トランスジェンダー女性の愛の喪失、そして再生を描いたセバスティアン・レリオ監督の『ナチュラルウーマン』(2月24日(土)公開)。来る第90回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた話題作です。今回は、本作に主演し、類まれな美貌と演技力で世界中を魅了したチリ人女優、ダニエラ・ヴェガさんに単独インタビューを行いました。

男女の性別をこえて表現したかったものーー

Q:故郷のチリをはじめ、ドイツ、ペルー、メキシコなど各国の映画賞受賞、また、アカデミー賞外国語映画賞のノミネート、おめでとうございます! いま、どんなお気持ちですか?

ありがとうございます! 明日はスペインに飛びゴヤ賞(※)の授賞式に出席する予定なんです。まだ結果は分かりませんが、たくさんの人々が『ナチュラルウーマン』を祝福してくださってとても光栄です。

※同作は第32回ゴヤ賞で「イベロアメリカ映画賞」を受賞

Q:意思の強い、それでいて悲哀を感じるマリーナの“まなざし”には心を揺さぶられました。どんなふうに役作りをしたのですか?

トランスジェンダーであるマリーナは、恋人のオルランドが死んでしまったのに、お葬式に参列することをオルランドの元妻に拒否されてしまいます。でも、「オルランドの顔を見て別れを告げる」という望みだけはなにがあっても絶対にあきらめないーー。このマリーナの不屈さを軸に役の解釈を広げていきました。すると、“尊厳、不屈、反逆性”という3つの“感情の核”にいきついたんですね。マリーナを突き動かすのは、この3つの核なんです。この3つは男女をとわず誰でも持ち合わせています。こういった感情を豊かに表現すれば、きっと多くの人々に共感してもらえるのでは……? と思いました。

Q:トランスジェンダーを取り巻くチリの政治的/社会的環境はどのような感じなのでしょう?

私はトランスジェンダーとはいえ、自分のセクシュアリティよりも女優や歌手としての仕事にフォーカスしてきました。ワーカホリックだとみんなに呼ばれるぐらい(笑)。実はあまり、自分がトランスジェンダーだと意識したことはないんです。ただ、(チリでは)映画のマリーナのようにパートナーが急病で倒れたとしても、家族や配偶者として認められません。トランスジェンダーの法的な権利はなにもなく、まったく守られていない状況にあります。

ダニエラに内緒で脚本を書いていたセバスティアン・レリオ監督

Q:ダニエラさんは当初、セバスティアン・レリオ監督が脚本を書く上で、トランスジェンダー女性のコンサルタントとして映画作りにかかわったと聞きましたが。

ダニエラ:そうじゃないんです(笑)! 監督がトランスジェンダーの脚本を書いているなんて知らずに1年ほど友人としてお話をしていただけ。そうしたらある時、脚本が送られてきて、マリーナを演じてほしいと頼まれたんです。私が脚本に影響を与えたかどうかは、監督ご本人にぜひ聞いてみてください(笑)。

この作品は「死によって分かたれた愛の物語」です。観客のひとりひとりが、映画の登場人物の誰の立場によって観るかで、感じ方や問いかけが違ってくる物語だと思うんですよね。マリーナに共感する人もいれば、オルランドの元妻に共感する人もいるかもしれない。「価値のない愛なんてあるのか」「愛の価値は誰が決められるのか」……。そういった問いかけに耳を傾けて、皆さんがそれぞれに答えを見つけてくださったら嬉しいです。

“人生の決断”さえすれば誰でも結果がついてくる

Q:映画で素晴らしいオペラの歌声を聞かせてくれましたね。子供のころからオペラを学んでいたとか。

オペラは祖母の影響で8歳から始めました。祖母は目が見えなくて、いつもオペラを聴いていました。そして、「音を見るように」といつも私に言っていたんです。だから、“オペラの音”から想像する情景について祖母と話し合いながら、家で一緒に歌うのが日課でした。ある日、祖母の家を通りかかった人が私の歌声を聴いて、「そんなに歌が好きならコーラスに入らないか?」と誘ってくれたんです。それがきっかけで子供の頃はずっとコーラスグループで歌っていました。そのうちに、父親がオペラの個人教授をつけてくれて、歌というアートが私の生きがいとなったんです。

Q:映画内ではマリーナがトランスジェンダー女性として、周囲から様々な差別や嫌がらせを受けますよね。ダニエラさんにも似た経験があるのでしょうか?

そうですね、マリーナが受けた差別とは違う形の暴力を学生時代に受けたこともあります。だからこそ、私にとって自分が生きていく上で、アートは必要不可欠だった……。アートとは、差別や暴力といったネガティブな出来事でさえ受け入れて、創造に昇華するプロセスだと思うんです。もちろん、ネガティブなことだけではなく、世のなかの美しいことや自分が感じたことも……そんな色々な経験から生まれるのがアート。そのため、私のなかでは人生の一瞬一瞬が大切で愛おしい。自分の毎日をいかに創造に昇華するかーー自分がアーティストとして生きていこうと決心してからは、そのことだけしか考えていません。

Q:演じることもアーティストとしてのダニエラさんに大切なのですか?

自分のアートの幅を広げる意味で8年前に演技の勉強を始めたんです。まずは演技学校の聴講生から始めました。ラッキーなことに1週間ぐらいで舞台の小さな役がもらえたんですね。たまたま、そこに舞台演出家がいて次の役につながり……そんなふうに幸運が重なり舞台を続けて、映画出演の2作目で本作に出会ったんです。

友人や家族のサポートがあったからこそアートを続けてこられたのですが、私は「“人生の決断”さえすれば誰でも結果がついてくる」と信じています。「自分がこうなりたい」という強い決意があれば、計画しなくとも、人生が自然に未知の世界へと導いてくれるのではないでしょうか? 数年前の私には、「歌いたい」「演じたい」という強い想いしかなかった……。まさか東京に来て映画の話をするなんて想像もできませんでした!

先のことは計画しない、でも、チャレンジし続けたいーー

Q:本作に出演した後に、シスジェンダー女性(生まれ持った性別も心の性別も女性)の役で映画出演したと聞きました。今後はどのような役を演じたいですか?

『サンチアゴの7月の日曜日(原題)』というブラックコメディ映画の女弁護士役で、楽しい経験でした。先のことは計画しない性格なので、とくに目標としている女優さんや役柄などはないのですが、ペドロ・アルモドバル監督の作品にいつか出演してみたい。そして、興味深くて挑戦するに値する役ならなんでも演りたいですね! 私の性格上、きっと次もチャレンジングで難しい役になりそう(笑)。

Q:今回の来日はタイトなスケジュールだと聞きましたが、もし、オフの時間がたっぷりあれば日本でなにをしたいですか?

今回の来日では観光する時間がなくて、この映画のポスターが東京の街に飾られている様子もまだ見ていないんですよ(笑)。時間があれば草間彌生美術館に行きたいです。本当は今日行こうと思っていたのですが、今日に限って休館日で……(笑)。ぜひ次回来日した際には行きたいですね。

『ナチュラルウーマン』
(c) 2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA
配給:アルバトロス・フィルム
2月24日(土)、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

取材・文/此花さくや 写真/横村彰