田中麗奈&ワン・ポーチエW主演の映画『おもてなし』(3月3日全国公開)。その中に流暢な英語とはんなり京ことばで、ひと際目を引く美女がいる。女優の藤井美菜。韓国のリアリティー番組に出演した際には“美しすぎる日本人女優”として話題をさらい、韓国映画界の鬼才キム・ギドク監督の新作ではヒロインに抜擢された逸材だ。活動の地を韓国に広げて約6年、国際派女優・藤井美菜はどのようにして生まれたのか。

縁って本当にあるんだ

きっかけは、日本を席巻した韓流ブームの火付け役的ドラマ「冬のソナタ」(2002年)。好奇心から言語を理解したいと大学で韓国語を専攻。卒業後も日本の語学学校に通い、女優業の傍ら韓国語の勉強を続けた。そこに韓国SBSドラマ「ドラマの帝王」(2012年)への出演オファーが舞い込む。

「役柄が“韓流好きでちょっとだけ韓国語を話せる日本人女性”という完全に『これ私じゃん!』的キャラクターでした。日本人という役柄が多くない韓国ドラマにおいて、偶然にも日本人役が存在していて、そこに参加することができた。韓国語は仕事に繋げようとして始めたものではなく、完全に自分の趣味を充実させるために始めたもの。縁って本当にあるんだと驚いた」と運命の不思議に目を丸くする。

韓国のバラエティ番組に初挑戦

日本人女優として韓国でキャリアを積み、韓国のバラエティ番組にも進出。韓国では俳優も女優も分け隔てなくバラエティ番組に出演するのが一般的というが、ただでさえ言葉も違えば、文化も違う異国の地。「日本でのバラエティ経験もほぼないのに『なぜ私が韓国のバラエティ番組に!?』と戸惑った」という心境は当たり前というもの。それでも藤井は「韓国では日本人という“外国人”という部分が自分の個性。強くプッシュできる武器になると思考を変えた」と躊躇を押しのけて新しい扉をノックした。

驚かされたのは、韓国のバラエティ番組の収録の長さ。スタジオでの7時間収録は普通。しかしそれが吉と出た。「韓国のバラエティは台本から脱線するのが当たり前なので、収録も長い。私は台本があると『その通りにやらなければ!』と意識しすぎてガチガチになるタイプでしたが、韓国のバラエティは必ず台本から脱線するので『なんでもいいんだ!』という自由な気分になれた。そうやって状況に応じて柔軟に対応できる自分に驚いたし、韓国のバラエティが自分の知らない自分を見つけてくれた」と収穫は多い。

韓国内での知名度は上昇。両輪が上手く回り、バラエティでの反響が女優業オファーへと繋がる相乗効果も生んだ。映画『おもてなし』の台湾人監督ジェイ・チャンからキャスティングされたのも、韓国での経験と実績があったから。藤井も「周囲からは『韓国に行って自由になったね』と言ってもらえる。韓国での経験がすべていい方向に向かっている」と実感している。

同映画では、はんなり京ことばに加えて英語セリフにも挑戦。「母国語以外のセリフというのは、言葉を伝えることに重きを置くと感情がおろそかになる。その逆も然り。表現に対して毎回葛藤を抱えながらも、それをクリアしていくのが課題。韓国で活動する中で、外国語でお芝居をする大変さは経験してきたので、改めてその経験は無駄ではなかったと思えた」と経験に勝るものなしだ。

鬼才監督作でヒロイン大抜擢

チャン・グンソク、オダギリジョーらが出演するキム・ギドク監督の新作『人間、空間、時間そして人間(原題)』ではヒロインに抜擢。国際的に注目される異才の新作での大役、プレッシャーがないといえば嘘になる。その背中を押したのも、異国の地で積み上げてきた時間だ。「大御所の大先輩がいる中で、自分がふさわしいのかと思い悩みました。でもギリギリできるのではないかと。その決断は、これまでの6年の経験がなかったら無理でした。撮影中のコミュニケーションはすべて韓国語。もし韓国語が喋れなかったとしたら、通訳を間に挟んで時間もかかるし、演出の微妙なニュアンスもくみ取れなかったはず。そういった意味では、準備は整っていたのかもしれません」。

今年7月に20代に別れを告げるが「日本の第一線で活躍する同世代の俳優さんには凄い方が多く、その中で自分は何を武器に生き抜いていくのか、というのが悩みとしてありました。でも今では趣味として接した韓国での経験が藤井美菜の一つの個性、一つの強みになった」と自信を胸に30代のスタートを切るつもり。

海外にいたからこそ、日本の良さも鮮明に見えてきた。「海外経験があるからこそ、母国で芝居をする大切さを理解できた部分もあります。『おもてなし』でも描かれている日本の素晴らしさを再認識しながら、国を問わずに活動していきたい」。好奇心も藤井の強みの一つ。それに人生においてノックすべき扉は1枚ではないことを、体験を持って十分に知っている。

(取材・文 石井隼人)