少年時代からオリジナル版のリメイクを夢見ていたというプロデューサーの熱意により、10年越しで誕生した『ウイスキーと2人の花嫁』(2月17日より公開)。本作の公開にちなみ、長い歳月をかけて製作された作品=“熟成”作品をピックアップ。長期間かけて作ったからこそ滲み出てくる、スタッフの熱意やこだわり、舞台裏のエピソードをご紹介します。

完成までにバージョン違いが10作以上!? 『インサイド・ヘッド』

映画製作におよそ3~4年を費やすというピクサー。ストーリーに重きをおく製作方針ゆえ、何度もブラッシュアップを重ねているそう。なかでも『インサイド・ヘッド』(2015年)の製作には、5年もの歳月がかけられています。

製作過程を追っていくと、まずは脚本をビジュアルに起こす“ストーリーアーティスト”によって、物語を漫画形式で描いていく作業が行われるのですが、『インサイド・ヘッド』の場合、物語の大まかな流れを作るために、実に約17万7,000枚ものストーリー画が描かれたそう。一般的に、大作と言われる作品の作画でも多くて10万枚程度とされているので、「17万7,000枚」は膨大な数だと言えるでしょう。

それを絵コンテにまとめ、90分につなぎ合わせたバージョンで1回目の試写を実施。それを踏まえてクリエイティブ部門の中心メンバーがあらゆる角度から審議を行い、その都度物語を解体しては、計10回も新たに作り変える作業を繰り返したというから、ピクサーの並々ならぬこだわりを感じることが出来ます。

リーマンショックで製作中断!? 総製作費20億円の超大作『GAMBA ガンバと仲間たち』

『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)や『STAND BY MEドラえもん』(2014年)を送り出してきた映像制作会社・白組が、構想15年、製作期間10年をかけて完成させたのが、総製作費20億円の3DCGアニメーション『GAMBA ガンバと仲間たち』(2015年)です。

本作の製作に突入する直前、“リーマンショック”に見舞われ主幹事会社が降板してしまうなど、数々の危機を乗り越えて誕生した本作。ベースとなっているのは、1972年に刊行された児童文学『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』です。ミュージカルやTVアニメとしても人気を集めたこの冒険物語に、一流のスタッフによって新たな息吹が吹き込まれました。

本作を製作し始めた頃はまだ海を描くCGの技術が確立しておらず、波を表現するためにソフトを開発するところからスタートしたとのこと。「なんとしても日本でも3DCG作品を完成させたい!」という、白組の思いの強さを伺い知ることが出来ます。

エグゼクティブ・プロデューサーには『スパイダーマン』(2002年)などのプロデューサーとして知られるアヴィ・アラッドを起用。サントラはベンジャミン・ウォルフィッシュがロンドンのアビー・ロード・スタジオでフルオーケストラによる収録を行うなど、国際的に活躍するクリエイターが名を連ねています。

小沢健二の名曲「ぼくらが旅に出る理由」を、高木正勝のアレンジで倍賞千恵子がカバーした主題歌は、健気に生きるガンバたちの姿とともに、観客の心に焼き付いたことでしょう。

もはやドキュメンタリー!? リアルすぎる成長物語『6才のボクが、大人になるまで。』

1本の映画を12年かけて撮影したというだけでなく、登場する主人公家族が同じ俳優で構成されたという作品が、リチャード・リンクレイター監督が手掛けた『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年)です。

タイトルがあらわす通り、撮影開始当時6歳だった主人公のメイソンを演じるエラー・コルトレーンが、実際に18才になるまでの成長過程をカメラに収めるという画期的な手法で製作され、フィクションでありながら、ある種のドキュメンタリーであるとも言える本作。

12年という長い時間を共に過ごしたことで、スタッフ、俳優の間にも絆が生まれ、他の作品にはない独特のリアリティが表現されているのです。父親役を演じたイーサン・ホークは過去のインタビューで「本作が特別なのは、12年という時間の流れや、突然訪れる出来事、撮影するたびに日々変化していく関係性、コミュニティ、政治、その時代の様々なものに影響されているところにある」と答えています。

一流コンサルタントから映画プロデューサーに転身!? 『ウイスキーと2人の花嫁』

最後にご紹介するのが、1949年に製作された同名映画をリメイクした『ウイスキーと2人の花嫁』です。本作は、第二次世界大戦中、スコットランドのエリスケイ島沖で大量のウイスキーを積んだ貨物船が座礁した、実在の事件をモデルにした小説を原作とした映画です。

プロデューサーを務めたイアン・マクリーンは、「いつか自分がリメイクしたい!」という一心で、一流企業のITコンサルタントから、まったくの未経験で映画業界に転身したというから、その情熱たるや並大抵のものではありません。製作も、座礁した船に乗っていた船員など、事件の当事者に丹念な取材を行い、完成までに10年の歳月を費やしています。

ウイスキーをこよなく愛する島民たちが繰り広げるユーモラスな騒動と、結婚を控えた二人の姉妹と父親の絆を、美しい映像と心弾む音楽に載せて描いた本作。美酒を片手に、老いも若きもが一堂に会して狂喜乱舞するさまは、観る人を幸せな気分にしてくれること請け合いです。

ストーリーを練りに練ったものから、資金難に陥って製作中断を余儀なくされたもの、製作過程がそのまま作品になったものまで、製作期間が長くなってしまった理由は実にさまざま。そんな背景も鑑みながら“熟成”作品たちを観てみると、さらなる味わいを感じられるかもしれません。

(文/渡部喜巴@アドバンスワークス)