視線で人を操り、死に導く男の暗躍を描くスリラーエンターテインメント映画『不能犯』で、主人公のダークヒーロー宇相吹(うそぶき)を演じた松坂桃李が、デビュー作での戦隊ヒーロー体験をふまえて、現在にいたる自身の挑戦を語った。

周囲を客観視していた

Q:演じられた宇相吹はどこか人間離れした男でしたから、演じるのは難しかったのではないですか?

宇相吹は人間の欲や業が作り出した存在です。そういうものを大きく抱えた人間たちだけが見えるような存在になれればという意識を持ちつつ、それをどう形にして表現するかは、難しかったですし、楽しくもありました。具体的に言うと、動きや歩き方を工夫しました。スーッと現れてスーッと消えるような感じ。それに(白石晃士)監督が足音を消したりライトを暗い感じにしたりという演出を加えてくださって、存在があやふやな人間味を消した感じが、うまく形になったと思っています。

Q:宇相吹は人間ではないんですか?

僕の解釈ではそうです。人が作り出したもの。人間じゃないものを演じるのは難しいですね。いまのところ、宇相吹とくまのパディントンくらいです(笑)。

Q:これまでの作品とは違ったアプローチで参加されたのですね。

違っていました。特に宇相吹の場合、愚かな人間をいざなうという役回りなので、普段よりも周囲を客観視していました。宇相吹の動きは主観ではないです。そういう角度で入る作品は初めてだったので、新鮮で面白かったですが、共演者の皆さんとはあまりご一緒できませんでした。依頼人が亡くなったところで現れて、警察が来る前に帰るという、誰にも会わない役ですから(笑)。人とのキャッチボールがない役で、お芝居を共有するとか、その場で作り上げるというのとは無縁でした。

「シンケンジャー」で得たもの

Q:現在、多くの作品でご活躍中ですが、2009年のデビュー作「侍戦隊シンケンジャー」のころ、こうなることを想像されていましたか?

まったく。微塵も思ってなかったです。「シンケンジャー」が終わったら休学していた大学に戻るつもりでしたから(笑)。その後、いろいろな作品で出会いや経験を重ねて、だんだんと「この仕事、面白いな」と思うようになりました。その割合が大きくなったのは、映画『僕たちは世界を変えることができない。 But, we wanna build a school in Cambodia.』に参加させていただいたときです。初めての海外ロケ、自分としても初海外だったのですが、カンボジアで撮影しました。お芝居ってこんなに楽しいんだって思いました。続けていこうという覚悟につながりましたね。もちろん、「シンケンジャー」で学んだことがあったからこそですが。

Q:戦隊シリーズの撮影現場では、具体的にどんなことを学びましたか?

戦隊の撮影現場はすごく強い縦社会で、いわゆる体育会系です。僕は学校ではバスケをやっていましたが、それよりもずっと規模が大きかった。歴代の特撮を撮っていらっしゃる大ベテランのカメラマンさんがトップにいて、監督さんやプロデューサーさんよりも、その方が一番撮影現場をピリッとさせてくださいました。礼儀といいますか、古き良き伝統のあるべき姿といいますか、そういうものを肌で感じることができた1年間で、非常にいい経験になりました。それは今にもつながっていて、撮影現場に入るときのスタンスとして、とても役に立っているのでありがたいです。

Q:逆にほかの撮影現場で、「あれ?ちょっと通じないぞ」と思うものはありますか?

細かいことで言うと、お芝居の組み立て方は違います。戦隊の芝居はある種歌舞伎みたいなもので、見得きりが大切。これは、普通に舞台やドラマや映画で演技をするのとは、ちょっと種類が違うと思います。

Q:宇相吹の芝居には様式美みたいなものがあると思いますが、つながりはありましたか?

うーん……ないですね。宇相吹はヌルヌルしていて、戦隊はシャキシャキしているので。擬音語でしか表現できなくて、すみません(笑)。

いい再会ができる俳優に

Q:NHKの連続テレビ小説「わろてんか」をはじめ、ドラマ「ゆとりですがなにか」、映画『キセキ −あの日のソビト−』『ユリゴコロ』『彼女がその名を知らない鳥たち』そして本作と、近年演じられたのはすべて違うイメージの役ですね。

僕はいま29歳ですが、20代後半から、色の違う作品をいろいろやろうとマネージャーさんと話しました。30代になってもこの仕事をやっていくために必要だと思ったからです。年齢を重ねていくと演じられる役の幅が決まってくるから、20代後半でいろんな扉を開ける作業をやっておかないと。

Q:扉を開ける作業は面白いですか?

大変ですけど、面白いです。やりがいがあります。こういうチャンスをくださる方々に感謝しています。

Q:目標はありますか?

明確なものはないんですけど、こういう仕事を続けていくと、出会いよりも再会が増えてくると思うんです。胸を張って「お久しぶりです」って言えるような、いい再会ができる俳優になりたいですね。いまは、いい再会のためにたくさんの出会いをしていかないといけない段階だと思っていますので、その意味でも、今回の宇相吹役はとても新しいチャレンジでした。

取材・文:早川あゆみ 写真:日吉永遠