2月10日から公開される『ゆれる人魚』は、タイトルからお分かりのように、キュートなルックスを持つ人魚の姉妹が主人公の物語。ところが、そのストーリーは、これまでの“人魚像”がひっくり返るぐらいの奇天烈さ! 人魚伝説を大きく逸脱するような、驚きと衝撃のストーリーが展開していきます。

人魚といえば、クリーンで美しいイメージが強いのでは?

みなさんは、人魚という言葉にどんなイメージを抱きますか?

たとえばディズニー映画『リトル・マーメイド』(1989年)のアリエルを代表とするように、とても美人で性格は優しい。人間の男性に恋して、人になることに憧れてしまう。いずれにしてもピュア&ビューティ、人間に友好的で心も美しいクリーンなイメージがあるのではないでしょうか。

しかし、本作に登場するシルバー&ゴールデンの人魚姉妹は、かなり違うのです。容姿が美しく、人間の男性に恋をするというところまでは同じなのですが……。

いまだかつてない、ワイルドな人魚姉妹

シルバー&ゴールデンは、ずばり肉食系人魚。おしとやかに見えながら性格は貪欲で、食べるものも肉! 海辺から人間を捕まえ、人間を餌として生きています。口元には、ドラキュラのような鋭い牙も見え隠れしています。

そして、下半身に関してはとてもグロテスク。うなぎやナマズのようなヌメッとした感触がありそうな、どことなく生臭さが漂ってくるようにも映る造形になっています。

この人魚姉妹は好奇心が旺盛で、陸へと上がるのですが、その振る舞いも品行方正とはほど遠いもの。そもそも最初に向かった先が、大人たちのたまり場である怪しげなナイトクラブ。そこで、裏社会で生きるオーナーに見初められた彼女たちは、ステージに上がり、瞬く間にスターになります。

その間、タバコは吸うわ、酒は飲むわ、性に目覚めるわ……と、清純とは正反対の不良すぎる日々を送っていきます。しかも、ひとりの人間の男性をめぐって、姉妹は対立。恋心を隠せない姉のシルバーと、人間は餌でしかない妹のゴールデンはこの男性を食うか食わないかで、激しくぶつかります。ここまで嫉妬と狂気に狂った人魚は、見たことがありません! いまだかつてないほどワイルドで、ダーティーな人魚の生き様が描かれています。

ホラー&ミュージカル。その作品世界も異質!

人魚姉妹の異色ぶりも目立ちますが、本作は作品世界もまた独特です。

その映像は、どこか怪しげな闇を感じさせる暗さが漂っており、ダーク・ファンタジーもしくはホラーの要素を感じさせます。一方で、ストーリー自体は独特のテンポでちょっと笑いの要素も入ったミュージカル調で描かれています。ホラーのようなおどろおどろしさと、ミュージカルの明るさが混在しているとでも言いましょうか。実に摩訶不思議な映画ならではの虚構世界が広がっています。

監督を務めたアグニェシュカ・スモチンスカは、本作が長編デビュー作となるポーランドの新進女性映画作家。この唯一無二な才能には、今後も注目しておいて損はないでしょう。

美しき人魚伝説を、いわばダーク・ホラー・ファンタジーへと変貌させた本作。ポーランドから突如現れ、我々を惑わし、凌駕する妖しいマーメイドに、みなさんも出会ってみてはいかがでしょう。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)