「これはわたしの人生で事件です」。自身のSNSにそう綴ったのは、この春、AKB48グループから卒業するNGT48のキャプテン“きたりえ”こと北原里英。女優としての活躍を誓った彼女にとって映画『サニー/32』(2月17日全国公開)への出演は、まさに“事件”と呼べるものでした。

本作のメガホンを取ったのは、数々の作品で役者のリミッターを外してきた鬼才・白石和彌。鬼畜とも言える監督の要求にノースタントで応え続けた北原は「生きることを一度諦めました(笑)」と述懐するほどの熱演を披露しています。アイドルデビューから10年という節目を迎えた北原が、血だらけになりながらも女優としての第一歩を踏み出した本作、北原のぶっ壊れ方がヤバいんです!

目の焦点が合ってない…アイドルとは思えない戦慄のスマイルにゾクッ

(C) 2018『サニー/32』製作委員会

白石監督に加え、脚本に髙橋泉、キャストにはピエール瀧、リリー・フランキーという『凶悪』(2013年)のメンツが再結集した本作。小学生による同級生殺害で世間を騒がせ、ネット上で“犯罪史上、最も可愛い殺人犯”と神格化された11歳の少女“サニー”を巡る人々の狂気を、情け容赦なく描きだします。

事件からちょうど14年目の夜。北原扮する中学校教師の赤理は、ピエールとリリー扮するサニーの狂信的信者によって、拉致・監禁・暴行を受けます。2人からサニーと崇められ、正気を失いかける赤理ですが、ある出来事がきっかけで“覚醒”すると、猛然と反撃を開始。さらに門脇麦演じる“2人目のサニー”が登場し、物語は誰も予想し得ない展開へと転がり出していくのです。

状況がつかめず、混乱していた赤理が、徐々に狂気に染まっていく姿は衝撃的! タガが外れたかのように信者たちに対し、殴る蹴るの暴力を振るう赤理。大きくひん剥いた目や、わずかに口角が上がった、笑っているかのような血まみれの表情は、アイドルとは思えません。あまりの壊れっぷりには、思わず戦慄が走ることでしょう。

極寒の雪原を、限界まで歩かせる…“鬼畜ドングリ”の演出に北原も死を覚悟!?

(C) 2018『サニー/32』製作委員会

もはや演技とは思えないほどのぶっ壊れ方をしている北原ですが、彼女のこの姿を引き出した一つの要因が、過酷すぎる撮影現場です。撮影が行われたのは、雪が降りしきり、日本海からの凍てつく風が吹き荒れる2月の新潟。「やれ」と言われたら断らない覚悟で臨んだ北原は、下着姿や、女性同士のキス、極めつけはピエールに顔を舐められ、殴られるなど、過激なシーンも女優根性でこなします。

しかし、そんな彼女にとっても監禁場所の山小屋から脱出するシーンはかなり強烈だったよう。建物の2階から降り積もった雪の上にダイブし、薄手のドレスにほぼ裸足の状態で雪に体を埋めながら、必死で銀世界を分け入っていくこのシーンですが、北原は映画のイベントの際に「寒すぎて涙が出た」とこぼしており、撮影中は4回も死を覚悟したそうです。

死と隣り合わせレベルの過激な演出を行った白石監督ですが、ルーツはゲリラ撮影で知られる故・若松孝二監督です。鬼気迫る現場の臨場感を映像に焼き付ける巨匠に師事していた白石監督は、本作で若松氏が作っていたような映画の“匂い”を出すことを目論みます。

横殴りでみぞれが吹き付ける極寒の地で水に入る撮影を強行したり、限界ギリギリまで北原に雪原を歩かせたり……。あまりの鬼畜さから、ピエールらに付けられたあだ名は“サディスティックハムスター”“鬼畜ドングリ”! しかし、そんな演出の甲斐あり生み出された、観ているだけで凍えそうな迫力のある映像は、本作の地獄っぷりに拍車をかけています。

(C) 2018『サニー/32』製作委員会

ほぼ物語の時系列どおり撮影された映像を観ていくと、真ん丸だった北原の顔つきがどんどん痩せて精悍になっていくのがわかります。そして物語の中盤、北原は“覚醒”。これまでの「優等生イメージ」をぶっ壊しにかかったような彼女の演技は、10年間のアイドル生活との壮絶な決別を告げているようにも見えます。

「この映画『サニー/32』は、女優としての真価が問われる大切な作品である」とコメントを残したのは秋元康氏。女優・北原里英の真価、そして彼女の強い覚悟をぜひ劇場で確かめてみてください。

(文/バーババ・サンクレイオ翼)