筧美和子と聞いて、グラビアを想起するひとは少なくないだろう。フジテレビ系列のバラエティ番組「テラスハウス」出身というイメージやドラマの印象もあるかもしれないが、男性であれば、篠山紀信撮影の写真集などにおける神々しいまでにグラマラスなボディが脳裏に焼き付いている可能性は非常に高い。だが、2月10日より公開される映画『犬猿』を観ればわかるはずだ。彼女が紛うことなき「女優」であると。

現代人のイライラを深くリアルに描写

『犬猿』は吉田恵輔監督の最新作(※吉は正式には土に口。以下同)。吉田監督はヒューマンでウェルメイドな作品も手がけるが、その真骨頂は、郊外に生きる者たちの鬱屈した生命力を、悪意すれすれのアングルで掴みとる腕力にある。一昨年、森田剛主演で古谷実の漫画を映画化した『ヒメアノ〜ル』における妥協なき暴力描写で話題を呼んだが、吉田監督の本領はオリジナル脚本でこそ発揮される。

『犬猿』は、2010年の『さんかく』以来久しぶりに、コミカルでありながら鮮やかに現代をスライスする、切れ味抜群の一作に仕上がっている。そう、吉田監督は、ニヤニヤ笑いながら、21世紀を生きるわたしたちの深層を刻んでいく監督なのだ。

『犬猿』では、一組の兄弟と一組の姉妹の交錯が描かれる。それぞれ似ても似つかぬ兄弟姉妹であり、弟は「どうしてこんなヤツがオレの兄貴なんだろう」と思っているし、姉は「なんでこんなバカがわたしの妹なんだろう」と感じている。

いちばん身近にいるからこそイライラせざるをえない関係性が、タイトルの『犬猿』には託されているのだろう。兄弟も姉妹も、あるときぶつかり、激しいケンカを繰り広げる。それが映画のクライマックスとなる。そこに至るまでのストーリーテリングは巧みだ。

だが、それ以上に、4人それぞれのキャラクター描写がリアルで深い。筧美和子も、日本の郊外のどこかにいるかもしれない女の子のリアリティを体現している。

吉田恵輔監督ならではの描写力が最も冴える、筧美和子の芝居

弟に扮するのは窪田正孝。彼は序盤で「人を殺しそうな目をしている」と評されるが、鬱屈した日常に耐え続けた果てに溜め込んだ殺気が、見事に表現されている。彼は出所したばかりなのに粗暴な振る舞いをあらためようともせず、迷惑ばかりかける兄(新井浩文が流石の安定感で演じている)を疎ましく思っているのだが、彼のイライラは単に兄だけに向けられているわけではない。

営業マンとして取引先に頭を下げ、コツコツと働きながらも、一向にうだつが上がらない日々にとことん嫌気がさしているのだ。つまり、彼にとって兄は、どうにもならない現実の八つ当たりの対象でもある。

この感覚は、現代を生きる人であれば、多かれ少なかれ共有できることではないだろうか。兄弟姉妹がいるいないにかかわらず、郊外に住んでいる住んでいないにかかわらず、わたしたちはみんな、イライラしている。

吉田恵輔が描くのは、わたしたちが否応なしに抱かざるをえないイライラである。吉田監督はときに悪意にすら映る冷徹さで、そのイライラを映し出す。だが、あまりに的を射ているから、ハッとせざるをえないのだ。この吉田監督ならではの描写力が最も冴えているのが、妹のキャラクターであり、筧美和子の芝居である。

(C)2018「犬猿」製作委員会

上から目線の裏側にある孤独な実像

筧が演じているのは、イメージビデオなどに出演しているものの、いまひとつ芽が出ないタレントの幾野真子である。彼女は地方都市在住で、実家の印刷所を手伝っている。愛らしいルックスから、取引相手からはチヤホヤされてはいるが、印刷所を切り盛りする姉(「ニッチェ」の江上敬子が納得の存在感で扮している)からは頭が悪いと見下されている。

見た目もスタイルもいい。だが、実は自分にはそれしかないのではないか?という、端から見れば贅沢にしか思われないかもしれない彼女の悩みに、なぜかじわじわ親近感が湧いてくるこの不思議。それは、筧が的確にこのキャラクターを捉え、ハッとさせるような瞬間をクリエイトしているからだ。

たとえばキュートに猫のポーズをとるときの、割り切っているようで割り切れていない、ほのかに不安げな微笑み。あるいは、姉に対して精一杯の思いやりを示したものの、すこーんと裏切られた直後の心もとない表情。あるときは憎まれ口を叩き、あるときは脱力し、あるときは男に媚びたまなざしや所作を送る。そんな彼女のすべては、そう見せているだけで、本質は別なところにある。筧の不安げな微笑みや心もとない表情は、そんなふうに人物に「肩入れ」させる力がある。

真子は、自分のことを可愛いとは思っている。そして、自分の魅力もある程度把握している。そのことは、たとえば姉から見れば「上から目線」にも映るだろう。だが、その「嫌な部分」は実はコンプレックスの裏返しでもある。ねじれた性格が、ふっと愛おしく思えるような芝居を筧美和子は見せている。

本作に登場する弟も兄も、姉も妹も、みんな自分なりに努力はしているが、報われていない。その結果、最も身近な家族と激しくぶつかることになる。報われない人生は、ひとりひとりが受けとめて背負っていくしかない。その人なりにずる賢く、タフに、図太く、傷つかないような処世術を積み重ねながら。筧美和子の演技は、そのことに気づかせる。キャラクターが抱える固有の孤独を表現できる演じ手は本物である。窪田正孝や新井浩文、江上敬子という芸達者の傍らにいて、彼女はなんの遜色もない芝居を本作で見せているのだ。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)