文=金田裕美子/Avanti Press

アメリカ映画に最もよく登場する食べ物は何か。はっきりした統計があるわけではないので断言はできませんが、ハンバーガーはトップまたはトップに近い順位にくるのではないでしょうか。あまりにも日常的な食べ物なので、映画に出てきてもほとんど印象にすら残らない。でもちょっと気をつけて見ていると、ここにもあそこにも、あ、あの映画にも! と次々発見することができます。アメリカの公共放送PBSによると、アメリカで1年間に消費されるハンバーガーの数は、なんと500億個! 平均的なアメリカ人は週に3個食べる計算になるんだとか。そりゃ映画にもよく出てくるはずです。

『スリー・ビルボード』もちろん出てくる、ハンバーガー!

2017年度ゴールデングローブ賞でドラマ部門作品賞に輝き、3月に発表されるアカデミー賞でも作品賞の最有力候補のひとつとされている『スリー・ビルボード』にも、ハンバーガーが出てきます。ノミネート記念! というわけでもありませんが、今回はアメリカの国民食ともいうべきハンバーガーを作ってみます。

『スリー・ビルボード』2月1日全国ロードショー
(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

『スリー・ビルボード』は、ミズーリ州の小さな町が舞台。車もあまり通らない辺鄙な道路の脇に、中年女性ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が3枚の看板広告を出すところから始まります。真っ赤なボードに黒い文字で書かれているのは「レイプされて殺された」「それなのに逮捕はまだ?」「どうしてよ、ウィロビー署長?」の文字。7カ月前、何者かに娘を殺されたミルドレッドは、捜査が一向に進まないことに腹を立て、署長を名指しで非難したのです。

でもこのウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)は、映画によく出てくるような権力を笠に着た悪徳署長ではなく、誰からも慕われている良き警官であり家庭人。さらに不治の病を患っています。そんな署長に対してなんてことを! と町の人々は憤慨、広告を取りやめるようミルドレッドに迫ります。特に署長を敬愛する巡査のディクソン(サム・ロックウェル)は、露骨な嫌がらせを始めます。

これだけ書くと、ものすごく気が滅入りそうな映画に見えてしまいそうですが、ブラックというかオフビートというか、全編にユーモアがちりばめられていて、暗い気持ちにはならない。主演がマクドーマンドであることや、変哲もない田舎町で次々ととんでもないことが起こり、予想もしない方向に話が転がっていく感じは、ちょっと『ファーゴ』(1996年)をはじめとするコーエン兄弟(お兄さんのジョエルはマクドーマンドの旦那さん)の作品を思わせます。

『スリー・ビルボード』2月1日全国ロードショー
ウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)とミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)
(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

看板広告のみならず、それをとがめる人たちへの罵詈雑言(と暴力)で町中を敵に回したミルドレッドは、唯一かばってくれたジェームズ(ピーター・ディンクレイジ)と食事に行くことになります。一応テーブルクロスもあり、コーヒーショップよりはやや高級そうなレストラン。とはいえミルドレッドは作業着っぽいジャンプスーツ姿だし(デートのつもりのジェームズはジャケットにタイ)、カントリー調のカジュアルな雰囲気です。小さな町なため、レストランもそんなに多くはないのでしょう、この店でミルドレッドは元夫のチャーリー(ジョン・ホークス)とその若い恋人と鉢合わせします。この時チャーリーが食べているのが、出ました、ハンバーガー。

ハンブルグ風ステーキ、いまやアメリカの国民食!?

ハンバーガーはご存じのとおり、ドイツ系移民がアメリカに持ち込んだハンバーグ=ハンブルク風ステーキを丸いバンズにはさんだもの。1904年のセントルイス万国博覧会の会場で売られたあたりから徐々に知られるようになったそうです。1930年代の大恐慌時代に実在した銀行強盗カップルを描くアメリカン・ニューシネマの傑作『俺たちに明日はない』(1967年)には、ボニー(フェイ・ダナウェイ)がカフェでバーガーをぱくつくシーンや、逃走中の車中でテイクアウトのバーガーを食べるシーンがありました。

