【映画ファン必見!】ヌーヴェル・ヴァーグの申し子、ジャン=ピエール・レオー。最新主演作「ライオンは今夜死ぬ」と、70歳を超えてなお、映画をつくる喜びを語る

1月20日(土)より公開される映画『ライオンは今夜死ぬ』。世界で圧倒的な人気を誇る、諏訪敦彦監督の8年ぶりとなる最新作だ。フランスでのオールロケを敢行し、その主人公の老人役をジャン=ピエール・レオーが務めていることが話題になっている。

ジャン=ピエール・レオーと言えば、映画史に残る名作『大人は判ってくれない』で鮮烈なデビューを果たし、トリュフォー、ゴダールをはじめ、世界の名だたる巨匠たちにリスペクトされるヨーロッパきっての名優。
いわゆるヌーヴェル・ヴァーグの代表的俳優として語られることの多い彼だが、人懐っこい雰囲気とは裏腹に、性格はひじょうに気難しく、大のマスコミ嫌いでも知られている。なんせ、60年以上にわたる彼の長いキャリアにおいて、インタビューは(初期のものを除けば)ごくわずかしかないのだ。

今回、最新作の公開に合わせて、日本の老舗映画雑誌「キネマ旬報」が、レオーへの単独インタビューを敢行。諏訪監督のアシスタントを務めた人物を通して、フランスで暮らすレオーの奇跡的な単独取材に成功した。ここではその一部を特別に抜粋してお届けしよう。70歳を超えてもなお尽きない映画への思いを感じ取ってほしい。

注)ヌーヴェル・ヴァーグ……1950年代末に始まったフランスにおける映画運動。「新しい波」を意味する。ロケ撮影中心、同時録音、即興演出など、当時としては画期的な手法により世界に衝撃を与えた。代表的な監督にジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、クロード・シャブロル、ジャック・リヴェットらがいる。

映画『ライオンは今夜死ぬ』より

【あらすじ】南仏ラ・シオタ。年老いた俳優のジャンは、昔愛した人を訪ねて古い屋敷にたどり着く。誰も住んでいない屋敷の中では、地元の子どもたちが映画撮影ごっこをしていた。子どもたちと共に映画撮影をはじめるジャン。撮影が進むにつれて、ジャンの元妻ジュリエットとの関係が次第に明らかになっていく……。

――諏訪監督との出会いや、今回の『ライオンは今夜死ぬ』に出演した経緯を教えてください。

ジャン=ピエール・レオー(以下、レオー) スワとの最初の接近はカンヌ映画祭だった。僕が上映会場の近くにあるカイエ・ドゥ・シネマのスタンドの近くを通りかかったとき、ちょうどそこでスワがインタビューを受けていた。その時は気づかなかったんだけど、その後に聞いた話では、僕のことが気になってスワのインタビューがしばらく止まってしまったらしいんだ(笑)。その後、ラ・ロッシュ=シュル=ヨンの映画祭でミチコ(本作プロデューサーの吉武美智子)と一緒に初めて彼と会った。それからスワは僕と映画を撮ることを前提にアイディアを膨らましていったんだ。

――この映画には、印象的な鏡が何度か登場します。冒頭のメイクルームの鏡、屋敷の部屋におかれた現世と来世をつなぐ合わせ鏡……。これまでに出演された映画、例えばトリュフォーの『夜霧の恋人たち』でも、印象的な鏡のシーンがありましたが、鏡に向かって演技をする際、どのようなことを意識しましたか? 

レオー フランソワ(・トリュフォー)は僕の友人であり父だ。『夜霧の恋人たち』の撮影の途中、フランソワは、鏡の前で僕が「ファビエン・タバール、クリスティーヌ・ダルボン、アントワーヌ・ドワネル……」と何度も言うシーンを撮るというアイディアを思いついた。その後、あのシーンは作品を象徴する有名なシーンになった。だから、鏡は僕にとってとても重要なモチーフなんだ。

スワの映画で僕が鏡の前で話すシーンはとてもシンプルな演出で撮られている。スワの現場ではリハーサルもなくいきなり本番がはじまる。反射神経が良くないと即興の多いスワの現場についていけないんだ。今年で僕も73歳だから昔のような瞬発力はない。

僕は、正直あのシーンで何を言ったらいいのかわからなかった。でも、昔読んだサルトルの言葉が頭に浮かんだ。サルトルは死を「出会い」という言葉で表現する。死というものはネガティブな側面だけが強調されるけれど、サルトルはそれを違った観点から捉えている。それが面白いと思って記憶していたんだ。まさかあの言葉を思い出すとは自分でも思っていなかったけど、結果的にとても良い即興ができたと思う。僕自身、あのシーンはとても気に入っているよ。

映画『ライオンは今夜死ぬ』より

――ジャンがジュリエットの墓に手向ける赤い花(グラジオラス)は、ヒッチコックの「マーニー」(64)からイメージされたと聞きました。ヒッチコックへの思い入れなどがありましたら、教えてください。

レオー ヒッチコックはとても重要な作家だ。映画を志す者なら彼の存在を避けて通ることはできない。若い頃はヒッチコックの作品をたくさん観たよ。造形的な完成度の高さでは『サイコ』が突出している。『めまい』も好きだよ。とても不思議な魅力を持った作品だと思う。キム・ノヴァクの存在感もいい。『見知らぬ乗客』についてはフランソワとも話したことがある。でも、一番好きなのは『鳥』。あの作品は本当に素晴らしいと思う。

――諏訪監督といえば即興演出で有名です。これまで組んできた監督とはちがった演出方法であり、難しさもあったと思いますが……。

レオー 正直に言うと即興はあまり得意じゃないんだ。だからといって、やりたくないとも言えなかった。でも今度撮るときはシナリオが欲しいな(笑)。

ヌーヴェル・ヴァーグの監督たちと映画を撮っていたときだってほとんど即興はしていないんだ。即興をしていたのは俳優よりもむしろ監督たちのほうだ。彼らは毎朝少しずつシナリオを書いていた。たとえば、『家庭』のときは、フランソワが住んでいたアパートの上の階で撮影をしていたんだけど、フランソワは毎朝自分の書斎で書いた出来たてホヤホヤの脚本を僕のところに持ってきた。でも、俳優からしてみれば撮影の朝に台詞を渡されるのはとても困る。だって、一瞬で台詞を覚えなくちゃいけないからね(笑)。

スワの撮り方はとても独特だ。一つひとつのシーンはとても速く撮りあげられていくのに、それが並ぶと非常に美しい全体を形づくる。撮影は大変だったけれど、この年齢であんな経験が出来てとても嬉しい。この作品が自分のフィルモグラフィーに入るのがとても誇らしいよ。

映画『ライオンは今夜死ぬ』は、1月20日より、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開公式サイト http://www.bitters.co.jp/lion/

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▼プロフィール
ジャン=ピエール・レオー/1944年生まれ、パリ出身。59年、フランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』の主役にオーディションで抜擢され、大成功を収める。以後、ヌーヴェル・ヴァーグの監督たちの様々な作品に出演。トリュフォーの死により映画出演を控える時期もあったが、見事復帰。2016年には第69回カンヌ国際映画祭において名誉賞(パルム・ドヌール)を受賞している。

取材・翻訳:澁谷悠/構成:編集部/制作: キネマ旬報社

なお、「キネマ旬報」誌では、今回のインタビューの全文が読めるほか、作品の特集記事として、諏訪敦彦監督と筒井武文監督の対談、フランス文学者で映画評論家の中条省平氏と野崎歓氏による対談、映画評論家の秦早穗子さんによるエッセイも合わせて掲載されている。