文=久美雪/Avanti Press

思春期の思い出はいつだってちょっとほろ苦い。それは恥ずかしげもなく真っすぐにもがいて、誰にも相談できずにくすぶっていたからだろう。自立しきれない苛立ち、密かな性の目覚め、コントロールできない感情……。今ならきっともう少し上手くやれる。そう思えば思うほど、青春を彩るこれらパワーワードに胸が締め付けられる。

3月10日、映画『彼の見つめる先に』が公開される。目の見えない男子高校生レオ、幼なじみの女の子ジョヴァンナ、転校生の少年ガブリエル。思春期を迎えた3人が大人の階段を登っていく様を瑞々しく描いた青春映画だ。

障がい、同性愛、いじめを描いてはいるものの、物語は一貫してポジティブ。10代の頃にこの映画を見ていれば、もっと肩の力を抜けたのでは? 誰もが見たあとにきっとそう思うはず。だが、なぜそう感じるのか。その答えは監督の言葉に隠されていた。

恋する気持ちは目には見えないけれど…

左からガブリエル、ジョヴァンナ、レオ

ちょっと過保護な両親に優しい祖母、幼馴染のジョヴァンナに囲まれて過ごすレオは、初めてのキスと留学を夢見る高校生。ある日、彼のクラスに転校生のガブリエルがやってくる。目の見えないレオをからかうことなく、映画館やパーティなど、これまで経験したことのない新しい世界へと連れ出してくれるガブリエル。親密さを増す2人だったが、レオはガブリエルに恋心を抱いていることに気づく。自分に正直であろうとするレオだったが、ガブリエル、ジョヴァンナとすれ違うようになり……。

夏休みの終わり、気怠い午後のプール、自転車の2人乗り、初めてのパーティ、初めての映画、そして初めてのキス……。恋する気持ちは目には見えないけれど、レオ、ガブリエル、ジョヴァンナの一挙一投足から溢れ出てくる。

特にレオを演じたジュレルメ・ロボの演技は秀逸。さらに、英グラスゴー出身のロックバンド、ベル・アンド・セバスチャンの名曲「トゥー・マッチ・ラブ」が、その感情を後押しする。それはまるで行き場を失い、くすぶった3人の想いを代弁しているかのよう。

「上手でなくてもいい、踊るのは誰でもできる」。ベルセバの曲を聞きながらレオに踊るよう声をかけるガブリエル。思春期の苦悩は見苦しいものだが、もがいて、足を進めなくてはならない。そう、下手でも踊ることが大事であることを教えてくれる。

新しい世界の扉を開く喜びが描かれている一方で、もちろん苦悩もある。目が見えないことによる親からの過干渉、同性への恋、異性の親友……。しかし、これらの問題は特別じゃない。ハードルがちょっと高いだけ。自立や恋心、友情といった問題は誰もが経験したことがあるだろう。10代の少年少女は、親への隠し事や、人には言えない悩み事を抱えている。その普遍的な苦しみは共感を呼び、3人の心の揺れに胸が締め付けられるはず。

秘密を明かさずに対話できる話し相手

レオ、ガブリエル、ジョヴァンナ、3人が経験する喜びと苦しみからは、不思議と安心感を得られる。本作の脚本も務めたダニエル・ヒベイロ監督がその謎を紐解いてくれた。「10代であることは大変です。身体も変わってくるし、人生の変化も訪れます。加えてゲイであれば、さらに複雑さは増します。多くの若者にとって家族に悩みを話すのは怖いものですから、相談できる相手がいないことが問題なんですね。ですからこの映画では、ひとりではないんだよと話しかけると同時に、秘密を明かさずに対話できる話し相手でもあるという想いを込めています」。

そう、映画はいつも秘密の相談相手になってくれる。そのことに改めて気づかせてくれた。10代の頃に見ておけば、心強い相談相手を得て少しは救われたのかもしれない。もちろん10代から遠く離れて歳を重ねても、あの頃必死にもがいていた自分を重ねて心がチクチクしながら、懐かしい友人として映画に接することができる。秘密の相談相手として、懐かしい友人として、3人の物語は待っていてくれる。