一般市民に浸透したのは、なんといっても1940~1950年代にマクドナルドをはじめとするハンバーガー・チェーンが全米展開を始めてから。手軽に温かいサンドイッチが食べられ、しかも安いとあって、若者たちにも大人気となりました。50年代を舞台にしたミュージカル『グリース』(1978年)や、60年代を舞台にした青春群像映画『アメリカン・グラフィティ』(1973年)で、ティーンエイジャーたちがダイナーやハンバーガー・スタンドに集まってはバーガーを食べていました。

日本映画にもあります。『横道世之介』(2013年)で、大学生の世之介(高良健吾)とお嬢様の祥子(吉高由里子)が急接近するきっかけとなるのが、ハンバーガー。ぶ厚く食べにくそうなハンバーガーをワイルドにガブッと食べる世之介を見て、お上品な祥子も真似して手づかみでガブッ。ここで二人はすっかり打ち解けるのです。こう見てくると、ハンバーガーはなんだか青春の食べ物みたいです。

『キングスマン:ゴールデン・サークル』全国にて公開中
かっこいい50年代風のダイナーだが……
(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

先ごろ公開された『キングスマン:ゴールデン・サークル』(1994年)では、麻薬組織のボス、ポピー(ジュリアン・ムーア)が潜伏しているカンボジアの山中に50年代風アメリカン・ダイナーを作り、巨大挽肉機を使ってハンバーガーを調理していました。ま、これは挽肉の材料を見たら食欲ゼロどころかマイナスになる恐ろしいバーガーでしたが。

ハンバーガーへのこだわり!タランティーノ映画

監督の中でハンバーガーに強いこだわりを持っていると思われるのは、クエンティン・タランティーノ。カンヌ映画祭パルムドールに輝いた大出世作『パルプ・フィクション』(1994年)には、何度もハンバーガーが登場します。組織に雇われている殺し屋のヴィンセント(ジョン・トラヴォルタ)がボスの妻ミア(ユマ・サーマン)と共にこれまた50年代風ダイナーに行くシーンで、ヴィンセントはステーキを、ミアはハンバーガーを食べていました。

また、ヴィンセントが相棒ジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)と車の中で話しているのもハンバーガーのこと。「パリでクォーターパウンダー・ウィズ・チーズを何て呼ぶか知ってるか? ロワイヤル・ウィズ・チーズだ」「ビッグマックは?」「ル・ビッグマック」。さらにジュールスは、始末しようとしている相手が食べていたハンバーガーを取り上げて食べ、ついでに「フランス語でクォーターパウンダー・ウィズ・チーズを何て言うか知ってるか!」などとすごんで見せます。

『パルプ・フィクション』の殺し屋コンビ
(C)picture alliance / United Archives/IFTN

この時に出てくる「ビッグ・カフナ・バーガー」は架空のハンバーガー店ですが、タランティーノのデビュー作『レザボア・ドッグス』(1992年)や『フォー・ルームス』(1995年)、『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007年)のほか、タランティーノの盟友ロバート・ロドリゲス監督の『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996年)にもその名前が登場する、いうなれば常連店なのでした。

と、ここまで書いたところで、ユマ・サーマンが『パルプ・フィクション』のプロデューサーでもあるハーヴェイ・ワインスタインに受けたセクハラ・パワハラと、『キル・ビル』撮影時に彼女が自動車衝突事故で負傷したことを隠蔽しようとしたタランティーノ監督を告発する記事がニューヨーク・タイムズに出ました。どちらも好きな作品だけに、とても複雑な思いです……。

ハンバーガーの話に戻って。近年では、ハンバーガーが単に消え物(演技中に食べたり飲んだりしてなくなる小道具)として登場するだけではなく、ハンバーガー・チェーンの内幕を暴いた『ファーストフード・ネイション』(2006年)や、マクドナルドのフランチャイズ化の舞台裏を描く『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(2017年)などハンバーガー業界を題材とした作品や、マクドナルドのメニューだけを1カ月間食べ続けたらどうなるか体を張って実験したドキュメンタリー『スーパーサイズ・ミー』(2004年)など、ハンバーガーをど真ん中にすえた映画も作られています。どれだけ深く社会に根づいてるんだ、ハンバーガー。

ハンバーガーを作ってみます!

