文・取材撮影=平辻哲也/Avanti Press

東野圭吾による“新参者”シリーズの完結編となる『祈りの幕が下りる時』(1月27日公開)。主人公の加賀恭一郎(阿部寛)はなぜ日本橋署に留まり続けるのか、父との確執、母の失踪など、これまで語られなかった最大の謎が明らかになる。映画のもう一つの主人公は舞台となる日本橋、人形町だ。“49歳、映画は一人で見る派”のオッサンが、“新参者”気分でロケ地を“捜査”してみた。

手がかり集めて捜査開始!

物語は東京都葛飾区小菅のアパートで女性の絞殺死体が発見されることから始まる。被害者は滋賀県在住の女性で、アパートの住民も行方不明。やがて、捜査線上に舞台演出家・浅居博美(松嶋菜々子)の名前が上がるが、完璧なアリバイがあった。やがて、事件は急展開し、加賀の過去へとつながる……。現在の事件と、悲しき宿命が交錯するストーリーは、松本清張原作の傑作『砂の器』を思わせる泣けるミステリーとなっている。

“49歳、映画は一人で見る派”のオッサンと“新参者”パネル

“捜査”は公開直前の日曜、1月21日に敢行。映画の記憶、原作本やネットの情報を手がかりに、なんとなくロケ地を特定。あとは“新参者”気分で地取り捜査を開始!! 起点は営団地下鉄「三越前」。

地上にあがって日本橋三越本店の隣にあるのが、「三井住友信託銀行」が入る「三井本館」(1929年)。アメリカン・ボザール・スタイルの新古典主義建築の重要文化財で、資料によると工費は当時の金で約2131万円。江戸情緒の残る日本橋界隈だが、明治以降の名近代建築も空襲を逃れ、その形を今に伝えている。

三井本館前[日本橋室町2-1-1]

その近くにある1869年創業の「室町 砂場」は、江戸前そばと日本酒が楽しめる名店。加賀と従兄弟の松宮脩平(溝端淳平)がそばを食べながら、事件のあらましを聞くシーンで登場。「もりそば」は加賀の大好物のようで、二枚注文する。残念ながら、日曜定休。同店へ改めて撮影にうかがった編集者によると、昼時は人生の先輩方の聖地といった賑わいで、そばも美味だったとか。こいつは再捜査が必要だ。

室町 砂場[日本橋室町4-1-13]
加賀と松宮が食事をする蕎麦屋

気を取り直して、『祈りの幕が下りる時』の上映館でもある「TOHOシネマズ 日本橋」も入っている「コレド室町2」の隣の福徳神社へ。この創祀は貞観年間(859~876年)と言われており、徳川家康も参拝したという神社。江戸時代には、富くじの発行を許されていたそうで、毎週サッカーくじのtotoを購入しているオッサンは必勝を祈願した。

福徳神社前[日本橋室町2-4-14]

加賀恭一郎と船上捜査!? 船でめぐる12の橋

同シリーズの映画第1弾『麒麟の翼〜劇場版・新参者〜』(2012年)の題名にもなった日本橋の麒麟像を見学。その装飾や細部は見事。日本橋は1911年に竣工された国の重要文化財。立派な橋だが、上に首都高速6号向島線がかかっていて、近くだと全体像が見られないのが残念。首都高速を地下に通らせようという計画には大賛成だ。

日本橋

船着場があるのを発見。行ってみると、「ストーリーの鍵となる12の橋を回遊できる特別クルージング」(2018年2月25日まで)なるものが実施されていた。これは乗るしかない! 劇中では、現場から「1月浅草橋、2月左衛門橋、3月西河岸橋、4月一石橋、5月柳橋、6月常盤橋、7月日本橋、8月江戸橋、9月鎧橋、10月茅場橋、11月湊橋、12月豊海橋」と書かれた遺留品が見つかり、加賀と松宮が船で12の橋を捜査するのだ。

乗船場所の日本橋船着場

1月にクルージングとは、少し季節外れのような感じもするが、この日は晴天。しかも、船は屋根付きで暖房完備だ。船尾のデッキには、加賀恭一郎の等身大パネルもあって、テンションが上がる。「阿部ちゃん、でかい!」と思ったら、阿部寛自身も「俺よりでかい」と思ったそう。しかし、下が底上げになっているので、実際のサイズはほぼ一緒なんだそうだ。

等身大パネルと日本橋の麒麟像

お土産には、昨年創業100年を迎えた重盛永信堂(しげもりえいしんどう)の人形焼とカステラ焼き。映画の特報には、箱入りの人形焼を開けるシーンも登場。加賀が聞き込みをする際に手土産として持っていく。

