文=平辻哲也/Avanti Press

『アメリカン・スナイパー』(2014年)、『ハドソン川の奇跡』(2016年)とリアルヒーローの真実の物語を描き続けた巨匠クリント・イーストウッド監督の最新作『15時17分、パリ行き』(3月1日公開)。2015年8月、パリ行きの特急列車内で乗客554人全員を狙った無差別テロ襲撃事件で、犯人に立ち向かった米国の3人の若者の姿を描く。イーストウッド監督は、実際に事件に立ち向かったその3人に本人役を演じさせた。ハリウッド映画史上、前代未聞の試みだ。その本人らによる、事件当時の生々しい証言をお伝えする。

テロは3日に1度、世界のどこかで起きている

2月9日、元フィギュアスケートの金メダリスト、キム・ヨナを聖火の点灯者に迎え、平昌五輪が華やかに開幕した。「スポーツと平和の祭典」の五輪だが、1972年のミュンヘン大会では、イスラエルから参加した11人のアスリートがテロで死亡する事件が発生。世界に衝撃を与えたこの事件は、スティーヴン・スピルバーグ監督が事件にフィクションを交え、『ミュンヘン』(2005年)として映画化している。

『15時17分、パリ行き』3月1日(木)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.,
VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT INC.

昨年のテロ発生件数は世界で114件(2017年11月7日現在。公安調査庁調べ)。昨年5月22日、英マンチェスター・アリーナで起きたアリアナ・グランデのコンサートを狙った無差別爆弾テロ、10月1日に起きたラスベガスでの無差別銃乱射事件など、3日に1回起きている計算だ。2020年の東京大会を控える日本も、そのターゲットになる可能性は否定できない。真っ先に犯人に突進した元米空軍上等空兵のスペンサー・ストーンも「僕たちがテロリストの攻撃に遭遇するなんて千年に一度だってあり得ない」と、今も驚きを隠しきれない。

テロに遭遇した3人が取った行動とは!?

実際、特急列車では何が起こっていたのか。

スペンサー、当時は学生だったアンソニー・サドラー、オレゴン州の州兵アレク・スカラトスは、シューティングゲームが好きな幼なじみの3人組だ。2015年、アレクがアフガニスタン駐留を終えて帰国したことを祝って、ヨーロッパ旅行へ。8月21日15時17分アムステルダム発パリ行きの高速列車「タリス」に乗った。17時49分には、列車は北フランスとベルギーとの国境を猛スピードで進んでいた。

『15時17分、パリ行き』3月1日(木)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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当時、起きていたのはアレク1人だった。「銃声とガラスが割れるような音が聞こえた。何か悪いことが起こり、列車の乗務員が駆け足で車両の前方に向かって駆け込んできた」。この騒ぎで、アレクの横の通路側座席に座っていたスペンサーが目覚めた。「アレクと僕は同時に後ろを見て、乗務員が駆け込んできた理由を発見した。ひとりの男がそこに立っていた。シャツを着ていない胸にバックパックのストラップが交差し、AK-47を構えて、典型的なテロリストに見えた」と、犯人を目にした瞬間を振り返る。

アンソニーはその反対側にいて、2人の親友が驚いた表情で座席の裏側に隠れるのを見て、何が起こっているのか状況を判断しようとしたという。「(当時の)彼らの表情は、言葉にできない。僕が振り向くと、シャツなしの男がAK-47の撃鉄を引きながら、僕たちの方に向かってきていた。男は発砲しようとしていた」と証言した。

『15時17分、パリ行き』3月1日(木)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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アレクは「これが現実で、今起こっていることだとわかるまでに半秒かかった。僕は身を乗り出し、『スペンサー、彼を捕まえよう』と声をかけた」。

スペンサーは「通路を見て『よし、やろう』と思った。僕は立ち上がり、彼に真っ直ぐ飛び掛かっていった。この男が発砲するのは十分予想できたが、銃の撃鉄を引く音が聞こえたとき、僕はただ目を閉じ、あたりは真っ暗になった」と犯人に突進した瞬間を生々しく語った。

座席の間から覗いていたアレクは「スペンサーが出て行ったのにも気づかなかった。すると、目の片隅に、犯人に向かっていくスペンサーの姿が見えた。だから僕も立ち上がった」。

2人に続いて、犯人に突進したアンソニーも「あのとき、僕の感覚は飛んでいた。それはもう、銃を持ったひとりの男ではなかった。それは、『よし、戦いだ。スペンサーが行くなら、僕は彼を助けるぞ』という思いだけだった」と話した。

3人はなぜテロリストに挑めたのか?

無我夢中の3人が突進したことで、犯人は一瞬、怯んだ。犯人の抵抗に遭ったスペンサーは首や手にカッターナイフの切り傷を作ったが、チームワークの末、犯人確保に成功。3人は仏政府からはレジオン・ドヌール勲章が授与され、さらに負傷したスペンサーにはパープルハート章とエアマンズメダルも授与された。犯人はイスラム過激派の26歳のモロッコ国籍の男だった。

『15時17分、パリ行き』3月1日(木)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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「振り返ってみると、僕たち3人は一緒にいるように運命づけられていると感じたことが何度もあった。3人とも別々の道を歩むことになったけど、(共に過ごしてきた)過去があるからこそ、僕たちは、あの日、あの列車での行動を取ることができたのだろう。何かするために必要なものがすべて完璧に揃っているような感覚だった」とスペンサーは言う。

「僕たち全員が、とても自然にそれぞれの役割を担っていた」(アレク)

「知らないうちに、あの瞬間のためにこれまでの人生で訓練してきたような感じだ。僕たちは計画を立てたりしなかった。ただなすべきことに向かっていっただけ。あの場所に3人の人生が集まり、あの瞬間に導かれるように、僕たちはこれまで異なる経験をしてきたように感じる。あとは、3人が互いを支え合い、ベストで臨むだけです」(アンソニー)

本物のヒーローが演じることで生み出された異次元のリアリティ

予備知識のない人が映画を見たら、巨匠がリアリティを追求するために、無名の役者を起用したと思うに違いない。それくらい演技経験のない3人はナチュラルだ。真実のドラマは、真のヒーローたちが演じることで、異次元のリアリティを生み出している。観客である我々は、まるで彼らの旅をすぐ近くで見ているような不思議な感覚を味わうのだ。

『15時17分、パリ行き』3月1日(木)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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イーストウッド監督は言う。「一般人や普通の人々がもつ、“ここぞ”というときの素晴らしい直感力を描いた物語に強い共感を抱いている。私はそのめったに起きないところに引き付けられている。物事の方向性を変える未知の要素がある。彼らは単に、ペイント弾のシューティングゲームをやりながら一緒に育ち、世界中を旅しようとした3人の友人に過ぎない。そして皮肉にも、彼らは一緒に旅し、素晴らしい時を過ごそうとしただけなのに、機敏に行動しなくてはならない、大きなストレスがのしかかる未知の状況に追い込まれる。世間が言うミレニアル世代が、ステップアップして何か途轍もないことをやってのけるとは、想像さえしていなかった。でも彼らは立ち向かった」

もちろん、テロに立ち向かうのは、容易なことではない。彼らのように行動することは難しいこともあるかもしれない。しかし、映画というメディアを通じて、事件をリアルに共有することが、次のテロを防ぐ一手になるかもしれない。