というわけで、さっそくハンバーガーを作ります。重要なのは、やはりパテ。日本でハンバーグというと、合挽肉に炒めた玉ねぎやパン粉、卵などを加えてこね、ふわっとジューシーに仕上げるものが一般的ですが、これはアメリカではソールズベリー・ステーキと呼ばれる別の料理に近いらしい。今回はやはりアメリカ式に、牛肉100%で行きたいと思います。

なるべく脂の少ない赤身の牛挽肉を用意します。ハンバーグのレシピにはよく「挽肉を粘り気が出るまでよくこねます」と書いてありますが、ここではこねない。パン粉もつなぎも何も入れないので、よくこねると焼いたときにパテが固くなってしまうのです。

ニューヨークにある人気ハンバーガー店では、調理台の下にある引き出しのような冷蔵庫に挽肉がどさっと入っており、そこからアイスクリームのスクープで挽肉を丸くすくい、そのまま鉄板にぼとっと落として上からアイロンのようなバーガープレス機でぎゅっと押しつぶしてパテを焼いていました。ワイルド。きれいに丸くならなくても、まわりがひび割れてギザギザになっても全然気にしない。どうせバンズで隠れちゃうし、ということでしょうか。

こねない! 平らにのばすだけ

今回はそこまでワイルドにならずに、挽肉をボールのように丸めてから平たくのばし、手の上で形を整えてパテにします。焼くとかなり縮むので、パテはバンズより大きめに。これを熱いフライパンでじゅー。パテの裏表を好みの焼き加減に焼き、塩こしょう。この時バンズも隣で一緒にこんがり焼いておきます。

隣でバンズも焼いておきます

バンズにケチャップ、マスタードを塗り、焼きあがったパテ、レタス、トマト、玉ねぎスライス、ピクルスをはさみます。さらにサイドにつけ合わせのフライドポテト、ピクルスをのせればハンバーガー・プレートの出来上がり!

拍子抜けするほど簡単ですが、この「こねない100%ビーフのパテ」が決め手です。もちろんアメリカでも、店によっては挽肉にベーコンやチーズ、様々なスパイスなどを混ぜ込むところもありますが、やはり基本は肉100%。パテの下準備も必要ないので、バーベキューのメニューとしてもお勧めです。

焼いて、切って、はさむだけ。超かんたん

レストランでハンバーガーを食べていたミルドレッドの元夫チャーリーは、ハンバーガーと一緒にビールを飲んでいました。『グリース』のダニー(これもジョン・トラヴォルタ)とサンディ(オリヴィア・ニュートン=ジョン)、『パルプ・フィクション』のミアは、ハンバーガーのお供にミルクシェイクをオーダーします。

そういえば『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』にも描かれているように、マクドナルドを全米に展開させたレイ・クロックは、ミルクシェイク用ミキサーの製造販売業者でした。それならば、ついでにミルクシェイクも作ります。

『パルプ・フィクション』のミア(ユマ・サーマン)。5ドルもするミルクシェイクをおいしそうに飲んでます
(C)picture alliance / United Archives

これもとっても簡単。冷凍庫から冷蔵庫に移して柔らかくしておいたアイスクリームと牛乳を、ミキサーまたは泡立て器でよく混ぜ合わせ、グラスに注いでホイップクリームとチェリーを飾るだけ。

アイスクリームはやわらかくしておいた方がスムーズに仕上がります

ハンバーガーのお皿とミルクシェイクを並べると、とってもクラシックでアメリカーンな雰囲気になりました。

アメリカン・ダイナー風

さて実食。牛肉100%のこねないハンバーガーは、中のパテが「挽肉のステーキ」という感じで、サンドイッチの一種というより肉料理っぽい。チャーリーがレストランでディナーとして食べているのもわかる気がします。これは、家でも一度試してみる価値ありです。

ミルクシェイクは、アイスクリームが牛乳で薄まっていると思いきや、すんごい甘ーーい。ハンバーガーとポテトとシェイクで一体何キロカロリーになるんでしょう……なんてことは考えないのが、映画の登場人物たちのうらやましいところですね。

『スリー・ビルボード』のレストラン風

【材料】
《ハンバーガー》
牛挽肉、ハンバーガー・バンズ、レタス、トマト、玉ねぎ、ピクルス、ケチャップ、マスタード、塩、こしょう
つけ合わせのポテト、ピクルス
《ミルクシェイク》
アイスクリーム(フレーバーはお好みで)、牛乳、ホイップクリーム、チェリー
《映画っぽい雰囲気を盛り上げる小道具》
看板、バンダナ、ジャンプスーツ、ボトルの白ワイン、シリアル、拳銃、火炎瓶