って、彼の中に理性が生まれた。彼女に出会わなければ純粋な悪になっていたかもしれないし、彼女がいることですべてが変わったと思うんです。原作の小説を読んで、台本も読んで、何が伝えたかったのかと考えた時、結局は純愛映画なのかなと思いました。本当に特殊な話ではあるけれど、彼も彼女も純真ですから。そんなところに惹(ひ)かれました。

Q:悪というよりも、悲しさ漂うラブストーリーという部分ですね。

あまりラブを強調すると、物語の意外性がなくなってしまうかもしれないんですが(笑)。難しく考えれば非常に難しいお話です。文学的でもあるし、哲学的なところもある。ですが、根底にあるものはすごくシンプルだったので、そこを大事に演じることができれば、前半戦でどんなに悪いことをしても、きっとそこにたどり着くと思いました。

Q:「邪」とは何かという、哲学的な命題もありました。

久喜家や文宏に限らず、邪心というのは誰もが抱えているものだと思うんです。その意味で、少々特殊に見えるかもしれない話ですが、根底にあるところはきっと誰もが理解してもらえると思う。そんな気持ちがたくさん詰まった映画だと思います。

役づくりはしない

Q:文宏を演じる際に、どう役づくりをしましたか?

どんな役を演じようがどんなシチュエーションだろうが、根底は変わらないんですが、役づくりはしないです。本を読めば誰もがそれなりの感想を抱くわけで、正解というのは1つではない。ただ、みんながそういう解釈になるであろうある程度の正解は求めていかなければいけないので、そこに近づこうとするだけです。「役づくりでこうしました、ああしました」というのはあまりないかもしれないですね。ただ、外見的なこと、表面的なところを変えることはあります。

Q:では、どうやって演じているのでしょうか。

もちろん一人芝居ではなくて、共演者さんがいて、監督がいて、衣装を着てメイクをしてセットを作ってもらって美術の飾りつけをしてもらって、そういう空間に入っていくわけですから、そこで自然に生まれるものを大事にしようという考えが大きいです。事前に準備していこうとは思わないです。

変わりたい願望が強い

Q:30代も後半ですが、若いころと比べて何か変化はありますか?

無理をしなくなりました。背伸びをやめたというか。若いころは、自分をよく見せたいという気持ちがありましたけど、いまは逆に自分の足りないところも素直に認められます。自信過剰で、大きく見せることがカッコいいことだと思い違いをしていたこともありました(笑)。周りをよく見て、周りを知ったことで、だんだん変わっていったのかなと思いますが、この先、生き残っていくためには、もっと変わっていかないと。そういうことを、むかしはあまり考えませんでした。自分で気づいて、認めないと、変われないと思います。だから僕は、後輩の俳優たちに忠告めいたことを言うことはほぼないんです。こうしたほうがいいよ、ああしたほうがいいよと過保護にしちゃうと、結局失敗も知らないままになってしまうので、それは本人にとってもよくない。思うところがあるのなら、必ずトライしてみたほうがいいと思います。

Q:この先の俳優としての野望は何ですか?

野望はずっとありますし、そこには貪欲です。いまの希望は、まったく僕のイメージにない役をいただくこと。「これ、誰だろう」と、クレジットでやっと僕だってわかるくらいの、ぐじゃぐじゃに汚れた役をやりたいですね。いろいろなジャンルをやらせていただいていますが、キレイな役が多いんです。これまで演じたことがないような、これまでの流れとは対極にあるようなものをやりたいです。

Q:役や作品を選ぶのは、どういう基準ですか?

僕はいま、ぜんぶ事務所に任せています。そのほうが、自分の好みだけではない幅広い活動ができると思っているので。もちろん、何でもやりたいという意思は伝えてありますし、役に合わせていくらでも変化します。スキンヘッドにしろと言われたらすぐに剃りますし、20キロ30キロ太れと言われたらすぐに太る。「変わりたい」という願望は強いので、それくらいのことはいつでもやります。でも考えたら、むかしからずっとそういう思いで演じています。ファンの方の期待には応えたいですけど、希望は壊したいです(笑)。いろいろな技を増やしたいし、いろんな姿を見せたいです。

取材・文:早川あゆみ 写真:日吉永遠