文=平辻哲也/Avanti Press
写真提供=大屋尚浩 「港町キネマ通り」

厳選の9館! おすすめの“ロマンス劇場”

映画監督志望の青年(坂口健太郎)がスクリーンの中のヒロイン(綾瀬はるか)に恋をする『今夜、ロマンス劇場で』(2月10日公開)は、映画館がもう一つの主役だ。シネコン全盛期の昨今だが、全国には、恋したくなる映画館や、カップルで行きたい映画館がいくつもある。全国の映画館を紹介するサイト「港町キネマ通り」を運営する大屋尚浩さんに “ロマンス劇場”といえる、おしゃれで個性的な映画館を厳選してもらった。

大屋さんは元々グラフィックデザイナーで、本業は都内のデザインプロダクションに勤務する会社員。夏の長期休暇や週末などを使って、2000年から全国の映画館を紹介するサイト「港町キネマ通り」(http://www.cinema-st.com/)を立ち上げ、自費取材。今年18年目で、380以上の映画館を訪ね歩いた。2017年12月にはサイトの記事をまとめた「日本懐かし映画館大全」を出版。全国各地でトークイベントを行っている。

ピーク時には1週間で30館近くの映画館を訪ね歩いたというが、「今は、映画館が各地に点在していて、難しいですね」。まだ、北海道・稚内、旭川、山形など40数館、取材したい映画館はあるというが、1年のうちに “全国制覇”できる見込み。次は東欧圏の映画館を訪ね歩きたいという。まさに映画館のコンシェルジェといった存在の大屋さんが紹介するのは……。

サイト「港町キネマ通り」を単行本化した「日本懐かし映画館大全」とサイトを運営する大屋尚浩さん

最高の音響で誰もが楽しめるバリアフリー映画館

●CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)
東京都北区東田端2-8-4 マウントサイドTABATA 1F

2016年に誕生した、日本初のバリアフリー映画館。「目が不自由な方向けなので、音響が命。人気アニメ「ガールズ&パンツァー」(2012年放映)の音響監督、岩浪美和さんが音響設計を担当されていて、日本一の音響です。小川のせせらぎや風の音をきれいに再現し、森の中にいるような感じです。(物語の展開を説明する)音声ガイドは場内で流れるのではなく、椅子の脇の備え付けのイヤホンジャックから聴くことができます。オーナーの方は、こういう映画館だからこそ、健常者の方も一緒にご覧になって欲しい、とおっしゃっています」

日本一の音響というCINEMA Chupki TABATAロビー内

森の中にいるような劇場

作品ごとに黒板アートが変わる

●ユジク阿佐ヶ谷
東京都杉並区阿佐ヶ谷北2−12−19−B1F

JR中央線「阿佐ヶ谷駅」北口近く、座席数44、木のフロアが印象的な、こじんまりとしたアート系劇場。「元々、アニメーション学校の試写室を改装したので、音響設備も素晴らしいです。壁全面に描かれた黒板アートが魅力的です。上映作品に合わせて、アーティストの方が絵を描き換えています。行列ができる有名店『ジェラテリアシンチェリータ』のジェラートも楽しめます」

温かみのある木のフロア

壁一面に描かれた黒板アート

『ナビィの恋』中江監督が海外の映画館を手本に

●桜坂劇場
沖縄県那覇市牧志3-6-10

『ナビィの恋』(1999年)などで知られる沖縄在住の中江裕司監督が、かつてこの地にあった「桜坂シネコン琉映」(2005年4月閉館)を改装して運営する映画館。「1階には映画関連の雑貨売り場、カフェがあります。2階にはやちむん・琉球ガラスなど民芸品を展示、販売しています。中江監督が工房やアトリエに出かけて、購入したこだわりの数々です。監督は海外の映画祭にも参加されていますが、海外の映画館はカフェを併設したものが多く、このスタイルを取り入れたそうです。映画を観て、お茶して、近くの国際通りへ、といったデートコースができますよ」

桜坂劇場内 手前はカフェ、奥が書籍売り場

ブルーで統一された館内

日本で唯一の酒蔵映画館

●深谷シネマ
埼玉県深谷市深谷町9-12

300年もの歴史を持つ「七ツ梅酒造」の酒蔵を改装し、2010年4月に誕生。全国でも唯一の酒蔵を改装した、街の映画館。1スクリーンだが、複数の作品を上映。「映画館のない街でも映画を観られる活動をされている方が建てた本物の映画館。酒蔵の施設をそのまま残して、一つの街のようになっています。古本屋、カフェがありますので、1日中、昭和を満喫できます」

