1月27日から公開される『星めぐりの町』は、大ベテラン俳優、小林稔侍の初主演作。2時間ドラマでは数多くの主演を務めているので、意外と思われる方も少なくないでしょう。「もう自分が主演の映画を撮れるとは思っていなかった。夢を果たせてほんとうにうれしい」と小林本人がコメントしているように、正真正銘の初主演映画です。

東映の大部屋俳優としてキャリアをスタート

俳優生活50年以上を数える小林稔侍は、これまで数多くの作品に出演してきました。

デビュー間もない1960年代から1970年代中ごろまでは、東映のいわゆる大部屋俳優。高倉健主演の『網走番外地』シリーズや、梅宮辰夫主演の『不良番長』シリーズ、千葉真一主演の『やくざ刑事』シリーズといったアクション映画や任侠映画のチンピラ役、殺され役など、脇役として活躍が続きます。

おそらく、この時代を知るオールド・ファンにとって、彼はいまだに悪役のイメージが強いことでしょう。当時を知らない世代は、この時代の東映作品を見れば、必ず彼の若かりし頃の姿に出会えるはず。それぐらいこの時代の多くの東映作品に悪役や敵役で出演しています。

そのイメージが変わったのは、1980年代に入ってから。1986年のNHK連続テレビ小説「はね駒」で主人公(斉藤由貴)の父親役を演じたのをきっかけに、人気ドラマとなった「デパート!物語」シリーズなどで“日本の頑固おやじ”を好演。

また、中居正広主演の「味いちもんめ」シリーズの板長役や、高嶋政伸主演の「HOTEL」シリーズのフロントマネージャー役など、上司役でも存在感を発揮します。現在、ミドル・エイジにいる世代は、彼には日本の昭和のお父さん、理想の上司といったイメージを持っていることでしょう。

『鉄道員(ぽっぽや)』では、長年の夢を実現

1990年代後半からは2時間ドラマで数多くの主演を務め、「税務調査官・窓際太郎の事件簿」は、1998年から現在まで続く人気シリーズになっています。

一方で、近年は山田洋次監督作品でおなじみの俳優に。『家族はつらいよ』シリーズの橋爪功扮する周造とのんだくれる旧友といった茶目っ気とユーモアのある役で存在感を発揮。

また、彼が憧れの俳優で恩人としているのが高倉健。「端役ではなくきちんとした役でいつか健さんと共演したい」という夢を叶えたのが、1999年公開の『鉄道員(ぽっぽや)』。同作では、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞に輝いています。

小林稔侍が演じてきた男性像を集約した『星めぐりの町』

そして、『星めぐりの町』で彼が演じているのは豆腐職人の島田勇作です。この人物ですが、小林稔侍という俳優がこれまで体現してきた男性像のいいところがすべて入っていると言ってもいいかもしれません。

勇作は朴訥としていて実直。妻を早くに亡くし、男手ひとつで娘を育てあげました。おいしい豆腐を届けるためには一切の妥協を許さず、毎日手間暇を惜しむことなく豆腐を作り続けています。その腕は確かで、ある企業のトップもファンになるほど職人として認められています。その一方で、謙虚でえらぶったところが微塵もありません。気さくな性格で、豆腐を売りに出ると地元の主婦相手に冗談を飛ばしています。

こうした勇作の人柄は、脇役からコツコツとキャリアを積み重ね、周りから名優と呼ばれるようになってもおごり高ぶるようなところがまったくない、彼の役者人生にもどこか重なります。

また、悪役から理想の父親、ユーモアのある老紳士とイメージを変えた集大成的な役柄とでも言いましょうか。人生の苦いことも辛いことも楽しいこともすべて体験してきた中で、他者を拒まない度量が勇作という人物にはあります。

そんな勇作のもとに、亡き妻の遠縁にあたるという少年の政美がやってきます。政美は東日本大震災で家族全員を一瞬で失ったショックからいまだ立ち直れていません。そんな彼に、勇作は多くを語らず、ただひたすら心に寄り添う。やがてその勇作のさりげないエールが政美の心を少しずつ癒していきます。その優しさは俳優・小林稔侍に我々が抱くイメージと、彼の人間性そのものが滲み出ている気がしてなりません。

76歳にしてついに映画初主演を果たした名優、小林稔侍。『星めぐりの町』で、これまでの役者人生が垣間見えてくるような彼の心のこもった演技に触れてほしいと思います。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)