2月24日公開の『ザ・シークレットマン』の舞台となっているのは、1972年にアメリカで起きた「ウォーターゲート事件」です。当時FBIの副長官でありながら調査の内部情報をワシントン・ポスト紙にリークした、マーク・フェルトの視点から事件を追っています。

“アメリカ史上最大の政治スキャンダル”といわれているだけに、この事件は過去にも複数の映画が題材にしてきました。ウォーターゲート事件とは一体何だったのか? 未だ人々の関心を引き付けてやまない事件を、映画を通してさまざまな角度から見ていきたいと思います。

ニクソンが考えた“正義のあり方”とは?…『ニクソン』(1995年)

ニクソンの半生を追うことで、彼がなぜウォーターゲート事件に関わることになったのかを垣間見ることができるのが『ニクソン』です。

物語はニクソンが貧しい少年時代を過ごしていた頃からはじまります。厳格な母親にしつけられ、正しくありたいと思いながらも、たたき上げであることなどから周囲に嫌われる……。彼は劣等感から、エリート一家のケネディ大統領との格差に悩む姿などが、作中では描かれています。

物語ではジョンソン前大統領が内部の会話を録音していたのを引き継ぎ、ニクソンも自分たちの会話を録音しています。その姿を見るとウォーターゲート事件の盗聴も、その延長線上にあると考え、大事になるとは思わなかったのではと思えてきます。

「正しいことを成し遂げるためには、多少の違法行為も大統領なら許される」
「大統領が命令すればメディアも報道をやめ、事件自体が忘れ去られる」

そんな風に彼は考えていたのかもしれません。彼の半生を知った後に、最後に描かれるニクソンの辞任演説シーンは、否応なしに感動してしまいます。

また、映画の中では妻・パットとの関係、国民から嫌われる姿、ベトナム戦争で分断された国内の様子なども描かれています。どこかトランプ政権を彷彿とさせて、今改めて観てみると興味深い作品です。

新聞記者の目から見たウォーターゲート事件…『大統領の陰謀』(1976年)

『大統領の陰謀』では、発端となる民主党本部への不法侵入を調べることになった、ワシントン・ポスト紙の新人記者、ボブ・ウッドワードの視点から事件を追っています。

逮捕された容疑者の持っていた住所録の名前が、ニクソン大統領の再選を目指す再選委員会に繋がっていくことに気づくボブ。ある資料の貸し出し記録について官邸図書館に問い合わせると、最初は存在を認めたものが、直後に記録がないと言われてしまうなど、作中ではサスペンス映画を観ているようなスリリングな展開が続き、その裏にある大きな力の存在を改めて思い知らされます。

国民の嫌われ者となったニクソン、その口から出た言葉は…『フロスト×ニクソン』(2008年)

事件によって国民の嫌われ者となったニクソン。実は、大統領辞任の際に謝罪をしていません。しかも、辞任直後に病気で入院していたこともあり、続いて就任したフォード大統領が、彼に恩赦を与えるのです。このことによって、彼に怒りを覚えていた群衆は、嫌悪感を一層募らせることになります。

そんなニクソンに対して、イギリスの人気司会者デビッド・フロストが行ったインタビュー番組の裏側を描いたのが『フロスト×ニクソン』です。この作品でニクソンは、たとえ負けると分かっていても討論をするのを好む好戦家として描かれています。

彼はフロストが相手ならば、自分が優位に立てるのではと考え、世間の評価を一蹴させるために取材を引き受けました。その姿には不祥事で大統領を辞職したとは思えない貫禄があり、場の雰囲気を飲み込んでいくのです。

番組の舞台裏ではフロストを支えるプロデューサーやジャーナリストなどが、ニクソンへの嫌悪感を露わにしています。ニクソンを物まねで揶揄する姿などは、「ニクソン憎し」という当時のアメリカ人の感情から離れると、まるで弱い者いじめのようにも見えるのが興味深いところです。

高潔な男は、なぜFBIの調査記録をリークしたか…『ザ・シークレットマン』

2月24日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー/(c)2017 Felt Film Holdings.LLC/配給:クロックワークス

なぜ、マーク・フェルトは“ディープ・スロート”を名乗り、ワシントン・ポスト紙に内部情報を提供したのか? それを彼の人間ドラマとして追ったのが『ザ・シークレットマン』です。

事件当時におけるマークは苦難の最中にありました。長年FBI副長官にありながら、長官の座をL.パトリック・グレイに奪われる。彼が長官になると信じていた妻とは、関係がぎくしゃくしはじめます。娘のジョアンは家出中で、マークは彼女がテロ組織のウェザー・アンダー・グラウンドの一員ではないかと心配していました。

そんな彼の人物像について、ピーター・ランデズマン監督はインタビューでこう話しています。

「アメリカ人というよりも、むしろ日本人な男なのではないかと思う。名声などを求めず、非常に英雄的な行為に及んだわけですが、アメリカ人はなにかと俺が俺がと注目を浴びたがる国民性があるが、そういう人ではなかった。非常に謙遜と高潔でもって、物事に当たった人だったので、日本人には理解できる人なのではないかと思う」

アメリカ人にとってウォーターゲート事件は、国民の政治に対する見方を変えた出来事でした。これを機にアメリカでは政治に透明性が求められるようになっていきます。それだけに、この事件は政治的にも個人的にも、あらゆる腐敗の象徴となっていると、ランデズマン監督は語っています。

“アメリカ史上最大の政治スキャンダル”を、調査を行ったFBI副長官の視点から見る。それが今回の映画の最大の魅力です。マーク・フェルトがニクソン大統領を敵に回し、どう立ち向かったのか? それをぜひ映画館で確かめてみてください。

(文/デッキー@H14)