3月3日から公開の『バケツと僕!』は、「無敵のハンディキャップ」などで知られる北島行徳の小説「バケツ」の映画化作品。児童養護施設で働くことになった青年と、“バケツ”というあだ名で呼ばれている軽度の知的障害をもつ少年との友情が描かれます。劇中で、とりわけ強い印象を残すのがW主演をつとめた紘毅と徳永ゆうき。両者とも本業は歌手ですが、本作では役者としての才能を存分に発揮しています。

主人公の神島を演じるのは前川清を父に持つ紘毅

まず、主人公の神島を演じる紘毅。彼の父親は歌手の前川清で、紘毅は2006年にシンガーソングライターとしてデビュー。2010年には役者デビューを果たし、劇団☆新感線の舞台などにも出演して俳優としての活動も本格化させています。最近ではバラエティ番組に出演する機会が増えているので、テレビで目にしたことがある方も少なくないでしょう。

紘毅が本作で見せるのは、正攻法の演技。彼が演じる神島は養護施設で働くことになった新人職員です。養護施設での仕事に望んで就いた彼は、さまざまな理由で養護施設にあずけられた子どもたちの力になろうと一生懸命働きます。しかし、仕事のイロハがまだわかっていません。

右も左もわからない状態で緊張することも多く、元来腸が弱いために、すぐおなかが痛くなってしまいます。そんな気弱でちょっとおっちょこちょいだけど、まっすぐで仕事に燃える新人役を、紘毅は等身大かつ自然体で演じています。

肩に力のはいっていない紘毅の演技は、気さくで優しい神島の人物像を的確に表現。新人ならではの戸惑いの表情や、失敗したときの“やってしまった”という後悔、初々しさがストレートに伝わってきます。神島を見ていると、自身の新人時代の記憶がよみがえる……なんて人も居るかもしれません。

(C)映画「バケツと僕!」製作委員会

バケツ役は『家族はつらいよ』にも出演の演歌歌手

一方、神島と深い絆で結ばれる15歳の少年、“バケツ”こと和人を演じるのは、若手演歌歌手の徳永ゆうき。山田洋次監督の『家族はつらいよ』シリーズでは、能天気なうなぎ屋の配達員役を演じていました。ワンポイントながらその場の空気を一変させる、個性的な人物です。

今回、徳永が演じているのは軽度の知的障害がある上に、盗癖もあるというかなりの難役。演じ方によってはダメ人間にもなってしまう役ですが、徳永は愛嬌のある憎めない人物として存在させています。

なにより驚かされるのは、徳永が放つ“15歳っぽさ”。徳永の実年齢は23歳ですが、本作ではどこからどう見ても15歳にしか見えません。まだ大人になりきれていない青臭さや、同級生の女子から“ほんと男子ってバカだよね”と言われそうな、中学生男子らしい間の抜けた雰囲気を体全体に漂わせています。このハマり具合には度肝を抜かれることでしょう。

(C)映画「バケツと僕!」製作委員会

日本の社会問題を背景にしながらも、湿っぽいストーリーではない

本作では、そんな紘毅演じる神島と徳永ゆうき演じるバケツが友情を育んでいくのですが、いい意味で二人は噛み合いません。その噛み合わなさや息の合わなさがいい味になって、凸凹コンビぶりを発揮していくのです。そして、いつしか二人の行く末から目が離せなくなります。

ストーリーの背景には、親の不在、ネグレクト、貧困による虐待といった社会問題がしのばせてあるのですが、必要以上に暗い内容と感じさせないのは、常にポジティブで明るさを失わない神島とバケツの姿があるからと言っていいでしょう。

近年では、歌手がドラマや映画に出演することは、さほど珍しいことではありません。

しかし、『バケツと僕!』における紘毅と徳永ゆうきは、今後の彼らの代表作となりうるような特別な輝きを放っています。ぜひその名演技を、本作で目の当たりにしてください。

(文/水上賢治@アドバンスワークス)