2017年に公開された日本映画『全員死刑』は、タイトル通り、一家死刑となった実在の家族が起こした凶悪犯罪を描き、大きな話題を集めました。本作に限らず、これまで“犯罪一家”を描いた作品は数多く作られてきました。犯罪に手を染める人生なんて、まっぴらだけど、家族ゆえに「抜け出したくても抜け出せない……」。そんな犯罪者の葛藤を、実話をもとに描いた“犯罪一家はつらいよ”な映画の中で、今回はギャングものを抜いた作品から3本ご紹介します。

逃れられない父の絶対的な支配力…『アウトサイダーズ』(2月10日公開)

(C) BFI, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION AND TRESPASS AGAINST US LIMITED 2015

間もなく公開の『アウトサイダーズ』は、『X-MEN』シリーズのマイケル・ファスベンダーを主演に迎えたクライム・アクション。現在、イングランドで約2万人いるとされるトレーラーハウス生活者・通称“トラベラーズ”であり、ある州における犯罪の7割(!)で告訴されていた実在の犯罪一家をモチーフとしています。

社会から隔絶され、犯罪に手を染めながらトレーラーハウスで放浪して生きるカトラー・ファミリー。中でも卓越した運転技術を持つチャドは、犯罪から足を洗って静かに暮らしたいと思いながらも、家業の後継者として犯罪に加担させられています。

ある日、父からの強引な命令で、乗り気のしない強盗に加わったチャドは、警察からの執拗な追跡にあうことに。なんとか逃げ切りますが、その日を境に父と子の関係に取り返しのつかない亀裂が入り、そして事態は取り返しのつかない方向へと走り出していきます。

妻と幼い子どものために足を洗い、新天地での生活を決意するチャドの前に、絶対的な権力で家族を支配し、立ちはだかる父コルビー。有無を言わさぬコルビーの異様さや、そんな父親の支配から逃れたい主人公チャドの葛藤を体現した役者陣の重厚な演技は、息をつかせぬ緊迫感があります。伝統を重んじ、家業を継がせようとする父との衝突には、観る者に普遍的なつらさを感じさせることでしょう。

(C) BFI, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION AND TRESPASS AGAINST US LIMITED 2015

犯罪の王国に放り込まれる恐怖…『アニマル・キングダム』(2010年)

実在した犯罪一家ペディンギル家をモデルにしたオーストラリア映画『アニマル・キングダム』。本作は、サンダンス映画祭でグランプリに輝き、クエンティン・タランティーノが2010年の年間ベスト3に選出したことでも有名になりました。

メルボルンで暮らす17歳の純朴な少年ジョシュアは母の死をきっかけに、祖母ジャニーンの家に引き取られることに。しかし、その家に住んでいる親族は強盗や麻薬密売で生計を立てていて、しかも祖母がその犯罪一家を束ねていたのです。

暴力にまみれた犯罪の世界へ放り込まれ、犯罪を強要される生活に違和感を感じながらも、なんとかやり過ごしていたジョシュア。彼は一家を追う刑事から、ある“取引”を持ちかけられます。

純粋すぎるがゆえに家族の絆や正義感、そして恋人の存在など、様々な問題の中で、深く葛藤していくジョシュアですが、そんな彼をジャッキー・ウィーバー演じる祖母ジャニーンがさらに追い詰めていきます。

どんな状況でも落ち着き払い、底知れぬ“闇”を感じさせるジャニーン、そんな彼女を筆頭に、自分の常識が通用しない集団の中に突如放り込まれるというつらさが、本作では全編に渡り描かれています。

息子の友達すら殺す、最狂の父にタジタジ…『エル・クラン』(2015年)

スペイン映画界の巨匠ペドロ・アルモドバルが製作をつとめ、第72回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を獲得したのが、1980年代にアルゼンチンで実際に起こった身代金誘拐事件をモチーフにした『エル・クラン』です。

裕福でご近所からも慕われているプッチオ家。ある日、長男のアレハンドロが友人の車で家まで送ってもらっていると、銃を持った男に襲撃されてしまいます。友人はトランクへ、アレハンドロは助手席へ放り込まれますが、覆面をした運転席の男の正体はなんと、アレハンドロの父であるアルキメデスでした。

身代金目的で友人を誘拐し、身代金の受け取りに成功したアルキメデスは、アレハンドロに次の仕事の協力を仰ぎますが、アレハンドロは恋人がいることを理由に仕事を抜けることを決意。そこから徐々にプッチオ家の歯車が狂い始めていきます。

本作の恐ろしさは何といってもプッチオ家の仲睦まじさと、凶悪な犯罪のコントラスト。父アルキメデスが、妻の作った夕食を、子どもたちと日常会話を交わしながら人質の監禁部屋に持っていく場面は、日常と犯罪行為をシームレスに描き、家族の不気味さを一層際立たせます。当たり前と言わんばかりに、犯罪を繰り返し、必要あらば息子の友人ですら殺してしまう父。そんな狂気の父を持った息子の境遇を考えると、あまりの恐ろしさに身の毛もよだつことでしょう。

今回紹介した3作品はすべて実在の事件が元になっています。まさに“事実は小説より奇なり”。もし自分の身の回りにこんな家族がいたら……と思うとゾッとしてしまいます。

(文/スズキヒロシ・サンクレイオ翼)