文=木俣冬/Avanti Press

TBS系1月期の金曜ドラマ「アンナチュラル」は、石原さとみの唇のふくよかさに賭けて、野心的なドラマである。

火曜ドラマが面白いと印象づけた「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年)、「カルテット」(2017年)や、日曜劇場「陸王」(16年)など高視聴率をマークする池井戸潤原作のドラマなど意欲作を次々と繰り出しているTBSが、2018年の最初に世にぶつけてきたドラマは、日本に新設された死因究明専門のスペシャリストが集まる〈不自然死究明研究所(UDIラボ)〉が活躍する法医学ミステリー。本ドラマの好調の理由を探ってみたい。

ヒットドラマの鉄板、医療とミステリーを合体 

第1話はウイルス感染死、第2話は集団自殺、第3話は夫による妻の刺殺について、どこか不自然な死の意外な真相を、石原さとみ演じる法医解剖医・三澄ミコトが同僚たちと共に追求していった。

1話では、出張先のサウジアラビアでウイルスに感染、日本をパンデミックに陥れたと責められる死者の無実を晴らし、実は院内感染だったことを暴いた。2話では、自殺サイトで知り合った無関係な人々の集団自殺が実は殺人だったことを突き止め、被害者が最期まで助けようとした人物を救った。3話では、妻を刺殺した真犯人を、包丁の刃の向きから探り出した。 

死体の痕跡を徹底追求し、そこに至るまでの事情を詳らかにしていく謎解きの醍醐味と、死をきっかけに、そこに関わった人々の愛憎をいっそう浮き彫りにするヒューマン・ドラマの感動といえば、先人に、テレビ朝日制作の、法医研究員が主役の「科捜研の女」シリーズ(1999年〜)や検視官が主役の「臨場」シリーズ(2009年、2010年)がある。

海外ドラマでは、鑑識班が主役の「CSI:科学捜査班」(2000〜2015年)、骨から死因を探る法人類学者が主役の「BONES」(2005〜2017年)が人気。「アンナチュラル」の第2話で、「科捜研の女」「臨場」「BONES」のタイトルや登場人物名を主人公たちが冗談めかして語る場面があるため、作り手たちが、これらのヒット作を意識していることは明白だ。

そもそも、昨今、ヒットするテレビドラマは、医療ものか警察もの(ミステリー)と言われており、ふたつの要素を合体させ、当てに来たドラマが「アンナチュラル」だ。3話で視聴率が下がったものの、1、2話の視聴率と注目度は狙いどおりだったことだろう。

でも決して安牌を狙わない!

だがこのドラマ、単に医療とミステリーを合体させた安牌狙いではない。さらにそこに、1話ではパンデミックもの、2話では、冷凍庫に閉じ込められ水没させられるアクションもの、3話では「リーガル・ハイ」シリーズ(フジテレビ/2012年、2013年)などで人気の法廷もの……と人気エンタメの要素をこれでもかとぶち込んでいく。

遺体の解剖というヘヴィな仕事につきながら、軽口を忘れない登場人物たちの姿は、深津絵里を主人公にした「きらきらひかる」(1999年/フジテレビ)を思わせるし、優秀だが、ワケありそうな先輩・中堂系(井浦新)が「人なんてどいつもこいつも切り開いて皮をはげば、ただの肉の塊だ」と乾いた信条を語り、「赤い金魚」という謎の言葉に関わり、社会批判などをちょいちょいまぶした刑事ものの雰囲気は「ケイゾク」(1999年/TBS)を、「絶望してるひまあったらうまいもの食べて寝るかな」(第3話)の台詞は、「ケイゾク」の続編「SPEC」シリーズ(2010〜2013年)の、いつでもガツガツ牛丼を食べていたヒロイン(戸田恵梨香)を思わせる。

好調理由1.意外なところに導かれる喜び
ツアープランナー的手腕を発揮!「逃げ恥」脚本家

「アンナチュラル」のプロデューサーには、「ケイゾク」「SPEC」で、00年代の金曜ドラマを活性化してきたTBSの植田博樹がいる。もうひとりのプロデューサーで、このドラマを主導しているのは、「夜行観覧車」(2013年)、「Nのために」(2014年)、「リバース」(2017年)と湊かなえのイヤミスを金曜ドラマで定着させてきた制作会社ドリマックス・新井順子だ。この並びから、TBS系金曜10時のミステリードラマを牽引してきた2大プロデューサーの名にかけて、新たな面白いミステリーを作ろうという意欲がひしひしと感じられるではないか。それはまた、作品の出来は良いのに視聴率に苦戦した、ある意味“不条理な死”を迎えた作品たちへのリベンジにも思える。

この錚々たるプロデューサー陣の期待を一心に背負うのが、社会現象にまでなった「逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)」(2016年、原作海野つなみ)の脚本を描いた野木亜紀子。有川浩の人気小説をドラマ化した「空飛ぶ広報室」(2013年)や「図書館戦争」(2015年)をはじめ人気小説や漫画の脚本化に定評があり、野木亜紀子が描いているなら面白いという信用度が昨今急上昇している作家だ。

「ドラマオタクなので表面的な面白さ以外のものも求めたくなるんですよね。自分がお客さんだったときに、そういう楽しみをしていたから」(『美術手帖』2018年2月号)と語るだけに、相当、ドラマを見て研究し、換骨奪胎を行っているように思える。

謎解き、人間ドラマ、お仕事ドラマ、会話劇、群像劇、笑い、オマージュ、風刺、ポリコレ、くすぐる名台詞……等々、徹底的に視聴者の関心に心を砕き、くすぐり続ける。話の運びも、フェイントの入れ方が絶妙で、視聴者は、意外なところに連れていかれる喜びが得られる。野木亜紀子はまるで、参加者を十分満足させるツアープランナーのようだ。

好調理由2.登場人物たちが抱える秘密
謎は事件だけじゃない!

俳優陣に、また魅力的な才能が集まった。

主役の石原さとみは、全身を覆う清らかなオーラにただ一点ちょっと淫らな感じのする唇という理想的な偶像であり、彼女が出る作品は底上げされる。井浦新も、若松孝二監督作の常連というアングラ感と、下鴨神社で写真展を行うような雅感を併せ持った不思議な存在だ。

主人公の同僚役の市川実日子(映画『シン・ゴジラ』)、バイト役の窪田正孝(「Nのために」、NHK朝ドラ「花子とアン」)、上司役の松重豊(テレビ東京「孤独のグルメ」、TBS「重版出来!」)、母役の薬師丸ひろ子(NHK朝ドラ「あまちゃん」)、葬儀屋役の竜星涼(NHK朝ドラ「ひよっこ」、テレビ朝日「獣電戦隊キョウリュウジャー」)など、誰がメインに来ても楽しめそう。

石原演じるミコトには生い立ちに秘密があって、それが彼女を「法医学は未来のための仕事」(第1話より)と駆り立てる。

秘密を抱えているのはミコトだけではない。中堂(井浦)にも秘密がある。そしてその中堂とつるんでいる葬儀屋・木林(竜星涼)、記録のバイトとして働きながらネタを週刊誌(これも今をときめくブラックジャーナリズムネタ)に流している久部(窪田正孝)、天下りなのか志があるのか謎な所長・神倉(松重豊)など、それぞれに抱えている事情が、これから進行上、どのように機能していくかも見どころだろう。

医療+ミステリーの皮をかぶった「アンナチュラル」が何を内包しているのか。週末の夜、じっくり観察させてもらうとしよう。