テレビドラマ「半沢直樹」(2013年)や「陸王」(2017年)で知られる、高視聴率奪取ディレクター、福澤克雄が実に9年ぶりに映画の監督を務めた『祈りの幕が下りる時』。1月27日より公開される本作は、東野圭吾原作による「新参者」シリーズの完結編である。ダイナミックな作風で知られる福澤だが、本作ではそれだけではない深い演出力を発揮している。「新参者」シリーズには初登板ながら、堂々と新風を巻き起こし、充実のフィナーレをもたらしているのだ。

名作映画『砂の器』を彷彿とさせるヒューマンドラマ

スマートな人あたりと、深い洞察力を兼ね備えた加賀恭一郎(阿部寛)を主人公とした「新参者」シリーズ。最終作では、これまで伏せられていた加賀の母親の行方と、母親と関係するある人物をめぐる事件が紐解かれる。

キーマンは、美しき舞台演出家、浅居博美(松嶋菜々子)。元女優である彼女は、かつて加賀と出逢っていた。過去と現在を紡ぐ因縁と、その背景にあるものが、エモーショナルな筆致で浮き彫りになっていく。

原作自体、「東野圭吾流『砂の器』」と評されていたが、映画もまた名作『砂の器』(1974年)を彷彿とさせる仕上がり。かつて福澤が中居正広主演で『砂の器』を2004年にドラマ化していることを鑑みれば、この監督のシリーズ初登板も必然だったと思わざるをえない。

クライマックスからの怒涛の感動シーンの構築は、まさに福澤演出の独壇場。子役、桜田ひよりの名演に涙がちょちょぎれる観客が続出するだろう。

(C)2018映画「祈りの幕が下りる時」製作委員会

涙や感動を超える人間讃歌がここに

スケールの大きさは福澤の特色のひとつだが、ここでも空撮を使った大胆な画作りで、推理ミステリーの閉塞感を鮮やかに打ち破っている。また、「半沢直樹」以降の作品に顕著なキャスト陣の早口も、冒頭の捜査会議の場面に明瞭な「福澤印」を与え、スピーディな語り口で観客を魅了する。

だが、最大の見どころは、加賀を演じる阿部寛と、ヒロインに扮した松嶋菜々子が対峙するシーンだろう。両者の顔を凝視し、丹念に紡いでいくだけで破格の吸引力がもたらされている。

緊迫した場面であるにもかかわらず、阿部の芝居はあくまでもソフトで優しい。そして、松嶋は気丈な博美の懸命な抵抗を、静かなプライドでくるんで瀬戸際の品格を漂わせる。演技と演技との、抜き差しならない邂逅の瞬間を、福澤はじっと見据え、誇り高き男と女として、画面に刻みつける。

かつて阿部とも松嶋ともタッグを組んでいる福澤。だからこそのドラマディレクターとしての矜持がまざまざと感じられる深く豊かなディレクション。涙や感動を超えた領域で、人間を讃えるこの福澤演出は、大きなスクリーンで体感してこそ本領を発揮するのだ。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)