酒蔵を改装した日本唯一の映画館

当時の看板をそのまま残し、昭和の情緒も楽しめる

繊維工場をリノベーション

●鶴岡まちなかキネマ
山形県鶴岡市山王町13-36

繊維企業「松文産業」が昭和7年に竣工した旧鶴岡工場を映画館として、2010年に再生。木造平屋瓦葺きを活かしたリノベーションで、建築賞も受賞。館内には4つのスクリーンがある。「中に入ると、トラス構造の天井を見ることができ、広いロビーにはピアノもあって、演奏会なども行われています」。隣には有名なイタリア料理店「アル ケッチァーノ」の奥田政行さんがオープンした初のベーカリー「地ぱんgood -TOTSZEN terroir-」も。地元食材をふんだんに使用したパンが人気だ。

広いロビー。トラス構造の屋根が見え、奥にはピアノも

こだわりのコーヒー&陶器でシネマブレイク

●日田シネマテーク・リベルテ
大分県日田市三本松2丁目6-25 日田アストロボール2F

九州のおヘソにある人口7万人の小さな町にある個人事業の常設映画館。日田の陶芸である小鹿田焼きのカップに入れて映画館内に持ち込むことができ、映画館のオリジナルグッズも人気がある。「コーヒーにもこだわっていて、絶品。雑貨店は、日田の工芸品があり、想いが同じ、縁のある全国のクリエーターたちの作品が並んでいます。彼女が気に入ったものをプレゼントすると、いいですよ」

シネマテーク・リベルテ 外観

日本全国の作家がこぞって出品している雑貨店

まるで芝居小屋!松の廊下がお出迎え

●八丁座
広島市中区胡町6-26 福屋八丁堀本店8F

2010年、広島市の老舗百貨店「福屋」に誕生。エントランス壁面には京都東映撮影所で約20年間、さまざまな時代劇で使われ、最後に三池崇史監督の『十三人の刺客』(2010年)に登場した巨大な襖「松の廊下」がお出迎え。館内も芝居小屋のイメージで、ラグジュアリーな椅子が並ぶ。「同じ会社が経営する、近くの『サロンシネマ1・2』では、堀りごたつ風の座席でも映画を観ることができます。カップルで観るにはいいと思います」

古い映画館の面影残し、リノベーション

●豊岡劇場
兵庫県豊岡市元町10-18

昭和2年(1927年)に芝居小屋として始まった街の大衆文化のシンボル「豊岡劇場」(2012年閉館)をリノベーションし、2014 年12月にオープン。大ホールではダンス、小ホールではライブも開催できる文化の発信基地だ。生まれ変わったロビーには昔の映画ポスターや調度品が飾られ、レトロ感たっぷり。「閉館した映画館の梁や柱をそのまま残していて、雰囲気があります。昼間はカフェ、夜はバーも楽しめます」

歴史を感じさせる豊岡劇場

旧劇場のスクリーンがそのまま残る

●シアター シエマ
佐賀県佐賀市松原2-14-16 セントラルプラザ3F

佐賀は空がきれいで、熱気球が盛んな土地として有名。スペイン語の「シエロ」(空)と、「シネマ」をかけて命名された映画館は2007年オープン。3スクリーンあった映画館「セントラル・シネマ」を改装。真ん中のスクリーンを閉じて、カフェスペースに。「映画館内は、真ん中には通常のシートが配置されていますが、左右には、さまざまなタイプの椅子があって、中にはカップルで座れるシートもあります」

旧劇場のスクリーンをそのまま壁に残したカフェスペース

スクリーンの両脇には、いろんなタイプの椅子が配置されている

大屋さん特選の“ロマンス劇場”は、その成り立ち、スタイルもさまざま。いずれも“インスタ映え”するスポットばかりだが、映画館はあくまでも映画を楽しむ場。写真撮影の際は映画鑑賞同様、マナーを守っていただけたら。

大屋さんは「これまでサイトで紹介した映画館の中にも閉館したものも少なくありません。サイトや本を見て、映画館で映画を観てくださる人が増えたら、うれしいです」と話している。