文=赤尾美香/Avanti Press

映画館の座席につき、館内の照明が落ち、予告が終わって、いよいよ本編。いつものディズニー映画なら、シンデレラ城と花火をバックに「星に願いを」が流れてくるはずなのに……あれ? なんかいつもと違うぞ。同じ「星に願いを」だけど、マリアッチ(メキシコの小編成楽団)風にアレンジされているではないか! ここからすでに、本作『リメンバー・ミー』の世界は始まっていたのだ。気の利いたサプライズに頬が緩む。

『リメンバー・ミー』
3月16日(金) 公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

天才ギター少年ミゲルが、極彩色の「死者の国」で大活躍

第90回アカデミー賞(現地時間3月4日発表)で、長編アニメーション賞と主題歌賞の2部門にノミネートされている『リメンバー・ミー』は、メキシコ(しかもガイコツばかりの“死者の国”)を舞台に、ミュージシャンを夢見る少年ミゲルが繰り広げる冒険活劇ファンタジーだ。

中南米やスパニッシュ系移民が多く暮らす土地では、毎年10月末〜11月頭の「死者の日」にお祭が開かれるが、中でもメキシコは盛大だ。町中にガイコツの仮装をした人々やオブジェが溢れて大賑わい。その日でなくとも、メキシコ(や、メキシコに近いアメリカ西南部)に旅をすると、カラフルなガイコツの人形や雑貨に目を奪われる。古来、亡くなった人間のガイコツを飾る習慣があったメキシコにおいては、生まれ変わりの象徴でもあるという。決して恐しかったり、忌み嫌われるような存在ではないのだ。

主人公の天才ギター少年のミゲルは、早逝した国民的歌手エルネスト・デラクルスに憧れを抱き、ミュージシャンを夢見ている。ところが、ミゲルの高祖父(お爺ちゃんのお爺ちゃん)がかつてミュージシャンであり、夢を追うために家族を捨てたからという理由で、家では音楽を聴くことも奏でることも禁止されていた。だからミゲルは、こっそり隠し部屋でギターを練習していたのだ。

『リメンバー・ミー』
3月16日(金) 公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

死者の日に開催される音楽コンテストに出場したくても、家族のOKが出るわけもなく、ミゲルはしょんぼり。こっそりコンテストに出ようと思っていた彼のギターも、祖母に壊されてしまった。そこで、1枚の写真をきっかけに自分の高祖父がデラクルスかもしれないと思い始めていたミゲルは、そのお墓に忍び込みギターを拝借しようと企てる。「親戚だからいいじゃないか」と勝手に決めて。するとギターを手にした瞬間、ミゲルは“死者の国”に迷い込んでしまった。極彩色に彩られた世界には、個性豊かなガイコツたちがゾロゾロ!

『リメンバー・ミー』
3月16日(金) 公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

物語の鍵となるナンバーを「レット・イット・ゴー」の作者が担当

“死者の国”で、亡くなった親戚らにも会えて楽しい時間を過ごすミゲルだが、日の出までに生者の国に戻らなければ永遠に家族に会えなくなってしまう。生者の国に戻る術はただ一つ。マリーゴールドの花びらを持った祖先に赦しをもらい、花びらを渡してもらうこと。ミゲルは花びらを持っている高祖母イメルダに赦しを乞う。しかし、一族に音楽禁止の掟を作ったイメルダは「赦しが欲しければ音楽をやめろ」と言う。音楽をやめたくないミゲルは、デラクルスならそんなことは言わずに赦しをくれるだろうと、デラクルス探しを決意。

一方、死者の日には、死者も生者の国に戻っていくことができる。だたし、それには条件があって、当日の祭壇に自分の写真が飾られていなければならない。ミゲルが出会った陽気なガイコツ、ヘクターは、なんとか生者の国に帰りたいと願っているが、ままならない。このまま写真を飾ってもらえず、家族に忘れられてしまうと、へクターの身にも大変なことが起きてしまうのだ。

デラクルスに会って花びらをもらい、現世に戻ってミュージシャンになりたいミゲルと、家族にもう一度会いたいと願うヘクター。ふたりの大冒険には、あっと驚く結末が待っていた。鍵を握るのは、デラクルスの代表曲で、ミゲルが大好きな「リメンバー・ミー」という曲。愛する人への思いを切々と綴ったこの曲を書いたのは、『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー」を書いたロバート&クリステン・アンダーソンのロペス夫妻だ。

『リメンバー・ミー』
3月16日(金) 公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

夢のように美しい色彩だからこそ、孤独の色も際立つ

ヴィヴィッドな色で塗り込められた死者の国は、テーマパークのような楽しさと華やかさに満ちている。けれど、そんな華やかさの中を探っていけば、さまざまな家族のさまざまな問題が潜んでいる。夢のように美しい色彩に目を奪われるからこそ、お調子者のヘクターが内に秘めた孤独の色は一層暗く沈んで、ヴィヴィッドな世界とのコントラストを鮮やかにする。

映画の終盤、何十年、何代にもわたってミゲルの家を苦しめた、ある問題が解決するに至り、家族は本当の意味での再生を果たす。お互いの意思を尊重し、励まし協力し合うという、理想の家族像が最後には描かれることになる。

と同時に本作には、12歳の少年が自分のルーツを探求し、行く手に困難があったとしても、ひたむきな情熱を胸に夢に向かうという成長物語の要素もあり、個人的にはそこが特に気に入っている。しかもこのミゲル、ちょっとずるかったり、考えなしだったり、やんちゃだったり、“できすぎくん”でないのがいい。「ずるをしたらどうなるか」という教訓をいいトシして学ぶというのもどうかと思うけれど(苦笑)。