人形焼きは七福神の顔をかたどったもので、中にはこし餡がぎっしり。一方のカステラ焼きはほんのり甘い。実際の店舗は水天宮前の交差点にあるが、日曜日は定休日。こちらでもらえたのはラッキーだったが、店舗では、タイミングが合えば、焼きたても食べられるそうなので、日を改めて来店したい。

日本橋の麒麟像と、予告編などいろんな場面に出てくる
重盛永信堂[日本橋人形町2-1-1]の人形焼き

船内には、映画のポスターが貼られ、モニターからは映画の予告編も流れて、『祈りの幕が下りる時』一色だ。加賀刑事の「本日は『祈りの幕が下りる時』ツアーにようこそ」という音声からスタート。劇中にも登場する常盤橋までいってUターンし、日本橋川~隅田川~神田川上流へ行き、再び同じルートを戻っていくという約70分のコースだ。

『祈りの幕が下りる時』1月27日より全国東宝系にてロードショー
(c)2018 映画「祈りの幕が下りる時」製作委員会

ガイドさんからは、『祈りの幕が下りる時』のロケ地にまつわる話、川の歴史、絶景スポットについて聞くことができる。今ではその多くが埋められてしまったが、江戸時代の東京には、荷物を積んだ小舟が行き交う水路として「掘割」がめぐっていた。昔ながらの石積みの堤防も見ることができ、往時を忍ばせる。阿部寛も「上から見るのと下から見るのでは全く見え方が違う」と話していたそうだが、同意である。一括りに橋と言っても、さまざまな形があることにも気づく。

梯子を横に倒したような構造(フィーレンディール橋)の豊海橋

新大橋を抜け、茅場橋に近づく辺りから、首都高速は消え、空がひらけてくる。前後にデッキはあるが、オススメは前方。太陽が出ていて、風も吹いていないので、気持ちいい。デッキにもスピーカーがあるので、ガイドさんの声はバッチリ聞こえる。ロケ地の橋に近づくと、劇中の場面写真のパネルを見せて、説明してくれる。

日本橋川を下って、豊海橋を超えると、隅田川を左折。やがて、メイン舞台の明治座も見えてくる。

船上から見たメイン舞台となる明治座

隅田川大橋、清洲橋、新大橋を抜けると、両国橋の向こうにそびえるスカイツリーも見ることができる絶景ポイントだ。両国橋からは左折し、神田川へ。ここからは川幅が4分の1ほどに狭くなる。

スカイツリーの絶景ポイント

柳橋は船宿があり、岸には屋形船から停泊して、下町情緒たっぷり。船宿小松屋はロケ地の一つ。江戸橋をくぐり、左衛門橋を越えると、Uターン。同じコースをたどって、日本橋へと戻る。最後に等身大の阿部ちゃんパネルと記念撮影して、大満足だ。

ガイドの方が見せてくれた船宿小松屋での撮影風景のパネル

人形町であのお菓子の味調査

下船後、人形町へ。真っ先に向かったのは、甘酒横丁の入り口にある、京菓子の老舗「玉英堂(ぎょくえいどう)」だ。テレビシリーズの「新参者」では、「銀のあん」のたい焼きを買うために、加賀が行列に加わるものの、直前で売り切れになるというのがお約束のパターン。

『祈りの幕が下りる時』では、こちらの名物「虎家㐂(とらやき)」目当てで並ぶという設定だ。大人気商品だが、映画と違って買えない! ということはないので、一度ご賞味を。周りの紙を剥がすと、トラ模様の皮が出る仕掛け。皮はふんわり柔らかく、中には小豆がそのまま入っていて、食感を楽しめる。

玉英堂[日本橋人形町2-3-2]
虎家㐂を買いに並ぶけど買えない設定

玉英堂の「虎家㐂」

人形町では、いたるところに映画のポスターが貼ってあって、阿部ちゃんだらけ。甘酒横丁を入ると、手焼き煎餅の「草加屋」を始め、ドラマやテレビに登場してきた店舗がいっぱい。

案内板に従って、まっすぐ歩き明治座へ。「コロッケ特別公演」(2月11日まで)で大賑わいの劇場を見届けて、捜査完了とした。明治座では、映画の撮影現場と舞台機構を見学できる「明治座バックステージツアー」(http://www.meijiza.co.jp/news/20180115/)も開催。周辺では映画公開を記念したスタンプラリーの実施、フリーペーパーも配布しており、“捜査”の手がかりになる。日曜日は店舗の休みが多いので、土曜日がオススメだ。

明治座[日本橋浜町2-31-1]