この世には「オトナの事情」というものが存在する。たとえ作品が完成し、日の目を見るその時が間近に迫っていたとしても、社会情勢を読んで「忖度」し、公開を見合わせなくてはならない時もある。2月3日に公開される『アバウト・レイ 16歳の決断』も、そんな「オトナの事情」によって、過去に公開延期という苦渋の決断を迫られた映画のひとつだ。同作は、身も心も男の子として生きることを望むトランスジェンダーの少年・レイと、シングルマザーのマギー、祖母でレズビアンのドリー、ドリーの伴侶・フランシスら、家族の葛藤を描いたヒューマン・ドラマ。

本作は一度、2015年に日本での公開が決定しており、第79回アカデミー賞で脚本賞と助演男優賞を受賞した『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年)の製作陣が揃い踏みということもあって日本国内でも期待が高まっていた。ところが、公開日が決まった後で、配給会社と製作サイドの間で、よりよい作品にしたいとの意向から再編集することに。そのため、公開延期となっていた。そこで今回は、過去の名作の中から“やむを得ない事情”で公開が中止・延期されてしまった映画を3本ご紹介したい。

待望のクドカン作品だったが…『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(2016年)

まずは邦画。『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』は、宮藤官九郎が監督・脚本を務め、長瀬智也、神木隆之介、桐谷健太など人気俳優が出演するとのことで、公開前からファンの間で話題になっていたコメディ作品だ。本作のストーリーは、事故により落命し地獄にやってきた男子高校生が、現世に帰るため赤鬼率いるロックバンドに加入して奮闘するという極めて斬新なもの。

2016年2月6日に公開予定だったが、「『主人公がバス事故で死亡する』という冒頭のシーンが、同年1月に軽井沢で起きたスキーバス転落事故を想起させる」として公開延期に。しかし同年6月25日に満を持して公開され、オープニング2日間で18万8028人を動員して初登場1位と、公開にこぎつけた苦労が報われるほどの好成績を獲得した。

公開3週間後に起きた未曾有の災害『ヒアアフター』(2010年)

津波にのまれ臨死体験をしたフランスの女性ジャーナリスト、霊能者でありながらいつしかその力を嫌悪し始めたアメリカ人男性、双子の兄を亡くしたショックから立ち直れずにいるイギリスの少年をめぐる物語。

クリント・イーストウッドが監督を、スティーブン・スピルバーグが製作総指揮を務めたことでも話題となり、アメリカでは第82回ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞でトップ10に選出された名作だ。

日本では2011年2月19日から公開されていたが、その約3週間後に発生した東日本大震災を受け、日本での上映が急遽中止された。同年発売されたBlu-ray・DVDにも、津波の描写が含まれていることが注意書きされている。

テロ事件の描写が大幅に修正された『コラテラル・ダメージ』(2002年)

アーノルド・シュワルツェネッガー主演作品。爆弾テロによって妻子を殺された消防士・ゴーディーがテロリストへの復讐に燃え、消防士としての経験とスキルを活かして妻子の仇を追う、サスペンスあり、アクションありの血湧き肉躍るストーリーだ。

「これぞシュワちゃん!」というド派手なアクションはもちろん、クライマックスでのドンデン返しや「コラテラル・ダメージ(=やむをえない犠牲)」というタイトルに相応しい、高いメッセージ性が本作の見どころ。

本来、日米ともども2001年に公開予定だったが、同年に起きた同時多発テロ事件を受けて公開は延期となった。翌年に公開したバージョンでは、本編中でのテロ事件の描写も大幅に修正され、一部の俳優は出演シーンが丸ごとカットされたそう。

映画がエンターテインメント作品である以上、それを取り巻く社会の影響は免れない。しかし、そんな「諸般の事情」をくぐり抜けてようやく公開された映画ほど、興味をそそられるのではないだろうか。

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『アバウト・レイ 16歳の決断』では、『マレフィセント』(2014年)でオーロラ姫役を務めたエル・ファニング、そしてアカデミー賞に2度ノミネートされたナオミ・ワッツが自らの性に悩む少年と彼の決断に戸惑う母親を熱演している。ヒーローは遅れてやってくるというが、名作も遅れてやってくる(かもしれない)。是非、劇場でご覧あれ。

(小泉ちはる@YOSCA)